第4ラウンド
写真フォルダを見ると、俺もあの研修を思い出してしまう。
可兒はいつもあの写真フォルダを見てあの研修を思い出すと言っていてのだが、俺はそんなことはないというようなことをいつも言っていた。
俺は、あいつとの別れの後、ずっと後悔していた。あの時、素直になれなかった悔しさ、それが、俺にとっては長い間引っかかってきた、自分の悔しさだった。
可兒がいなくなってからは、自分はこの世界に生きているのは自分だけなのではないかと思った。
そして、ベッドの下に隠してある、プリクラの画像を取り出した。プリクラに映っているのは男と女一人ずつだ。
男のほうはもちろん俺なのだが、女のほうが問題なのだ、だから布団の下に隠しておいた。
独りになったのはずっと昔からだ。誰も信頼できなかった。だから俺はこの世界で一人だったのかもしれない。
そう思った。ずっと、そう思っていたのに、可兒に出会ってからは可兒のように信頼できるような人はもうこの世にはいないとさえ思った。
それは、概して間違いではなかった。
だからこそ、俺にかかわったから変わってしまった可兒に対して罪悪感もあったし、悲しさもあった。
それなのに、いつも素直になれない自分に悔しさは残っているのだろう。この電子日記にはそう書いてある。
この日記を取り続けるのには重要な意味があった。
写真フォルダも課金して拡張してある。その量は100000枚ほどあるはずだ。
瞬間に飲み感じる悲しみなどの感情も次の感情に飲み込まれて、すぐに色褪せて行ってしまう。
そんなむなしさにも、押されてしまう。
日記を読み返す。サッカーをしているときからの日記が続いている。最初の日記は、2021年10月28日から始まっていた。
「I realized that I had not been able to remember my feelings. I probably would have noticed the emotional anomaly earlier, but I had a mind that wanted to keep me unaware of it, and I never noticed it for a long time. However, I decided to write down my memories here, including feelings and events, because I didn't want to have no emotional memories. This would be an admission of my weakness, but a movie taught me that it is also important.」
これは、この時唯一上手に話すことができた、英語を使いたかったというのが本当の理由なのだが、一応、誰かが見てしまってもすぐには意味を解読できないようにという意味で英語にしている。日本語にすると
「感情の記憶ができていないことに気がついた。感情の異変に気付いたのは、もっと前だったのだろうが、自分の中で気づかないようにしたい心があり、ずっと気づくことはなかった。しかし、感情の記憶がないのは困ることなので、ここに感情と出来事を含めた記憶を書き記すことに決めた。これは、自分の弱さを認めることになるのだろうが、それも重要なことだと、ある映画が教えてくれた。」という意味になる。
ここから始まる日記にも、多くのデータがある。重要なことも、さほど重要ではないこともすべてこの日記帳の中に入っている。
日記帳が電子版であることにより日記の整理をすることができ日記の内容を重要なものから取り出しやすくなる。
5年生の時に気付いてしまった、母親の異変、6年生の時に気付いてしまった、家のおかしさ、中学校一年生の時に経験した人間の思い、中学校二年生になった時に再会した唯一信頼できる人間。
こんな大事な記憶はここに全部残されている。
あれにさえ気づくことがなければ、もっと良い人生があったかもしれない。
なぜか、ドアが開いた音がした。
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