第8話『重力井戸と曲がる空間』
第8話『重力井戸と曲がる空間』
研究所地下の隔離実験室。ユイたちは新たな装置――局所重力子制御実験機「Grav-Torus(グラヴ=トーラス)」の稼働準備を整えていた。
「……接続確認。干渉位相、安定してるにゃ」
ユイは端末に片足をのせながら、ぬいぐるみを片手に画面をじっと睨んでいる。
「ユイちゃん、こっちのセンサーにも明確な空間曲率の偏差が出てる。これは、もしかして――!」
真理が手元の量子干渉計を睨みながら叫んだ。
「そう。重力子によって局所的に時空が歪んでいる証拠にゃ」
グラヴ=トーラスは、数ピコ秒の間だけ空間を“抉る”ようにして局所的重力井戸を作り出していた。それはまさに、アインシュタイン方程式の“片側”が量子的に干渉された結果だ。
「Gμν + Λgμν = ⟨ψ̄| Ô_{grav}(x) |ψ⟩」
「これは……」
とん太が口を開く。「今までの重力方程式に、明確な“量子期待値”が組み込まれてる!これはもはや、場の理論と重力の接合点だよ!」
「にゃ。つまり、この世界の重力は“場”と“粒子”のハイブリッドでできてるってことにゃ」
重力子内包論――それは「重力子そのものが時空幾何を内包している」という大胆な仮説だった。重力が曲がるのではなく、「重力子が時空を曲げる単位素子である」という考え。
「もしそれが正しいなら……重力子を制御すれば、時空そのものを操作できるってこと?」
真理の声がかすかに震えた。
「重力場をプログラムできるにゃ。ブラックホールも、ワームホールも、もしかしたら“存在の改竄”すら可能になるにゃ」
一同に沈黙が落ちる。
それはもはや“神の領域”に踏み込む理論。
そのとき――
ズゥン……!
グラヴ=トーラスの中心が淡く揺れ、微細な震動とともに床下の鉛ブロックがゆっくりと沈み始めた。人工重力井戸。初めて人為的に“落ちる空間”が生成された瞬間だった。
「とん太、記録開始にゃ。これは歴史の一歩にゃ!」
「は、はいぃぃっ!グラビティ・リソグラフィ第1号、起動ログ取得しましたぁっ!」
「……まるで、宇宙がこちらを見ているようね」
真理がそっと呟いた。
宇宙の真理への扉は、静かに開き始めていた――。
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次回、第9話:「特異点の構築」
ユイ=クライン、重力の本質へさらに深く潜っていくにゃ。
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