少女来訪
警視庁の交番勤務は四部制だ。
つまり四日に一回の夜勤が回ってくる。
夜勤は、午後に出勤して翌朝、日勤帯の勤務員と交代するまでの間、交番で勤務することになる。
「四部制は日にちが早く過ぎていくような気がするね」
松島が交番の相勤員 である巡査に背後から話しかけた。
巡査は、交番の前で立番をしている。
松島が交番の中から外にいる巡査に声をかけた格好だ。
「そうですね。といっても、僕は四部制しか経験がないからこれが早いのかどうか分かりません」
巡査が屈託ない笑顔で答えた。
「長さん 、交代前に交番の掃除をしたいので、立番を代わってもらっていいですか?」
「ああ、いいよ」
松島は快諾すると、交番の前で巡査と立番を代わった。
(「長さん」と呼ばれるのは、最初は気恥ずかしかったけど、まあまあ慣れて来たな)
松島は、目の前を通り過ぎていく高校生の流れをぼんやりと眺めながら夜勤明けで眠たい目をこすった。
「あーっ! 松島さんだ!!」
突然大きな声で名前を呼ばれた松島は、一気に眠気が吹き飛んだ。
(なんだ? 誰だ?)
松島の名前を呼んだ声は、若い女性のように聞こえた。
しかもやたら元気がいい。
松島は、声の聞こえた方に視線を向けた。
「やっぱり松島さんだ!」
視線の先には、交番の近くにある高校の制服を着た女子が、自分にぶんぶんと手を振りながら小走りで近寄ってくる姿があった。
「松島さん、おはようございます! わー、やっぱり靴がぴかぴかだー」
女子高生は、松島の前まで来ると足を止めて、ぺこりとお辞儀をした。
(こんな女子高生に知り合いはいないし。一体誰なんだ?)
松島は、目の前で起こっていることが理解できず混乱した。
「あのお、どちら様でしたでしょうか?」
いくら記憶を掘り起こしても、今目の前にいる女子高生に心当たりはない。
「えっとお、あたしは西多摩高校の女子高生です! あはは、じゃあね、松島さん。あーん、妙子ちゃん待ってー」
女子高生は、松島に軽く手を振ると先を歩く友達を追いかけて行った。
「長さん、もう西多摩の子と仲良くなったんですか。これだからイケメンは……」
一連のやり取りを交番の中から見ていた巡査が松島を冷やかした。
「いや、全然そういうのじゃなくて。だって、知らない子だよ? 仲良くなるも何も初対面だし」
松島が制帽を取り、ハンカチで額の汗を拭った。
「ほんとですか? 相手の子は長さんの名前を呼んでたじゃないですか」
「それなんだよ。俺は向こうのことを知らないのに、向こうは俺の名前を知ってるという怪奇現象」
松島にとっては、本当にミステリーでしかなかった。
「あ、もしかして、長さん、援交とかパパ活やってるんじゃ……だとしたら『知ってる子』だなんて死んでも言えないもんな」
巡査が独り言をつぶやいた。
「あー、もしもし、近藤君? そういう妄想を膨らませるのはやめてもらっていいですか?」
松島が苦笑した。
「でも、さっきの子、髪は茶髪だし、ちゃんと化粧もしているみたいだったし、スカートも校則違反間違いなしくらいの短さで、かなり派手でしたよ。ギャルっぽいじゃないですか。やっててもおかしくないですよ?」
近藤も引き下がらない男のようだ。
「いやいやいや、見た目で決めつけちゃダメでしょう。まあ、それでも百歩譲ってそういったことをやっていたとしても、相手は俺では、ない」
「一体あの子は誰だったんだろう?」
二人の言葉がハモった。
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