第二夜 余燼
それにしても見なくなったなぁ、電話ボックス。
今大きな災害が起こってスマートフォンが使用不能になったとして、親しい人に連絡を取りたくなっても電話ボックスを見つけられる自信がない。全くと言ってよいほどにない。
文明の進歩を喜ぶべきか、自分が年を取ったことを悲しむべきか。
本文中にもある通り、電話ボックスと言えば怪談界の花形と言って過言でないほどの存在ではあるけれど、近年耳にする怪談では目新しいプロットに出会うことがめっきりなくなってしまった。
そんな状況であるから、この話を聞かせていただいた時の事は随分と印象に残っている。
反面、現代的な舞台で巻き起こる怪談の数々は次から次へと絶え間なく生まれてくる。
最新の時代背景やデバイスの登場する怪談を好まれない方も一定数いらっしゃるが、個人的に今時の怪談には「まあ、そりゃそうだよね」と感ずるのみである。
我らは文明の果実を甘受する、彼らは古臭い舞台にしがみついて生きてゆけ、というのは道理の通らない話だ。
もっとも、彼らは端から生きてなどいないが。
かつて行灯の薄明かりが作る影に揺れ、古井戸の底から顔をのぞかせていた存在も、電話ボックスに潜み、ビデオテープと人との間を渡り歩き、インターネットの電子空間に漂って存在を繋ぎ止めてきた。
今や最新技術のスマホアプリにちょっかいを出し、GPSの位置情報を惑わせ、ウイルスメール伝いに伝播するのも日常茶飯事である。
そのうち空を飛ぶ車へ勝手に乗り込んできたり、火星の裏側にそびえ立つ軍事基地を徘徊したり、引き出し経由で未来から往来するロボットの背に取り憑いている彼らを目にする日がくるのかもしれないと夢想すると、何とも楽しみな気分にならないでもない。
ま、そんな時代がくる頃には、私はとっくに取り憑く側に回っているのだろうけれども。
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