湖の騎士ランスロットそのものだ!
反射的にハンドガンを構え、ウーゼルに向かって迷わず撃つ。
しかし、銃弾は空中でなにかに弾かれてしまう。
「動くなぁ!」
続けてハンドガンを連続して撃つ。
一、二、三、四、五……!
マガジンが空になるまで連射し続ける。しかし
「もう終わりかね? ならこっちの番だ。
ウーゼルが何気なく呪文を呟く。次の瞬間、人間大のサイズをした
まずい!
ハンドガンのリロードをしつつ、どうやって
そんな中、横になっているヴィヴィアンの姿が目に映ってしまう。
もし避けようとしてヴィヴィアンに
急いでヴィヴィアンから離れるように移動するリクロウ。そしてわざとらしく挑発をする。
「クソッタレぇ! こいやぁ!」
「は! そんなにその女狐が大切か? なら望み通り死ねぇ!」
ウーゼルは巨大な
目の前が炎の赤一色に染まってしまう。
「ぐわあああぁぁぁ!」
熱い、熱い、熱い!
思わず叫んでしまうと口の中に熱が入り込んで、より一層苦しみが増していく。
どれだけ熱に晒され続けただろうか? 気づけば
「派手にやってくれるじゃねえか……」
「そうかね? 私としてはこの程度マッチに火を付ける程度のことだが」
「言ってろクソッタレ!」
軽口を叩きながらも自分の状態を確認するリクロウ。カメレオンマントは……もう防具として機能しないだろう。ほとんど黒焦げになって、マントの布切れが身体に付いている程度だ。
嫌になるね……ってん?
カメレオンマントの残骸を剥がしながら、手足は動くか確認していると違和感を感じた。
防具であるカメレオンマントはボロボロになったのに、自分の身体は問題なく動くのだ。それこそ手足や首、胴体さえ問題ない。
「どうなってんだこりゃ」
「ふむ、確かにその通りだ。私の
リクロウの独り言にウーゼルが同意してくる。
正直なところウーゼルと会話なんてしたくもない。だけど今は少しでも情報を集めなければ。
「ご自慢の
「一応これでも魔法でテロを何度も起こしたのだがね。こんな経験は初めてだよ、さすがドラゴンの細胞を使った完全義体というわけだ」
「……どこでそれを!」
この男――ウーゼルはリクロウの身体のことを知っている!
ドクから漏れたという線は薄い。あんな変態でもドクはプロフェッショナルだ、基本的に守秘義務を守ってくれる。
それに義体に使われているアダマンタイトやオルハリコンの量からして、情報が漏れるようなことになればドクの身も危険になるはず。
いくら考えてもどうやってウーゼルが、リクロウの義体について知ったのか分からない。
「悩んでいるようだね」
「誰のせいだと!」
「私が君の義体について知りえたのは、シンプルなことさそこにいる女狐――ヴィヴィアンから聞いたのだよ」
「な!?」
ヴィヴィアンが? ありえない。
リクロウは義体の情報についてどこから漏れたのか考える際、ヴィヴィアンから漏れたとは一切考えていなかった。それは彼女を信頼していたからだ。
だがヴィヴィアンが話したという情報は、非常に大きなショックであった。
「嘘だ……嘘だそんなこと!」
燃え尽きなかったハンドガンをリロードし、ウーゼルに向かって撃つ。
しかし
続けて連射をするが、やはり
「嘘じゃないとも。彼女の頭から直接聞いたのさ」
「は?」
「知らないのかね?
