第3話 絶対神の妥協案
ウェルド様はじっと机上の紙を見つめる。すると、ちかくにあったペンがひとりでに動き出し、彼の考えている内容がすらすらと紙に書かれていく。数十秒もしないうちにペンは動くのをやめ、ウェルド様は神を持ち上げ私に見せつける。
「私の出す条件はこれだ」
一つ、世界の理を超越する異能を持った異世界転生者のみに限定すること
二つ、世界救済中の異世界転生者は参加しないこと
三つ、第404世界の状況を該当する異世界転生者に伝えること
四つ、第404世界救済への協力の意思を確認すること
五つ、結界を解いている間に協力意思のある異世界転生者を第404世界に送ること
六つ、協力意思のないものの異能は剝奪すること
七つ、協力意思のないものは秩序が乱れない範囲で元の世界に還すこと
「さっきは私も少しばかり興奮していたため、いささか理不尽なことを言ってしまった。ここでは全ての異世界転生者から、秩序を乱しかねない『異能力者の一斉排除』にシフトしたいと思う」
「うーん、確かにこれなら各人の意思も尊重されてますし、無駄な殺傷もない。それに、秩序が乱れたこの状況の改善もできますね。ですが、こんな緩い条件にしたら協力者が減ってしまうのではないですか?」
「なぁに、その点は心配ない。どうやら異世界転生者はおひとよしが多いようでな、きっと多くが参加することだろう。それに、異世界転生という同じ境遇の人間が集まるともなれば、興味本位で参加するものも多いだろう。参加しなければ異能が奪われてしまうのも、彼らにとってはかなりきついことに違いない。大体、8~9割が協力すると見た」
「現在2万以上の異能力者が存在しています。その中の数千人が世界救済中ですので、ウェルド様の見積もりだと1万前後が参加してくれることになりますね」
「では一部の神にも協力してもらい、早速声をかけに回ろうか」
ウェルド様はそういうと、転移魔法でどこかに消えてしまった。これから1万以上に声掛けしなければならない。私も急いで各世界を巡らなければ。
◇◇◇
「なぁに、別世界の救済じゃとぉ......?」
「えぇ」
「女神様、この老いぼれに神でも出来ぬ仕事を任せるというのか」
私が来たのは異世界召喚が最初に行われた世界。時系列順に行くのがよいと思ったが、考えてみれば当たり前、この世界を救った勇者はいつぽっくり逝ってしまってもおかしくないご老人であった。
「すみません、無茶なお願いでしたよね」
「ここまで共に過ごしてきた異能がなくなるのは少しばかり寂しいが、わしはここに残ることを選ぶよ」
「わかりました。では、あなたの異能を取り除きます」
私が老人に手をかざすと、彼から光り輝くオーブが出現しては空中に霧散する。すると、老人は眠りにつくかのように息を引き取ってしまった。彼の異能は<身体強化>という最初にふさわしいシンプルなものであった。彼はこの能力で本来の寿命を超えて生きていたのだろう。まるで私がこの手で殺してしまったかのような感覚に襲われたが、この世界の本来の秩序の中では彼はとっくに死んでいたはず。それを私があるべき姿に戻しただけと考えると、かなり複雑な気持ちになる。
序盤はこういう年寄り転生者が多かったが、世界をめぐるにつれて次第に転生者は若くなっていった。
「なんだよそれ、チョーおもろそうじゃんか!!」
異能:<光速>
彼は世界救済から10年近くたっており、世界が平和になってから少し退屈していた模様。彼は異能、<光速>によって文字通り光と同じ速度での移動・攻撃が可能。世界の理を超えた能力であり、神である私でも手も足も出ないだろう。ウェルド様が言っていたように、今や人間のほうが強くなってしまっているのかもしれない。
「では、協力してくださるということでよろしいのですね?」
「ったりめーよ」
「命を失う危険があってもですか?」
「この能力をもってして殺されることのイメージがわかねぇ。それに、俺みたいなやつがわんさかいるんだろ?危険とか気にしてる場合じゃねぇよなぁっ!!??」
すごく傲慢で怖いもの知らずだ。私は異世界転生者を一人しか知らないからわからなかったけど、各世界をめぐっていくうちに以外にもこういうタイプの転移者が大半を占めていることに私は気づかされていった。
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