フラれる筈の私がなぜか溺愛されてる件
雪兎
第1話 告白
私の名は本木栞(モトギ・シオリ)。
桜ノ宮学園に通う、高校三年生だ。
私は、人に好かれる方ではない。
昔から、キモいとか暗いなどと言われ、その上可愛げもない振る舞いのため、嫌われていた。
これはもう、仕方のない事だと割り切って、心穏やかでいられる一人を選び、今まで生きてきた。
でも今日は…。
雨天の中、栞は海岸の小道に佇み、ある人を待っていた。
しかし待てども待てども、誰も現れなかった。
「フラれちゃったかな…。」
ポツリとそう言うと、栞は傘越しに雨音を聞きながら目を瞑った。
なぜこんな所で人を待っているか、全ては一カ月前に遡る。
***
栞は人の心が小さい時からわかった。
そのため気味悪がられ、いつも一人だった。
「アイツ本当にキモいよねー。」
そう本人に聞こえるように言うのは鳥羽真由美(トバ・マユミ)。
学年一のいじめっ子だ。
彼女には誰も逆らわないし逆らえない。
栞を除いては。
「ねぇねぇ!みんな集合!」
真由美がそう言うと、いじめっ子仲間達が集まりコソコソするが、心が読める栞にはまる聞こえだった。
「アイツにさ、ウチの弟と付き合わせてこっ酷くフラせるなんてどう!?」
…何考えてるのよあの女は。
栞はそう思いながら不安にかられた。
…あんな女の弟なんてどんなチャラ男か知れない。正直言って勘弁して欲しい。
そう思っていると、学年主席の間宮浩一(マミヤ・コウイチ)が真由美のグループに割って入った。
「はいはいそこまで…またお前らよからぬ事考えてるだろ?いい加減にしろよ真由美」
「えー何の事?」
すっとぼける真由美達に、浩一は深くため息をつくと、真由美を小突いた。
「ちょっと!何するのよー!」
「面倒だけは起こすなよ、俺も忙しいんだからな」
そう言うと、浩一はすぐに行ってしまった。
…どうも彼の心だけは読めないのよね。
そう思いながら、栞は本を読むフリをしてその場をやり過ごした。
***
放課後、栞は靴を履きかえようとすると、手紙が入っていた。
…また古風な事するなぁ。
そう思いながら見てみると、中はやはり真由美の弟からの呼び出しの手紙だった。
…行った方がいいよね。何かされてもやだし。
暫く迷ったが、そう思いいたり、栞は呼び出し場所の屋上へ向かった。
***
屋上の扉を開けると、そこには金髪でピアスをした少年の後ろ姿がポツンとあった。
「あの…何かご用でしょうか?」
セミロングの黒髪を風に揺らしてそう尋ねると、少年は振り返り、綺麗な青い瞳で整った顔を栞だけに向けた。その時だった。
…やっぱり可愛いな。
そんな心の声が聞こえて来たのは。
「…えっ?」
栞はその場に他に誰もいない事を確認し、空耳かと思って少年に向き直ったが、さらに心の声が聞こえて来た。
…髪の風に揺れる感じも好きだなぁ。
「…えぇ?」
栞は更に屋上を見渡したが、その場には栞と少年しかいない。
…まさか、本当に彼の心の声?私の事考えてるの?
栞は驚きを隠せなかったが、少年は真面目な顔をして言った。
「どうかされましたか?」
「…いえ、何でもないです」
栞がそう言うと、少年は少し栞に近づき頭を下げて手を出し言った。
「1年の鳥羽雅也(トバ・マサヤ)です!僕と付き合ってください!」
「…はい?」
真っ直ぐにそう言われて、栞は思わずそう言うと、雅也は嬉しそうに顔を上げた。
「“はい”って事は付き合ってくれるんですね!」
「えっ…ええ?」
「“ええ”って事はそうですよね!」
「えっ…はい…。」
勢いに押され、栞がそう言ってしまうと、雅也は飛び上がって喜んだ。
「よっしゃー!」
…え?本当に…私と付き合えるって喜んでる?
信じられないという顔で栞は固まるが、それには全く気づかずに雅也は喜びを爆発させていた。
そして雅也は少し引き気味な栞に近づくと、紙切れを渡して言った。
「これ、俺の連絡先とライ⚪︎です!いつでも連絡して下さい!」
「えっ!?…ちょっと!」
それだけ言うと、雅也は嬉しそうにしながら行ってしまった。
嵐のように過ぎ去った彼を見送って、栞は一人頬を摘むと、夢ではないのがわかった。
「変な子だったけど…悪い子ではないのかな?」
そう言いながら、栞は雅也の連絡先を見つめた。
***
栞か下駄箱の前まで色々考えながら来ると、真由美達が密かに何か思っていた。
…雅也は上手くやったかな?現場見たかったけど雅也が絶対来るなって言うからなー。
「…。」
栞は真由美の思っている事を考えながら思った。
…悪い子ではなさそうだったけど、やっぱりあの女の弟だし何考えてるかわからないな。あのはしゃぎ方も演技だったかもだし…てゆーか私、本当にあの子と付き合うの?あんなキラキラした子と…!?絶対無理だわ…!
そう思いながら、一気に緊張や不安や雅也の顔が押し寄せ栞は顔を赤くした。
「アイツ何してんの?」
「さぁ?」
その様子を見ていた真由美達は、白い目を栞に向けていた。
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