「でぃ、
聞き慣れない呪文の名前に、リクロウは思わず復唱してしまう。
そんなリクロウの反応がツボに入ったのか、ウーゼルは楽しそうに杖を弄る。
「
「いくらそんな魔法があるとしても、俺の情報を正確に抜き取るなんて……」
「できるんだなぁこれが。私は
狂気が入り混じった声色で、自慢げに話すウーゼル。
実際、リクロウもウーゼルのことを狂人を見るような視線で見ている。
イカれてる……。そうだこいつはテロを繰り返すイカれ野郎だ。
「だったらそのイカれた頭、ぶっ飛ばしてやるよ!」
「は、
素早くハンドガンを構えたリクロウは、ウーゼルに向かって連続で銃撃をする。
が、やはり
だが次の策がリクロウにはあった。
そのままハンドガンを撃ちながら、ウーゼルとの距離を詰めていく。
「うおおおぉぉぉ!」
「ふん。バカスカ撃ってきても私の
余裕そうであったウーゼルの表情は、リクロウが近づくにつれて歪んでいく。
やはり近すぎると
リロード、撃つ、撃つ、撃つ。
リロード、撃つ、撃つ、撃つ。
一歩、一歩と確実に近づいていくにつれ、ウーゼルの表情が歪んでいくのが分かる。
「どうした? 顔色が悪いぞ?」
「ほざけ……
ウーゼルが
だが飛んでくる
1つ。
2つ。続けて素手で叩き落とす。
3つ。躊躇なく
4つ。ウーゼルの表情は驚きに染まっている。
5つ! 全ての
「ば、馬鹿な!? 私の
「どうせドラゴンには通じないんじゃないか? あ、試したことないか」
「この!」
安っぽいリクロウの挑発に、怒り心頭の様子なウーゼルは大きく跳躍する。
「どこに行きやがる!」
「逃げるのではない、私の切り札を見せてやろう!」
魔方陣の中で横たわるヴィヴィアンの隣に着地したウーゼル。そのまま彼女に触れ、聞いたことのない言葉を紡ぎ出す。
なんだこの言語は!?
聴覚に備わっている翻訳アプリケーションを起動させ、意味不明な言語の解析を試してみる。
「私に力を……妖精の力を……! 湖の騎士の力を!」
どうやらライブラリに該当言語があった。
古代ウェールズ語らしく、翻訳アプリケーションが自動翻訳してくれたお陰で聞き取れるようになった。
湖の騎士? どこかで聞いたような……?
急いで単語検索をするリクロウ。
「ランスロット?」
検索結果の1番上にあった単語を呟く。
伝説にある架空の騎士ランスロット。
だが魔法の存在する西暦2121年では、空想上の存在を名乗る精霊が稀に現れることがある。
ウーゼルはランスロットの精霊を呼ぶつもりか? そう判断したリクロウは、儀式の邪魔をするために銃撃をする。
「させるか!」
しかしウーゼルへ飛翔する銃弾は、途中で溶けていく。
「無駄だ! 私の周囲には高純度の魔力が渦巻いてる。そんな小口径のハンドガンで、貫通できると思うな!」
「だったら……
純粋な魔力で構成された矢を5本生成する。そして「行け!」と命じれば、
「ほう、中々威力のありそうな
「なんだと?」
笑うウーゼルの手に、虚空から軽い装飾のされた剣が生み出される。
次の瞬間、ウーゼルは剣を振るい、5本の
「嘘だろ!」
「残念ながら現実さ! 見たまえ妖精郷の秘技を! 私の技術を!」
するとフードを被っていたウーゼルの姿が、徐々に青のフルプレートアーマーへ変化していく。
今のウーゼルはまるで、おとぎ話に出てくる騎士に似た姿だ。
どうする? ここは攻めるか?
変化したウーゼルの姿を前に、リクロウの思考は戦術の変更を余儀なくされていた。
「これならどうだ!
だが3つの魔法を発動させた代償は重く、腕の血管が破れたのか血が吹き出す。
「ぐううう」
痛みで魔法の制御が疎かになりそうなのを、「ヴィヴィアンを助ける」それ一心で制御に成功させる。
炎の球体が、凍える嵐が、魔力で構成された無数の矢が、ウーゼルに向かって飛んでいく。
「言ったはずだがね……今の私は妖精郷の秘術! 降霊術の秘技の化身! 湖の騎士ランスロットそのものとなったのだ!」
ウーゼルは
勝てないのか……?
目の前の現実に、心が折れてそうになってしまうリクロウ。
そんな時、視界に横たわるヴィヴィアンの姿が見えた。
「お前がランスロットだからって、……諦める理由にならねえよ」
「なに?」
「ヴィヴィアンの前でかっこ悪い姿見せられるか! クソ野郎!」
全力の大声を叫んで、そのままウーゼルにむけて殴りかかる。
普段なら出さないような凡庸的なテレフォンパンチ。だけども放ったパンチは、ウーゼルの頭部に命中した。
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