第8話:生きていたんだね!

「ね、ねえ。フェルナンド。聞きたい事があるのだけれど……」

 

「ふむ……どうした?」

 

 僕はどうにか復活したらしきアリスから問い詰められていた。

 

「……わざと? ねえ、わざとでしょう? 私が今あなたに聞きたい事なんてわかりきっているのに、わざと惚けているでしょうっ!?」

 

 何やら怒り狂ったご様子のアリス。

 美人が怒ると怖いと聞くけど、今の彼女は全く怖くないな。

 

「フッ……君がこのような姿を見せるなど、非常に珍しい事だからな。……君の母である『銀の暗黒女帝』の事だろう?」

 

「なにその異名!? 私のお母様は一体何者!?」

 

 いや、本当に面白いな。

 もっとやりたい。

 

「凄い名前ですね……ぼくとしては少し親近感を覚えま……「ダークネスは黙ってて!!」……はい」

 

「クッ……いや、すまない。君を笑うつもりはないんだ」

 

「明らかに笑っているじゃない! 信じられないわよっ!!」

 

 やばい……! 

 意味深ムーブをするつもりが、アリスの騒ぎ方が面白過ぎてつい本気で笑ってしまう。

 だってこんな笑えるシチュエーション、旧世界じゃ経験しなかったから……! 

 まさか僕の意味深キャラを脅かすのがこれとは……

 

「まあまあ、落ち着くのじゃ、アリスリーゼ殿。これではフェルナンド殿も話す事も出来ぬじゃろうて」

 

 そ、村長! 

 救いの手を村長が差し伸べてくるなんて!! 

 

 というか話聞いてたんだね村長! 

 別に良いんだけど!! 

 

「ほれ、これでも飲んで落ち着くのじゃ」

 

 そう言ってロリ村長が液体で満ちたコップをアリスに渡す。

 

「はあ……はあ……あ、ありがとう。これ、何かしら? 

 

「ゴブ茶じゃ」

 

 ……ん? ……聞き間違いかな? 

 

「……? ああ、昆布こぶ茶ね。地図で見たけれど海が近かったものね」

 

「海? 何故いま海の話を……。まあ、よい。滋養に効くからグイッと飲むのじゃ」

 

 止める間もなく、アリスが口に持って行き。

 

「(ゴク……)……独特な味だけど、悪くないわね。ミルネン、ありがとう」

 

 ……ふむ。

 

「あの、フェルナンドさん。ぼくの聞き間違いじゃなければミルネンさん、ゴブ茶って……」

「ああ。私にもそう聞こえたな」

「……材料は……」

「知るべきではない知識もあるという事だな」

 

 奴らの呼び名は小鬼なのに、お茶にする時はゴブ茶なんだね。

 というか、どうやって奴らをお茶にしているんだろう? 僕の知るお茶って『そういう感じ』の飲み物じゃなかったような気がするんだけど。

 まあ何でも良いけど、僕はこれからエルフもとい長耳族から出されたお茶は決して飲まない事を心に誓った。

 

「なあ、アリスは一体どうしちまったんだ? 昨日以上に怒り狂ってなかったか?」

 

「水の賢者様は一体……」

 

 ん? ああ、君たちカルロスと孫娘も居たんだね。

 すっかり存在を忘れてたよ。

 

「フッ……気にする事はない」

 

「いや、確かに騒いだのは私が悪いけれど、あなたは気にしなさいよ……」

 

 いつものように僕の事をジト目で睨んでくるアリス。

 でもこんな感じで彼女が騒ぐなんて、本当に新鮮で面白い話だからね。

 記憶を消して柵を無くすというのはやはり素晴らしい施策だと思うよ。あれで意外と民主的だった『天理の賢者』が珍しく強く主張していた理由をまざまざと体感している気分である。

 

 ……というかさっきはスルーしたけど、孫娘が言ってた水の賢者様とは一体? 

