不完全人間
ぽき
愚か
此の現代社会に生きている''人間''というのは実に愚かな生物であり、自分の欲望を満たす為ならば、他の犠牲を全く考えずに、弱者に対して見せかけの権力を振り翳す。それに限らず、何の努力も無しに成功する人間の裏に、どんな努力も報われない人間もいる、といった具合である。
松上心
酒と煙草に溺れる両親の元で育ち、親から目一杯の暴力と暴言だけを与えられた彼女は、外の世界の光が見えない、いわば社会の「日陰」で生きていた。休日は疎か、平日でも小学校以外では外へ出ることは無かった。彼女にとって、学校と云う場所は唯一の救いだった。
しかし、''人間''である。
中学校ではいじめの標的となり、とうとう唯一の居場所さえ奪われてしまった。「ストレスを発散したい」といういじめの主犯格の愚かな欲望のために、彼女は見せかけの権力の前にひれ伏さざるを得なかったのだ。彼女だけでは無い。主犯格の取り巻きでさえ、「自分が標的にならない為」という何とも矛盾香る理由をつけていじめに加担しているのである。「人にされたく無いことを人にするな」と云うのは彼らの為に生まれた言葉の様である。
いじめを受けても尚、彼女は学校に行くしか無かった。家での暴力、暴言から逃れるには、此処しか逃げ場がなかったのだ。
結局、この事が公になることは無く、そのまま二年生へ進級する事になる。
二年生になろうと、家の状況も学校の状況も何一つ変わらない。「何故今この世に生かされているのか?」「私はこの世に居ても良い人間なのだろうか?」そう思い悩む日が続いた。
ある日の学校帰り、彼女は''夜の街''を通った。光る桃色のネオン。歩けば妖しい目で中年男からの視線を向けられる。彼女は場違いの制服姿にリュック。迷宮に迷い込んだ様である。
何処かから音が聞こえる。
その音は、周りの喧騒に掻き消されつつ
彼女の耳に伝わる。
「蝉の声を聞く度に 目に浮かぶ九十九里浜
皺々の祖母の手を離れ 1人で訪れた歓楽街」
彼女は衝撃を受けたのだ。何だこの歌詞は、と。妖艶に響くギターの音色も、彼女の衝撃を増幅させた。彼女はすぐさま歌詞を調べた。
これが、松上心と音楽の出会いである。
歌舞伎町の女王/椎名林檎 より
歌詞一部引用
不完全人間 ぽき @poki614
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