虹色食堂

白絹 照々(しらぎぬ てるてる)

第1話 孤独の料理人(見習い)

ここは、群馬県内の料理専門学校。そこの学校に通っている黒髪にキレ目、無愛想なこの少年が先生に職員室に呼ばれた。


?「曇天亭(どんてんてい)っすか。」


先生「そうだ、あそこの店主が私の知り合いでね。修行先にお前を推薦したんだ。黒岩(くろいわ)の腕なら修行先にうってつけだと思うからな。」


?「(前橋・・・・・・か。実家から遠いから一人暮らし決定だな・・・・・・)」


この男の名前は「黒岩王牙(くろいわ おうが)。」料理専門学校に通う2年生だ。王牙は先生を唸らせる料理を作る天才だった。だがしかし、彼には一つ欠点があった。それは・・・・・・友達が一人もいないこと。王牙は専門学校を卒業し、先生の勧めで前橋市の定食屋「曇天亭」で3年間修業をすることが決まった。そこで王牙は近くにアパートを借りることにしたが・・・・・・。


王牙「家賃5万スか・・・・・・。もう少し安いところはないっすか?」


不動産職員「そうですね・・・・・・、ほかに安いところは・・・・・・。あっ、あったあった。ここなんてどうですか?家賃4万。1DKでお風呂とトイレが別々にあるアパート「虹ヶ丘荘」。後一部屋らしいですよ。」


王牙「平均家賃でキッチンの設備がいい・・・・・・まあこれ以上わがまま言ってもしょうがないしな・・・・・・。分かりました。ここに決めます。」


4月、こうして王牙の初めての一人暮らし生活が始まったのだった。


王牙「ここが虹ヶ丘荘か、3年間の信望とはいえ、アパートで独り暮らしだなんて・・・・・・不安しかない。」


すると後ろから女性の声が聞こえた。


?「もしかして、今日からここに引っ越してきた黒岩王牙くん?」


振り返ると、白髪のミディアムヘアの大人の女性がいた。


王牙「そうですが・・・・・・貴方は?」


羽月「あっ、ごめんごめん。まだ自己紹介してなかったわね~私はこの虹ヶ丘荘の大家の「白石 羽月(しらいし はづき)」といいます。よろしくね~」


王牙は敷地内にある虹ヶ丘荘の近くの小屋、羽月の家に招かれた。


羽月「そっか~黒岩くんはコックになるためにここに来たわけね。実家は貧乏で学費も免除で通ったなんて優秀な学生さんだったんだね~」


王牙「そこで、大家さんに頼みたいことがあります。ここの家賃、もう少し下げることはできないでしょうか?」


さすがに無理か・・・・・・。と王牙は思ったが。


羽月「わかった。じゃあ2万でどうかな?」


王牙「2万!?」


まさかの交渉を受けた羽月に驚いた。


羽月「まあいろいろ事情もあるみたいだし、これくらいなら大丈夫かな。ただし、一つ条件があります。」


王牙「その条件とは・・・・・・」


羽月「実はこの虹ヶ丘荘には黒岩くん以外に7人住んでるの、その人たちに料理を教えてほしいの。」


王牙「それが条件ですか・・・・・・」


羽月「私も何回か教えたんだけど長く続かなかったからね。若い人が教えてくれた方がわかりやすいと思うからね。」


王牙「ちなみに、大家さんって何歳なんですか?」


羽月「{にこっ}」


王牙「いえ、何でもありません・・・・・・」


羽月の笑顔に王牙は急に恐怖心を覚えた。


王牙「この虹ヶ丘荘にはどんな人が住んでいるのですか?」


羽月「そうだね、君以外は全員女性だよ。」


王牙「はぁ!そんな、聞いてませんよ!ただでさえ人付き合いが苦手なのに女性って・・・・・・」


羽月「まあそんなわけで頑張ってね。私も極力黒岩くんのサポートをするからさ。」


王牙「そんな・・・・・・とんでもない約束をしてしまった・・・・・・」


羽月「いやなら辞めてもいいんだよ。その代り家賃は4万円きっちりいただくからね。」


王牙は家賃のためなら仕方ないと思い、この条件を呑んだ。しかしこの約束が王牙の運命を大きく変えることになろうとは当時誰も思っていなかった。


王牙「とりあえず、他の住人に挨拶しに行くか、約束の件もあるしな。」


王牙の部屋は204号室。各階に4つ部屋があるので全部で8部屋ある。まず初めに隣の203号室の赤松さんの部屋に行くことに。チャイムを押すと扉の奥から女性の声が聞こえた。


