異能力者の一斉排除~最近異世界転生者が多すぎるので、ここらで数を調整します~
にさご
第1話 絶対神の苦悩
「はぁ......」
全世界の頂点に君臨する絶対神・ウェルド様は報告書の束を卓上の上でトントンと整えながら、本日何度目かのため息をつく。
「私が眠っている間に、5214回も異世界召喚を行ったのか」
我々、神の仕事は世界を創造し文明を発達させ、生命の流れを見届けること。しかし最近は荒っぽい神が多く、質よりも量を求めて大量の世界を創造しては放置し、しまいには消滅を迎える。創造した世界を消滅させると重いペナルティーが科されるのだが、そこで神々の間で打開策としての『異世界召喚』が流行ったのだ。異世界転生者は神々からいわゆる『チート能力』を授かり、バランスの乱れた世界を救済し、何とか全世界の平衡を保っているのだ。
「第174023世界の地球と呼ばれる星、とりわけ日本に住んでいる者たちはやけに物分かりがいいもんで、こちらとしても非常に助かっているのだがなぁ。」
ウェルド様はポリポリと頭を掻きながら、訝しげに一枚の資料をにらんでいる。そこにはウェルド様が永い眠りから覚める間に創られた世界、消滅した世界の数などが事細かに記されている。
「3089の世界が創造され、1080の世界が異世界召喚者によって救済され、883もの世界が消滅している......。これがどういうことかわかるか、メルラよ」
突然名前を呼ばれ、ビクッと肩を揺らしてしまう。
「は、はい。流石に今回は世界が消滅しすぎかなーっと......」
今にも消え入りそうなか細い声で、何とか即席で思いついた適当な返事をする。
「そうか。お前はそう考えるのか。......まぁ、そうだな。確かに間違いではない。これも解決しなければならないことだ。だがなぁ......」
ウェルド様のイライラがどんどん増し、激しく貧乏ゆすりを始める。あぁ、これ、思いっきり怒鳴られるやつだ。
「どうして5000以上も異世界召喚を行う必要があったんだっっ!!!???」
ウェルド様の怒号によって部屋中のガラスが割れ、神界全体が大きく揺れる。私は咄嗟に防御魔法を周囲に展開し、何とか致命傷を回避した。ウェルド様はというと、その美しい髪を片手でガシッと乱暴につかみながらうつむき、フーッと息を吐いて己を落ち着かせている。
抜けてしまいそうな勢いで髪を引っ張りながら、もう片方の手の人差し指をぴんと立て、宙で半時計周りにくるくると回し始める。割れたガラスの破片はみるみると元の位置に戻っていき、気づけば悲惨な状況だった部屋はすっかり元通りになっていた。
「それになんなんだ、このふざけた異世界召喚の理由はっ!!??『間違って人間を神界に召喚してしまったので、お詫びに異能をつけて別世界に送りました』だとっ!?」
そう。ウェルド様がいなかった間に流行ってしまったもの。それは、『お詫び異世界転生(異能特典付き)』だ。万が一の時に備え、異世界召喚の練習をしていた新米神が神界に人間を誤召喚してしまう例が多発している。その他にも、危険思想を持った神が実験的に異世界召喚を行うこともある。
本来、神々は世界に直接手を下してはいけないという規則がある。これは、生命の流れや秩序を尊重するウェルド様が設けた、神界における絶対ルールだ。消滅しそうな世界の救済のために異世界召喚することは黙認されてきたが、不必要な神々の干渉がここ最近多くみられるのだ。
「おそらく、3000以上もの人間が、救済の必要もない平和な別世界に転生させられている。それも、その世界の理を覆すような異能を身につけてな」
「ですが、我々がお世話になっている日本人は温厚な性格の方が多く、異能がばれないようひっそり生きていたりするなど、異世界転生者が世界を消滅させた例はほとんどありませんよ」
「メルラよ。私は先ほども言ったように、世界の消滅云々に関して今はさほど気にしていない。私はせっかく築き上げてきた秩序が乱されていることを懸念しているのだ。それに、お前は日本人は温厚だと言っていたが、それと同時に意外と自己顕示欲が強い。実際、自らの異能をたびたびひけらかしては、その世界の文明レベルを急発展させてしまっているではないか。中には、様々な種族を隷属化しては世界中の富を独占する輩も珍しくないようだな」
今まで私は世界が消滅しないことこそが安寧だと思っていたけれど、確かにちょっとばかり度が過ぎている転生者も多いような......。なんだか、ウェルド様の言いたいことがわかってきた気がする。
「それに、違う世界の生命が入り混じっているのも混沌につながりかねん。異世界転生者が増え続けるこの現状に、何か手を打たねばな」
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