貴倫

 松島の部屋でベッドに背中を預けた松島の脚の間にりんこがちょこんと座り、毛布をかぶっている。


 窓の外では小雪が舞い降り、あたりをうっすらと白く覆い始めた。

 外も室内も静かな日曜日だ。


 二人は、あまり会話を交わすこともなく、穏やかな時間が過ぎていく。


 もう二度と会えないと諦めていた二人にとっては、一つ屋根の下にいられること、それだけで十分だった。


 りんこは、抱きかかえられた松島の腕に頭を預けてスマートフォンをいじる。

 松島は、りんこの髪の香りを感じながら、窓の外に降り積もる雪を眺めている。


「りんこちゃん」

「なに?」

 りんこがぶっきらぼうに返事をする。


「月がきれいですね」

「昼間よ。バカじゃないの。あと、あたし死んでもよくないから。長生きして貴ちゃんを看取るんだもん」

 りんこが口を尖らせる。


「それにしても色々あったね」

 松島は、倫子との出会い、そしてりんことの出会いから今日までにあった出来事を思い出していた。

「そだねー」

 りんこは、スマートフォンから目も上げずに生返事を返す。

 松島は、そんなりんこも愛おしかった。


「ちょっとのタイミングがずれていたり、いくつもの偶然がなかったりしたら、今こうしていられなかったのかもしれない」

「どうしたの今日は? なんかロマンチストじゃない?」

 ようやくりんこがスマートフォンの画面から目を外し、松島の顔を見上げた。

「雪のせいかな」

「ふーん」

 りんこは、またスマートフォンに目を落とした。


「貴ちゃんの『貴』とあたしの『倫』を合わせると『きりん』じゃん。あたしが背中に背負ってるのも麒麟。麒麟はつがいだって前に言ったよね。だから、どうやったって、何があったって、あたしたちはつがいになっちゃうんだよ」

 りんこがスマートフォンをいじりながら呟いた。

「誰がうまいことを言えと」

 松島が苦笑した。

「あ、お茶淹れるね。おいしいやつ」

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