沙羅「は~い、どなた?セールスならお断りで~す。」


王牙「隣に引っ越してきた黒岩王牙です。」


沙羅「あっ、ちょっと待っててね。」


ドアが開き、赤髪ショートヘアの女性が出てきた。


沙羅「初めまして、私、「赤松 沙羅(あかまつ さら)」といいます。今大学3年で20歳です。よろしくね!」


まさか隣の住人が自分と同じ20歳とは王牙は思ってもみなかった。


王牙「こちらこそよろしく・・・・・・。」


沙羅「あれ、黒岩くん表情強張っているけど大丈夫?」


王牙「(大丈夫ではないかな・・・・・・)」


王牙が強張った表情なのは理由があった。料理専門学校時代、女性より料理がうまいことから嫉妬で意地悪や避けられていたことから同年代の女性に苦手意識を持っていたのだ。沙羅の部屋に入った王牙は、沙羅に羽月と交わした約束のことを話す。


沙羅「なるほどね、家賃を安くしてもらう代わりに私たちに料理を教えるのが条件なのね。でも私は料理得意な方なんだけどね。」


王牙「じゃあ、得意料理は?」


沙羅「おにぎり!」


王牙「それくらい、誰でも出来るわー!」


沙羅「きゃ~黒岩くん怖いよ~!」


王牙「わかった、どれだけ料理ができるか俺がテストしてやる。そうだな・・・・・・

炒飯を作ってみろ。」


沙羅「チャーハン?分かった、やってみるよ。」


沙羅はキッチンへ向かった。


王牙「(そういえば女性の部屋に入ったのは生まれて初めてだな。赤松は料理ができると言ってるし、大丈夫だろう。)」


しばらくして・・・・・・沙羅が出来上がったチャーハンを王牙の前に置いた。


沙羅「はい、できたよ。」


王牙「(見た目は特に悪くない。普通においしそうだな・・・・・・。)いただきます。」


王牙は一口炒飯を食べた。すると・・・・・・。


王牙「・・・・・・。」


沙羅「どうしたの、顔が真っ青だけど?」


王牙は口の中にある炒飯という名のゲテモノご飯をどう処理することで頭がいっぱいだった。


王牙「{ゴクン・・・・・・}」


沙羅「どう?お味の方は・・・・・・」


王牙「・・・・・・ずい。」


沙羅「へ?」


王牙「不味いわ!味がごちゃごちゃで何の料理か分からねえよ!」


沙羅「そんなに不味かった?」


王牙「お前、味見したのか?」


沙羅「え?材料をぶち込んで作ったから味見なんてしてないよ。」


王牙「もういい、俺が作る!キッチン借りるぞ。」


沙羅「うっ、うん!」


王牙はキッチンに入って作業を始めた。それからしばらくして・・・・・・。


王牙「お待たせ、王牙特性レタス炒飯だ。」


沙羅の前で出されたレタス炒飯のにおいを嗅いだ。


沙羅「いい匂い。ご飯もパラパラで料理店で出されるモノみたい。」


王牙「まぁ、食ってみなって。」


沙羅「うん、いただきます。」


沙羅はレンゲで炒飯を掬って口に運んだ。


沙羅「この味は・・・・・・具材だけではなくご飯の本来のうまみがうまい具合に調和し合って、すごく美味しい!今まで食べたことのないチャーハンだ。こんなのが作れるなんて、あなた何者?」


王牙「ただの見習いコックだよ。近くの曇天亭という定食屋で3年間修業するんだよ。だからここに引っ越してきただけ。」


沙羅「へぇ、だからこんなに料理が上手なんだね。これなら私でも料理が上手くなるかもしれない・・・・・・。」


王牙は素っ気ない態度をとっているが、初めて同年代の女性に褒められて少し照れくさかった。炒飯を全部食べ切った沙羅はレンゲを置き手を合わせた。


沙羅「ごちそうさまでした。」


王牙「お粗末様。」


沙羅「黒岩くん、いや王牙くん!私に料理を教えてください!」


王牙「あぁ、そのつもりであいさつに来たからな。こちらこそよろしく。」


沙羅「ありがとう!じゃあ早速だけ・・・・・・」


沙羅が急に立ち上がったのでバランスを崩してしまった。


王牙「あぶね!」


王牙がかばおうとして、沙羅に押し倒れるような感じになってしまった。


沙羅「ごめんね。王牙くん大丈夫?」


その直後、ドアが開き緑髪の小さい女性が入ってきた。


?「沙羅さん。借りていたDVD返しに・・・・・・、って誰です?その男の人は・・・・・・」


沙羅「あっ恋花(れんか)ちゃん!えっとこれはね・・・・・・」


突然現れた謎の美少女。はたして彼女の正体は・・・・・・


第1話(完)

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