重症そしてドクという人物
周辺の様子を素早く確認する。
動くバイカーギャングは見当たらない。が、油断は禁物だ。
「終わりましたね」
「おう、なんとかな」
後ろからコツコツと足音が聞こえてきたので振り向くリクロウ。
銀髪とスリットのすごい服が特徴的で、槍のような杖を持ったエルフ――ヴィヴィアンが戻ってきたのだ。
かなりの回数を見ているはずなのだが、何度見ても夜の職業に就いている人間に見られそうな服装だ。しかし眼福なのであえて何も言わない。
「腹も減ったし飯でも食いにいかないか?」
「いいですね。私の今日の気分は中華ですが、リクロウは?」
「中華……いいね! それじゃあ行くk……伏せろ!」
「死ねぇ!」
その時、死んだと思っていたバイカーギャングが、懐から手榴弾を投げるのをリクロウは見た。
考える余裕なんてない。無意識にとった行動はヴィヴィアンの盾になることであった。
素早くヴィヴィアンを押し倒す。
次の瞬間、爆風と激痛が背中を襲ってきた。
クッソ、痛てぇ!
思わず弱音を吐きたい。だが痛みでそれすらもできない。
「リクロウ!?」
いきなり抱きつかれたことに、驚いたような声を上げるヴィヴィアン。しかしそんな彼女の声を無視してリクロウは爆発が収まるのを待つ。
「ヒヒヒ……やった! 殺ったぞぉ!」
嬉しそうなバイカーギャングの声が聞こえてくる。
すぐに立ち上がろうとするリクロウであったが、痛みで素早く起き上がるのも難しい。
痛みで起き上がるのが辛い。が、このままなにもしなければ2人とも死んでしまう。
懐から素早くナイフを抜くと、バイカーギャングの胸に向けて投擲する。
「生きて……がぁ!?」
驚いた様子のバイカーギャングが息絶えたことを確認した次の瞬間、全身の力が抜けてそのまま背中から倒れ込んでしまう。
「キュ、
涙目のヴィヴィアンが
なんとか自分でも
くそ、死にたくないなぁ……。
そんなこと考えながらリクロウの意識は薄れていく。
*********
力なく倒れたリクロウの顔色はとても悪そうだ。
特に背中の出血が酷く、触った手が真っ赤になっている。
「リクロウ、リクロウ!」
声をかけてみるが反応はない。
医術に詳しくないヴィヴィアンではあるが、この状態は分かる。かなり危険だ。
「死なないでくださいよリクロウ! あなたが死んだら、誰が私と一緒に
リクロウの体を肩に担いだヴィヴィアンは、急いで逃走用に用意していた車に向かう。
ドクの元に行けば何かしらの治療をしてくれる筈……。
わらにもすがる思いで、助手席にリクロウを乗せたヴィヴィアンは、
『誰だい? いきなり緊急用の連絡先に繋げてくるなんて』
繋がった!
「ドク! リクロウが重症に!」
『ふーん。息をしているかい? なら
「死なせたら……恨みますよ」
『それは怖い怖い。じゃあ待ってるから急いできたまえ』
そう言ってドクは通信を切った。
ドクが運営しているクリニックは遠くではない。全速力で飛ばせば五分も経たずに到着できる。
イライラから無意識に爪を噛んでしまう。
だが苦しんでいるリクロウに比べれば、これぐらいどうということない。
「ヴィヴィアン。
弱々しい力で腕を掴まれた。すぐに横を見れば目を覚ましたリクロウがこっちを見ていた。
*********
目を覚ませばどこか嬉しそうなヴィヴィアンが、血で汚れるのも気にせず頭を撫でてくれる。
全身が刃物で刺されたように痛い……。
おそらくヴィヴィアンが
すぐさま自分で
「もう少し我慢して。もうすぐドクが受け入れてくれるはず」
「大体わかった。さんきゅーヴィヴィアン」
魔法のお陰で痛みがマシになっていく。しかし出血まだ止まらない。
このまま時間を無駄にすれば、いずれは死んでしまうだろう。
チラリと横を見れば両手で運転をしているヴィヴィアンの姿。彼女はまるで落ち着きがない様子で、こんなの彼女に弱音を吐くなんてとてもできない。
軽く深呼吸をして心を落ち着かせる。
とりあえず出血が酷い箇所を抑えてみるが、全身いたるところで出血しているようで、助手席はどんどん真紅に染まっていく。
「車、汚してわるい。今回の
「約束ですよリクロウ。死んだら絶対に許しません」
瞳を潤ませているヴィヴィアン。いや、もう既に涙が流れてたのか、涙の跡が残っている。
こりゃ死ねないなぁ……。
大体の男は美人の涙に弱いものなのである。勿論リクロウもその一人だ。
「リクロウ? 大丈夫ですか?」
心配しているのか定期的にヴィヴィアンが声をかけてくる。しかし襲ってくる痛みが酷くて、「ああ」や「うん」といった単調な返事しかできない。
すると車が急に止まった。
力を振り絞って窓の外を見れば、ドクのクリニックが見える。
「やあやあ、大丈夫そうかい? いや答えなくていい。見れば分かる」
車の扉を開けて来たのは、白衣を着た学生ぐらいの紫の髪をした若い少女……ではなくこのクリニックを運営してるドクだ。
このドクという人物。かなりの変態ではあるが、その分腕は一流で様々な人間がドクの元を訪れているのだ。
容態を確認したドクは、何も言わずに携帯している注射剤を一本刺してくる。
チクリと小さな痛みが走るが、すぐに全身を襲っていた痛みが引いていく。
「すごいなドク。痛みが引いていくよ」
「今刺したのは麻酔薬の類だから、動こうとするんじゃない。ヴィヴィアン、患者を運んでくれ
ドクの指示に従って体を抱き抱えてくるヴィヴィアン。2人はクリニックの奥へと進んでいく。
「患者の体調はすこぶる最悪だ。出血も酷ければ外傷も酷い」
ヴィヴィアンに運ばれている間も、ドクはその都度注射剤を投与してくる。だが徐々に効果が薄くなっているのがなんとなくわかる。
「魔法でなんとか傷を抑えたのですが……」
「所詮は魔法だし、君は人体のプロフェッショナルじゃないだろヴィヴィアン?」
それよりもだ。とドクは前置きをすると、こちらに瞳を向けてきた。
普段は飄々とした様子の彼女であるが、今は真剣味のあるプロフェッショナルな雰囲気を感じさせる。
「正直なところ普通に手術をしても、まともに
「な!?」
「当たり前だろ? 聞いた状況じゃ手榴弾をモロに受けたんだって? それだけの確率があるだけマシさ。でもさ100%再起できる手段があると言ったら?」
ドクの悪魔のような囁きを聞いて、2人で一緒に思わずゴクリと喉を鳴らしてしまう。
もう一度、ヴィヴィアンと
少なくともこのまま再起不能になってしまえば、ヴィヴィアンに深い傷跡を残してしまうはずだから。
麻酔で口が動かないので、ドクの腕を掴んでコクリと頷けば、ドクは嬉しそうに笑顔を見せてくれる。
「それじゃあ私の実験に協力してもらおうじゃないか」
その言葉を聞いて、一瞬早まったかと思ってしまうが、次の瞬間にはドクは再度注射剤を刺してくる。
すると麻酔か何かの類だったのだろう。再び意識が遠くなっていくの感じるのリクロウであった。
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