 アリスはそんな優しい存在ではなく破壊の賢者とか呼ばれるヤバい奴だよ。

 この新世界では旧世界の頃と比べて明確に優しくなっているとは思うけど。

 

「ま、まあまあアリスさん。その異名やフェルナンドさんの言動を鑑みるに、恐らくアリスさんは正義側だったのでしょうし……」

 

 僕は頷いてから。

 

「何が正義なのかは世情や立場などによって如何様にでも変わり得るがな」

 

「何故かフォローした相手がぼくの敵に回った!? 昨日から思っていましたが、フェルナンドさんってかなり天然ですよね!?」

 

 失敬な。

 この僕の一体どこがどう天然だというのか。

 僕は天然キャラなどではなく意味深キャラだ。

 結局今回もなんだかんだ誤魔化せそうだしね。

 

「異名に正義側……? 本当に一体何の話してたんだ……?」

「さあ……? どうなんでしょうね?」

 

 ん!? 

 今、小声であの孫娘が何か言ったような気がするんだけど!? 

 気の所為……だよね? うん。きっとそうだ。

 

 

 気を取り直して。

 

「ふむ……周囲が騒ついているな」

 

「ん? あー……そうね。はあ、タイミングの悪い連中……」

 

 なんか小鳥が逃げ出したりしてるのを見た僕がそれらしい事を言ってみると、ゴブ茶を飲み終えたアリスが敵襲を感知したらしい。

 この魔境でも小鳥なんていうまともな生物が生きてるというのには少しびっくりだけども。……まあ地面やら木やらを見ると普通の虫は居るし木の実もちゃんとあるから、小鳥の食料は十分あるんだろうけど。

 

「昨日もでしたが、フェルナンドさんってそういうのに気付くの早いですね。何かしらの能力なのですか? ……聞いた瞬間あれですがちょうど今、ぼくも敵意を感知しました」

 

「いいや。君の物とは違って単なる経験則だよ。終末世界を生き抜く為のな」

 

 1000年前では、こういった危機察知能力は僕みたいな奴が生き抜くには必須だったからね。仮に外れだったとしても死ぬ事はない以上、警戒して損は無かった。

 

「へえ……やっぱ只者じゃねえな。それより、打ち合わせ通りに行くか?」

 

 作戦を僕とダークネスに聞いてくるカルロス。

 僕は例によって何も言わずにダークネスを見つめると。

 

「そうですね。カルロスさんが前衛でエカテリーナさんが補助、後衛をアリスさんとミルネンさん。撃ち漏らしや背後対策をぼくとフェルナンドさんで行きましょう」

 

「おし! じゃあさっさとやってやろうか!!」

 

 未だ2日目なのにすっかり軍師役が板について来たダークネスの指示に従い、戦闘態勢に入る。

 まあ、正直言って全部アリスに吹き飛ばして貰うのが多分一番安全で楽な作戦なんだけど……それだと他の面子の戦闘経験が得られないからね。

 

 

 という事で、僕たちの目の前に現れたのは。

 

『ガルルルル……』

 

 おお、僕が見知った感じの狼だ。

 普通に凶暴で、群れを成して他の動物や人を襲う。終末世界で極々ありふれていた狼。

 かつては連中もこんな感じじゃなかったらしいけど、今となってはその『かつて』とは一体何年前だ? という話である。

 君たち、1000年生き延びたんだね(感動の再会)。

 

 それはともかく、小鬼やら悪魔やら長耳族みたいな謎生物だけじゃなくて、ちゃんとこいつらやさっきの小鳥みたいな普通の生物がいて安心したよ。

 

 まあ、末路は同じだけどね(長耳族は殺してないけど)。

 

「オラァ! ……やっぱ武器がまともだとやりやすいぜ!!」

 

『ガ……』

 

 見敵必殺という事で、カルロスが狼の首を村から貰った剣で1撃で斬り落とす。

 ダークネスから第一陣がどこから来るかは教えて貰っているからね。

 やはり彼の悪意探知はこういった視界の悪い森でも先手を譲る事のない極めて優秀な能力だ。

 不意打ち警戒もかなりし易くなるし。

 

