ほんの一話。

@fuibalio

1君が気付かないから。

今日も憂鬱な毎日の一つだ。

授業は淡々と進み、窓から涼しいような暖かいような風が吹いてくる。

「森立、続きを読め。」

急に自分が呼ばれ驚く。でもつかの間。よくある映画やアニメと違い、私は授業を一応耳で聞いているのだ。

「はい。主人公は常に...。」

だるいななんて思いながら読んでいると、先生が

「あ、そこまでで大丈夫。では主人公の心情を...。」

主人公の心情か。私もこんな風に誰かに一つの物語として、主人公の心情って言われるなんてこともしかしたら...そんな訳ないか。

そして放課後。今日は美月とりおちは部活なので一緒に帰れない。つまり一人だ。

そう思っていたとき、後ろから声をかけられた。

「ねぇ、森立さん!一人で帰る人いないから一緒に帰ろ。」

最近、白橋という人はよく私に話しかけてくる。別に仲良くもないのに一緒に帰ろうとしたり、この前は文化祭の役割を同じにしたりしてきた。友達も多いはずなのに。まぁ、ちょっと変わった人だ。

「え、まあいいけど。」

「あ、もし友達と帰る約束してたとかだったら全然そっち優先でいいからね?!」

「いや、今日は美月と、りあち部活だからさ。」

「そうなんだー。」

本当によくわからない。なんなんだ、この人は。

「ならよかった。」

少し不気味な笑みを浮かべる白橋。やっぱりなんなんだ、この人は。

そして、やっと駅に到着し、電車に乗る。

「白橋ってどこで降りる?」

「んー、あと5駅だよー!」

まさかの一緒?!少し最悪だと思いつつ、表情に出すのは流石に感じ悪いので適当に言っておく。

「あ、そうなんだ。私もだよ。」

「ふーん?じゃ、行けるとこまで一緒に帰ろっか。」

「うん...。」

でも意外に白橋と話していて楽しかった。

「僕こっちだけど。」

「あ、私逆なんだよねー。」

「そっか...またね!」

「うん。」

そして私達は別々の方向へ帰った。

帰り道、そう意味ではないんだけれど白橋のことで頭がいっぱいだった。

やっとの帰宅。やっぱり家は薄暗くて汚れている。

《一件の通知が届きました。》

スマートフォンにそう表示されたのでロックを解除する。

《今日はありがとう!明日はバスケ部があって一緒に帰れないけど、また機会があったら一緒に帰ろうね。》

また今度一緒に帰る...?本当に自分でもよく分からない。白橋がこんなにも自分に近づいてくる理由が。恋心?だとしたらそんなに強気で来ないよな。あと白橋が私を好きになる訳がない。作戦?企み?そっちの方が近いような気がした。

翌日。

「結衣!おはよー!」

「ゆいぴおはー。」

「美月とりあち!おはよー!」

なんとなくいつも通り過ごしていた。

その瞬間いやな予感がした。

「森立さん、おはよう。」

もう冷や汗が出そうだったし、最悪な気分だった。

「おはよう...。」

そして白橋は笑みを浮かべて去っていった。

「え、待って!ゆいぴまさかあの白橋君となんか関係持ってるの?!ゆいぴ今日からお姫様じゃーん!ねぇずーるーい。」

りおちは変なことを言う。

「違う違う!いやね?文化祭の役割が同じになって昨日話し合いしたから少ーしお互い知り合っただけ!あとクラスメイトに挨拶ってまぁ普通じゃん?」

私はとりあえず誤解を解こうとする。きっと私は必死に誤魔化しているように見えるのだろう。だけど、本当に白橋とはただ話すだけ。それ以上でもそれ以下でもない、そんな関係でしかない。

