JK総理・高峰咲奈──この国、任せてもろてエエかねぇ? ~大魔王ザイムショーと666階の緊縮ダンジョン~

どんぐり亭小平次

第1話:ギャルとおにぎりと週ポリ

「……もう、こんな時間なんじゃね」


咲奈さな はぽつりとつぶやき、リモコンを手に取った。


テレビには、映画『トーク・トゥ・ミー ~語れ、魂を~』のラストシーンが流れていた。


画面の中で、少女は誰かの“声”を探し続けている。


「しゃーないな……コンビニのバイト、シフトの時間じゃ」


ぽち。


テレビを消し、制服を羽織る。


──コンビニの自動ドアが開いた。


チリチリとした蛍光灯の光と、冷えた空気が咲奈を迎える。


レジ奥では、スマホ片手にガムをクッチャクッチャやる後輩・ルイがいた。


「あ、咲奈先輩! 今日、なんか……くらいっすね? なんかあったっすか?」


咲奈は返事もせず、レジ裏のロッカーへ。


けれど──さっきの映画とルイの一言が、胸のどこかに引っかかっていた。


制服の袖をまくり、レジに立つ。


「マジ無理なんだけど〜。またレジ番とか沼すぎるっしょ……」


TikTokをちら見しながら、レジ画面をピッピと操作。


ここは都内の片隅、ギャル的に“映えゼロ”なコンビニ。


来るのは疲れたリーマンか、なんか省庁っぽいスーツの人ばっか。


そんな時──ドアのベルが鳴った。


「いらっしゃいまっせ〜♪……っと」


現れたのは、黒いスーツの男。


背が高くて、肩幅バグってる。しかも、顔が整いすぎ。なにこのイケオジ感。


なのに圧、えぐっ。


自然と視線が、男の手元に吸い寄せられる。


片手には「鮭おにぎり」。


もう一方には──“週ポリ”。


そう、政治スキャンダル満載の『週刊ポリティクス』である。


「え〜!? 週ポリ読んじゃう系男子!? しかもシャケ!?」


「シブすぎ〜! ギャップ萌えってヤツっすよ、マジアゲなんですけど〜!」


テンション高めに絡んでみた咲奈。


男は無言で商品を置き、低い声でぽつり。


「……お前、なにゆうとんじゃ」


「え? いやいやノリっすよノリ。 JKテンションっす〜! チルってるってヤツで〜」


男の視線が、じっと咲奈を捉えた。


その目に、胸の奥がザワっとする。


「……チル? 沼?──お前、なに言っちょるんか全然分からんぞ。 まあ、ええわ」


「えっ、それガチ本音? ディスっすか? JK的にちょい傷つくんですけど〜」


「お前、名前は?」


「は? なにいきなり。名前とか聞いちゃって〜、ナンパすかぁ?」


「──いや、覚えとくけぇの」


そう言って男は、ポケットから名刺を差し出した。


高杉晋也たかすぎ しんや


防衛省──防衛大臣


「……は?」


咲奈は名刺を受け取り、固まった。


「ぼ、防衛大臣……!? マジ!? え、ガチ!? うち今さっき、“チル”とか言っちゃってたけど!? 大丈夫!? ワンチャン逮捕!?」


「まあ、ええわ。


お前、おもろいヤツじゃ。


いっぺん、防衛省に遊びに来んさいや」


「え、えええ!? 防衛省って遊園地みたいなとこだったん!? ジェットとか乗れる!?」


「……来てみりゃ分かるけぇの」


高杉は口角をわずかに上げ、名刺を置いて静かに店を出ていった。


残された咲奈は名刺を見つめながらつぶやく。


「……なにあの人。 てか、うち、やらかした? いや……ワンチャン“あり”だったんかも……」


(でも──なんか、胸の奥が熱くなったんよ)


その瞬間、彼女の運命の歯車は──静かに回り始めていた。


次は──制服のまま、防衛省へ。


第2話:名刺と迷彩と黒塗りの車


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