 戦闘において最も重要なのは、先手を取って相手に何もさせずに殺す事だからね。

 相手の出方を見るなんてのは余程こちらが格上でもない限りは避けるべきで、奇襲、不意打ちを如何にするのかが肝心だ。

 殺し合いにドラマなど不要なのである。

 

 まあ、あまり能力に頼り過ぎるのは良くないというのは、とある愚者の大失敗エピソードによって旧世界における常識ではあったから、僕は一応警戒しているんだけど。

 

 そうして、第二陣第三陣が来て。

 

「どんどん湧いて来やがったな! しばらくは狼肉が腹一杯食えそうだ!!」

 

 うーん。この蛮族。

 むしろこうしてみる限り案外、この有り余る体力を以て水を得た魚のように剣をブンブン振りまくってるカルロスこそが、新世界に一番適応していると言えるのかもしれないけど。

 

「援護します、英雄様!」

 

 そう言って弓矢を放ったり小さな火の玉を撃ったりする孫娘。

 

『ガルッ!』

『ギャッ!?』

 

 孫娘の攻撃は素早い狼には当たったり当たらなかったり。

 しかし1撃で仕留められた狼は居なかった。

 

「ラアッ!」

 

 とはいえ流石に隙は生まれるから、そこをカルロスが仕留めていく。

 うーん。孫娘は……まあ特に言う事はないかな。

 

 村長の方を見てみると。

 

「……『風の刃よ敵を穿て』!」

 

『ギッ……!」

 

 彼女の魔法も1撃で狼を抹殺出来ているわけではないが、広範囲風魔法で奴らの脚を傷付け、封じる事には成功していた。

 そこを

 

「ありがとうございます! 『ライトニング』!!」

 

 ダークネスが撃ち抜く。

 

 うん。やっぱ村長って結構やるよね。

 年の功もあれば、そもそもの戦闘センスが結構あるように見える。

 

 ダークネスもすっかり『ライトニング』を使い熟しているようだ。

 いくら村長の援護があるとはいえ、今のところ百発百中で全て1撃必殺だからね。

 少なくとも今の彼を見て、事実上の初陣が昨日と考える人はなかなかいないだろう。

 

 ダークネスの戦闘センスがこんなに凄いとは知らなかったけど……まあ、分野は違えど彼が世界屈指の天才だった事は間違いないから、そうおかしな話ではないか。

 

 そのため。

 

「私は……今回は不要みたいね。まあ、良いでしょう」

 

「君には余計な世話だろうが、念の為に警戒は怠らないようにな」

 

「それは勿論よ」

 

 こんな感じで僕とアリスは後方見守り役をしていた。

 僕は今回に限らず、これから毎回こんな感じのスタイルで行く予定である。

 アリスは……きっと次からは我慢出来ずに無双しまくるだろうね。性格的に考えて。

 

 

 

 そうして、狼たちを無傷で片付けてから。

 

「それにしても、揃いも揃って歯応えのない奴らね。この辺の生物ってみんなこうなの?」

 

 自らが戦いすらしていないのに全滅した狼たちをこき下ろすアリス。

 そんなに暴れたかったんだね。

 ストレスでも溜まってるの? 

 

「中央から南に離れる程に弱き生き物が住み着くようになるからの。その分、土地から採れる物の品質も落ちるため、強者は中央に集うが道理よ」

 

 村長はそう言ってから苦々しげに顔を歪めて。

 

「しかし、南東の果ての地だけは別じゃ」

 

「……? どうしてよ」

 

 僕たちはその南東から来たわけなのだけど。

 

「あの地には、恐るべき魔が棲みついておるからじゃ。ワシの知る限り奴は決してあの地を離れぬが……我らの命はいつだってそんな奴の気まぐれ一つで潰えたじゃろう」

 

「そう、ですね……小鬼だけならば、こちらから討って出ればある程度討伐出来るのですが、あの魔は……」

 

「うむ。彼の地には魔力が満ちているが故に、良き品が採れるじゃろうに……」

 