「んー?ゆいぴ様怪しいですよ?」

りおちが言う。

「本当に!逆に私みたいな地味女と白橋が関係持ってたら意味分かんないでしょ?!」

誤解を解くために一番納得しやすそうなことを言う。

「あー確かに。いや別に結衣が釣り合わないとか言いたい訳じゃなくて白橋さんとかだったら沢原さんとかマドンナ的な人と付き合ってそう。」

美月がまともなことを言ってくれる。

「でしょ?!りおちー、本当に私と白橋はただの話す関係でしかないんだってばー。」

「んー分かったよぉー。」

りおちが降参だな。

そんな不完全な恋バナをする。

「あ!私委員会で提出しないといけないのあるからちょっと行ってくるね!」

「行ってらっしゃい!」

「行ってらー!がんば!」

そして、私は教室を出て図書室へ向かう。

「ねね、なんか二組に森立結衣っているじゃん?白橋君と付き合ってて調子乗ってるらしいよ。」

「知ってるー。それで仲良い二人に荷物持たせたり、女王様気取りしたりしてるらしいよ。まじ気持ち悪いよね。」

廊下を一人で歩いていると、そんな声が耳に入ってきた。

私はまさかと思い、急いで図書室に行って帰り、二人に事情を聞く。

「えー、ウチそれ聞いたことなーい。てか付き合ってないんでしょ?しかも結衣そんなことしてなくない?美月知ってる?」

「ね、付き合ってないと思ってた。え、付き合ってるの?!」

「違う!付き合ってないの、だけど廊下で私のこと言ってて。」

早くも、デマが出回らないうちに誤解をなくさないと。

キーンコーンカーンコン

「あ!鳴っちゃったね...昼休みゆっくり話そうね!」

「うん...。」

昼休み。私は美月とりおちにちょっと待っててと言われ、本を読んで待つ。

視界の端の方で、所謂、陽キャグループと美月とりおちが話しているのを見た。

「え、そうなの?!あれ嘘だと思ってたけどひど...。」

「だからさ、懲らしめるために...。」

「まぁ、私も結構それは怒るかも。裏切られたって感じ。」

何かコソコソ話していた。

いやな予感がした。

そして、いやな予感は的中するものだ。

美月とりおちはその話が終わってもずっと私に話しかけてこない。

懲らしめるとは、無視のことなのだろう。

私は昼休みはずっと本を開いたまま、やり過ごした。そのあとの学校生活が暗闇になることも分かった。


もう、ここ最近、居場所も心も失っている気がする。白橋だけはきっとデマを知らないから、私にいつも話しかけにくる。

いっそこのデマを言って誤解を解いてもらった方が...。でも無理だった。そんな勇気は無いし、また別の噂が流れる。それに、白橋に頼ろうだなんて。

《最近顔色悪いけど大丈夫?》

《なんかあったら何でも言ってね。》

《前なんか倒れそうだったじゃん。》

そんな感じで最近心配された。

私はもう、家にも学校にも居場所がない。

こんなに辛いなら...

自尽なんてどうかな。

「うわぁぁぁぁぁ。」

幸い家に私以外誰もいなかったので自分の中だけで納めることができた。

私は、もう決めてしまった。

翌日の昼休み。誰もいないだろうと思い、六階まで駆け上がる。

やっと着いた。

きっとここが私の最後の場所。

はぁ、自分って馬鹿げるなぁ。

ゴミ箱を頭の上でひっくり返されたくらいで。お弁当を池に落とされたくらいで。無視されたくらいで。もっと苦しい人がいるはずなのに。今日が欲しかった誰かがいるのに。でも逃げるのも時には大切。もう後悔とかないし。理屈じゃ説明出来ない衝動と理屈を持つ私がずっと頭の中で喧嘩している。

もう、楽になろう。そうしたら...。

「あれ?森立さん?どうしたの、屋上になんか来てさ。泣いてる?何があったの?」

白橋はもう分かっているのだろう。私がここに来た意味が。

「そっちこ...。」

「やっと追い詰められた?」

白橋は泣きそうな、不気味な笑顔で私に近づいてくる。下がって逃げたかった。でも足が動いてくれなかった。

ドサッ

「白橋...?」

彼は泣いていた。彼の体温が温かいけど、夏だから暑くもある。

「君は居場所が僕しか無かったはずなのに、なんで僕を頼らなかったのかなって。急にこんなことしてごめんね。」

白橋は私から離れる。

「知って...たの?」

「なんでだよ。あんなに出回った噂、僕が知らないって思う?」

彼はそっと笑う。

「だけど、他の人達には誤解を解こうとしなかったんだね。」

「自分が原因だからさ。」

「どういうこと?」

「だぁかぁらぁ。」

笑いながら私に呆れたような口調をする。

「僕が色々やって噂を流したんだよ?」

一瞬、心臓が止まりそうだった。頭で理解はしているのに、感情が追いつかない。

「なんで?そんなに私を恨んでるの?何かした?ねぇ、私の人生を潰そうとした自覚あるの?やっぱり、君おかしいよ。」

「僕は恨んでもないし、人生を潰そうともしてない。僕、なんなら君のこと好きだったし。」

私は遂に感情どころか、頭すら追いつかなかった。

「どこが?自殺まで追い詰めておいて、好き?ふざけないで。私は君のこと、大嫌いになった。」

白橋はフェンスに腕をかけ、空を見上げながら言った。

「そっか。好きになってほしかったのに、大嫌いにならせることなんて、この世に存在したんだね。」

「君やっぱり頭おかしいんじゃないの?!」

沈黙が続いた。白橋は空を見上げたまま涙を流した。

「うん。」

「ごめん。」

私は謝らずにはいられなかった。

「でも...。仮に私のことを白橋が好きだとして...。」

「僕はずっと君のこと好きだった。それだけは断言できる。だからスポーツも勉強も性格も全部オールで良かったら好きになってくれるかなって。ルックスだって変えようがないかもしれないけど頑張った。」

彼は頑張った、と言っているが、もともと整った爽やかな顔は全く昔と変わっていない。

「そうなんだ。」

「君に思いが届いてなかったのは残念だけど...。」

「届いてる...。」

ボソッと言った。多分、白橋に聞こえていない。

「ずっと、ずっと君のことが好きだから。」

彼は運動神経がいいのでフェンスに簡単に上る。

「だから、僕のこと忘れないでいてね。」

泣き笑いみたいな表情でそんなことを言ってくる。

「届いてるって言ってるじゃん!」

私は叫んだ。

「白橋の思いちゃんと届いてるっての!」

「え?」

「別に君のこと嫌いじゃないし!」

私は振り絞って言った。

「私のこと、噂流して人生追い詰めておいて、また私のこと一人にするつもり?」

白橋はフェンスから降りる。

「ありがとう。」

白橋はまた私を抱き締めてくる。

「もうずっと離さないから。」

「うん、離さないで。」

私達が屋上で約束したこと、それは数十年先も、数百年先も、ずっとその先も守られるのだろう。

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