第3話
時は流れ、大学生となって上京してきたケミコ。
雨の渋谷は、人混みの作る喧騒を少しだけ和らげている。
傘を忘れて濡れた髪のケミコは、憧れだったタワーレコードへと足を運んでいた。クラッシックのコーナーは、他のポップソングとは違いエレベーターでしか行くことのできない最上階へと追いやられ、あの日の曲を探すのも一苦労していた。それでも、コーナーはまだ密かに、そして確かにあった。少しの安堵を覚えたケミコは、縦に並んだCDの頭文字を追っていく。目線の先には、狭いコーナーに似合わない大きな男性の面影があった。
それは大学生となったカイの姿であった。
『どうぞ』
男は、ケミコが少し手を伸ばさないと届かない棚の上にあったCDを取って渡した。
『ありがとう』
ケミコの耳元で、あの日の風が爽やかに流れる音が、確かにした。
曲のタイトルを少し見て、男が呟く。
『この曲、好きなの?』
『うん。昔、弾いているのを聞いたことがあるの。』
そしてケミコを見て、傘を手渡した。
『どうせ傘、忘れたんだろ?』
「あなたは、私のことを覚えてくれていた。とても嬉しかった。」
「僕も同じ気持ちだったんだよ、ケミコ。君も僕を覚えてくれていた。」
ケミコが指揮棒を振るうように滑らかに手を振ると、光るドアが出現する。彼女は少し考えこんで、それからカイに尋ねた。
「これは次へ進むための質問でもあるんだけど、どうして私が分かったの?多分あなたの角度からじゃ私は見えなかったと思うんだけど。」
「あの曲は、人前で弾いたことないんだ。あの時を除いてね。」
「それに、雨音も付いてたしね。それでピンときたんだ。今朝を忘れたあの子なんだろうなってね。」
「・・・」
「どうした?」
「なんでもない。ドアが開いたよ。先に行きましょ。」
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