 苦しげにしながら語る村長と孫娘の2人。

 奴さえ居なければ……! って感じを醸し出している。

 けど、南東の魔って。

 

 僕と同じ事を考えたであろうダークネスが。

 

「あの、アリスさん」

 

「……わかっているわよ」

 

 うん。ダークネスの言う通り、間違いなく奴だろうね。

 でも、そうか。やっぱりあの悪魔は新世界の基準でも相当強い部類に入るらしい。

 アリスは笑いながら嬲っていたけどね。

 格上どころの話じゃなかった。

 

 そんなアリスを見てロリが怪訝な顔をして。

 

「……もしや、お主……いや、最早奴がどうなろうと詮無きこと。ワシは既に村を捨てた身であるが故に」

 

 ん? 村を捨てた? 

 どういう事? 

 

 僕がハテナマークを浮かべていると、アリスがジト目を浮かべながら小声で

 

「あなたは聞いていなかったのでしょうけど、ミルネンとエカテリーナは村を離れてミルネンのお兄さんの所に身を寄せるそうよ」

「ほう……道理で」

「……私はこうして教えたのだから、後であなたも色々聞かせなさいよね」

「フッ……そう急くな。いずれは話すさ」

「はあ……まあ別に良いわよ、それで」

 

 確かに旅立つ際に孫娘は泣き腫らしていたし、並々ならぬ決意があったんだろうけど、そういう事だったのか。

 何で村を捨てたのかは知らないし興味もないけど、村長の数々の態度に納得がいった気分である。

 

 後、だからみんなは村長の事を村長って呼ばなくなったんだね。

 実はちょっと気になってたんだ。

 

 でも、僕の中ではこのロリは村長ですっかり定着してしまったんだよなあ……

 いやまあ、まだ会って2日目だし変えようと思えば簡単に出来るけど。

 

 なんて考えていると、蛮族のカルロスが剣に付着した血を拭き終え、少し残念そうにしながら。

 

「ほーん……そんだけ強えんならちょっと戦ってみたかったな」

 

 そんな彼に対し、銀髪の蛮族はつまらなそうに。

 

「あまり大した強さじゃなかったわよ。身体が半分吹き飛んでも治る再生能力は面白かったけど、すぐにそれも衰えていったし」

 

「いえ、あの……どんな傷だろうと瞬時に癒える無限の再生能力だったような気がするのですが……というか水の賢者様、本当にあれを倒されていたのですね……」

 

 暴力的すぎる発言をするアリスに、引き攣ったような表情で話す孫娘。顔はあまり似てないけどその仕草は村長もといミルネンに似ているね。

 

 それにしても、無限の再生能力……ねえ。

 確かにあの悪魔は強かったけど、さりとてそれを僕の知る知恵者が聞いたら、無限などないとか何事にも限度という物はあるとか言いそうな話だ。

 実際、あの悪魔は無限でも何でもなくアリスの魔法で炭になったわけだし。

 

 とはいえ、あの悪魔が一体どんな生物なのか……やっぱり早く頭脳派の英傑たちともっと合流して話を聞いてみたいな。今は記憶がないとはいえ、それでも彼らならば幾らかわかる話があるだろうから。

 

 アリスもダークネスも相当な頭脳派だけど、とはいえこういうのは畑違いだしね。いくら2人でも、設備も無しに専門外の分野に対しての分析は少々厳しいだろう。

 

 そうなると……ある程度英傑たちと合流して落ち着いたら拠点を作り、研究所を建てるというのはこの新世界においてかなり優先度が高い話なのかもしれない。

 しかし100英傑が同じ所に留まるかと言われると、まずそんな事はないだろうし……難しい話だ。

 

 と、そんなこんなで

 

「さて……そろそろ次の集落じゃな。あそこはワシらの目的地と比較すると小規模ではあるが、さりとてこの付近では3番手の大きさを誇る村じゃ」

 

 僕たちは2つ目の村に到着したのである。





◾️お願い◾️


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