その人物が置いたもの

緑龜

大きな忘れ物

 広大な土地 奇麗な自然 それにバイパス しかしそれは決して自然を蝕んだりしない もちろん多くの人が行き来する では何が必要か

 そう線路を走るあの乗り物だ


x月 1y日

 彼は急いでいた。3番ホームを降り早足で次の5番ホームへ向かう。途中自販機で足を止めようか迷ったがそんな時間はなかった。改札を抜け人込みの中をこれまた早足で歩いた。扉が閉まる限り限りで、駆け込み乗車と言われればぐうの音も出ないようなスピードを出し彼は間に合った。入ってすぐの席に腰を下ろし安堵の胸を撫で下ろす。彼が落ち着いたところで何が起こっているのか順を追って説明しよう。


数日前

 彼は友人からこんな電話が掛かってきた。

  あのさあ急なんだけど

  どうした?

  1つお願いがあって

  うんうん

  とある荷物を運んでほしいんだ

  荷物ってなんだよ

  そんな怪しい物じゃないからさ お前また今度」「に行くんだろそん時に寄った 

  っていいじゃないか

  まあそんなに忙しいわけじゃないけど

  だろ だからお願いだ

  それはいいが中身は何なんだよ

  …それは詳しく言えないんだが

  怪しいなそれなら断るぞ

  いや業務的なものであって決して危ない物じゃないから

  なら引き受けてやってもいいが

  その言葉を待ってたよお礼ならできるだけするからさ それと1人だと大変だろ 

  うから手伝いを一緒に行かせるよ特徴的な人だからすぐわかるよ

  そうか分かったとにかく運べばいいんだな

  そうだよろしくお願い頼むよ


 こんな感じだ。彼は今荷物と手伝いのもとへ向かっているところでこれに乗り遅れると時間に間に合わなくなってしまうところだったのだ。荷物と手伝いがいる駅まではあと1回乗り継げば到着する。

 余りに唐突なのだが彼は自信に満ち満ちてきた。自分でも意味が解らない。理由については考えようと思ったが止めた。意味がないと思ったのかそれは良くないと心の奥底が叫んだのか。

 到着のメロディがあちら側から流れてくる。やがて彼の限り限りまで来ると止まった。扉が開き彼は外に出る。今回も彼は遅れないように少し早足で歩いた。人にぶつからない程度だと彼は思っている。少々複雑だったがホームを見つけた。乗るものは周りのものより1回り大きかった。中に入ると友人が言っていた手伝いを見つけた。聞いた通り特徴的な人物だった。身長は平均より高く細身で年齢は分かりそうになかった。20代後半とも還暦を迎えているとも見えた。性別は流石に男だと思うがその瞳に見つめられると自信がなくなってくる。喋りかけようととも思ったがそれより先にその人物が口を開いた。

お待ちしていましたよ まあ座ってお話でもしましょう

彼とその人物は向かい合って座った。その人物はもう温かくなるというのに上物のコートを着ていた。元々の体も相俟ってかひどく場違いに感じた。

お願いします 質問などありますか

彼は一番最初に質問があるかどうか聞いてくることから何も言うことがないんだなと思った。しかしそのおかげでいろいろと質問ができた。

突然なんですか彼方はこの荷物について何か知っていますか?

さあ どうでしょう私は貴方のお手伝いをするよう頼まれただけですから

期待していたような返事ではなかったが他にも何か聞いてよさそうだということは分かった

私の友人からは何か聞いていますか?

いえ なにも 私は頼まれただけです

その後もいくつかの他愛無い質問をしたが何かはっきりとしたことは分からなかった。そこで彼はその人物に出会ってからずっと気になっていたことを訊いた。

そんなに小さい荷物なのになぜ彼方が必要なんですか それに彼方がいるなら私はいらないじゃないですか

この質問を訊いた瞬間にその人物は明らかに不機嫌になった。しかしそれも一瞬の出来事ですぐにさっきまでの表情に戻った。

そうですね なぜ私が必要なのかは貴方はまだ知らなくって良いんです それに貴方がそれを知ったところで何も変わらないでしょうから

不機嫌がまだ少し残っていたのだろうか喋り方に苛立ちが感じられる。その威圧感のある喋り方が原因だろうか彼は恐怖を感じた。心臓に真っすぐ刃物を突き立てられたような緊迫感だった。彼はすぐにその人物から離れたくなった。全速力で走れば逃げ切れるだろうが何か変だ。彼は違和感について考えた。その間もその人物は彼を見つめていた。しばらく経った時彼は答えを見つけた。謎の自信だ。今日は一人でいるときにはもう謎の自信に溢れていた。それが逃げろという本能に逆らっているのだ。このままだと自分はどうなってしまうのだろうか。彼は明らかな目の前の恐怖と漠然とした不安に打ちひしがれた。その人物はそんな彼に畳みかけるように喋りかけた。

だから言ったでしょう貴方は理由が分かっても何も変わらないでしょうって それに貴方はなぜ私が必要なのか知らないようですね まったく知らないというのは怖いものです あと3駅で着きますよそれまでに何か起こるのでしょうか それとも――その荷物が フフフ おっと私は用事があるのでここで帰らせていただきます それでは また

というとその人物は彼といた車両から出、いなくなっていった。荷物はいつの間にか彼の手の中にあった。彼はあの人物と今すぐにでも離れたいと思っていたが今となってはこの荷物の中身が何なのか気になって仕方がなかった。今一度この荷物を見ると風呂敷のようなものに包まれており中身は単なる箱のようなものの気がしてきた。彼が荷物のことを考えているうちにあの人物が言っていた駅の1つ前まで来ていた。彼は誰にどんな荷物を渡すのかも知らない。そんなことも聞かずに友人の願いを聞き入れてしまった。しかし彼は何だか全て上手くいくような気がしていた。心配という感情は彼の心に入る隙を与えてもらえなかった。

 目標となる駅に着こうとした瞬間――そうx月1y日3e時46p分、彼の乗った魔法の列車、通称「魔車」は自身の内側に入り込んだ異物を外に出そうともがき出した。発達した検査技術でも分からなかった。結果、乗客は疎かホームにいた数十~数百人が犠牲になった。魔車管理局は原因は不明と声明しているが恐らく魔車を手懐ける程度の人類が死神を特定するのはまだ先の出来事だろう。

 

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