第14話 月影の兎は涙に濡れて(中編)

 VIPルームの赤い間接照明が、まるで血のように葵の肌を染め上げる。猪ケモミミの男、剛の下品な命令に、葵の体は石のように硬直した。震える手で、カウンターに置かれたシェイカーを掴む。そのステンレスの冷たさが、彼女の熱く火照った手のひらに不快に伝わってきた。


(カクテルを……こんな状況で……作れるはずがない……)

 だが、背後にはオーナーである亮の冷たい視線が突き刺さっている。逆らえば、故郷の家族にどんな累が及ぶか分からない。そして、目の前の剛の濁った瞳は、既に獲物を前にした獣のように、ぎらぎらとした欲望の光をたたえていた。


「おい、兎ちゃん、まだかよぉ? 俺様は喉が渇いてるんだぜぇ。それとも、おめえ自身が先にご所望か? グヒヒ……」

 剛が、ソファに深く沈み込んだ巨体を揺らしながら、卑猥な言葉を投げかける。葵は、唇をきつく噛みしめ、溢れそうになる涙を必死でこらえながら、カクテル作りの手順を頭の中で繰り返した。だが、恐怖と屈辱で指先は震え、思考はまとまらない。

 その時、ぬっと亮が背後から近づき、葵の華奢な肩を抱くようにして手を回してきた。彼の熱い呼気が、葵の敏感な兎耳を不快に撫でる。


「おっと、葵。お客様を待たせるんじゃない。どれ、俺が“優しく”指導してやろう」

 その言葉と共に、亮の手が葵の手に重ねられ、シェイカーを握る彼女の手を包み込んだ。そして、カクテルを振る動きに合わせて、亮は自身の体を葵の背中に密着させ、腰を押し付けるようにリズムを取る。シルクの薄いキャミソール越しに、彼の体温と硬さがダイレクトに伝わってきて、葵は全身の毛が逆立つような悪寒を覚えた。


「ら、亮さん……や、やめてくだ……さい……っ」

 か細い抵抗の声は、シェイカーを振る音と、剛の卑しい笑い声にかき消される。亮は、葵の耳元で囁いた。


「これも大事な“接客”だ、葵。お前はただ、俺の言う通りに体を動かしていればいいんだ。客が喜べば、それで全て丸く収まる」

 その声は、どこまでも冷酷で、葵の心を絶望の淵へと突き落とす。汗が、キャミソールの生地をさらに肌に密着させ、彼女の柔らかな胸の輪郭や、引き締まったウエストのラインを、赤い照明の下にいやらしく浮かび上がらせていた。長い兎耳は、恐怖と屈辱に小刻みに震え続け、今にも千切れんばかりだ。

 剛は、その一部始終を、目を細めて満足そうに眺めている。


「おお、いいねぇ、亮の旦那! その兎ちゃん、あんたの“指導”で、ますます美味そうなカクテルを作りそうだぜ! いや、カクテルよりも、兎ちゃん自身がな!」


 ようやく一杯のカクテルが完成し、葵が震える手でそれを剛の前のテーブルに置こうとした瞬間だった。亮が、わざとらしく葵の腕に軽くぶつかり、シェイカーに残っていたカクテルが大きく傾いた。冷たい液体が、葵の胸元から太ももにかけて、無慈悲に降り注ぐ。


「ひゃあっ……!」

 思わず短い悲鳴を上げる葵。薄いシルクのキャミソールとショートパンツは、瞬く間に濡れそぼり、彼女の白い肌に完全に張り付いて、下着のラインまでをも露わにしてしまった。冷たさと、肌を伝う液体の不快な感触に、葵の体はブルブルと震え出す。


「おっと、こりゃあ、とんだ失態だな、葵。お客様にちゃんとお詫びしないと」

 亮の声は、明らかに嘲笑の色を帯びていた。彼は濡れたキャミソールを指でつまみ上げると、「風邪を引くといけないからな」などと言いながら、葵の敏感な兎耳を、まるでペットでも愛でるかのように、いやらしく撫で回した。

 剛は、その光景を見て目を爛々と輝かせ、ソファから身を乗り出してきた。


「グヒヒヒ! こりゃたまんねえ! 濡れちまった兎ちゃんなんて、最高の酒の肴だぜ! おい、亮の旦那、こいつは俺様が綺麗に“拭いて”やってもいいよな?」

 その言葉と共に、剛の脂ぎった太い手が、葵の濡れた太ももへと伸びてきた。ザラザラとした感触の手のひらが、ショートパンツの上から、しかし確かな熱量を持って、葵の柔らかな肌を執拗に撫で上げる。


「や……やめて……くださいっ……! 触らないで……!」

 葵のハシバミ色の瞳からは、ついに堪えきれなかった涙がぽろぽろと零れ落ち、濡れた頬を伝っていく。ふわふわとした白い兎尾は、恐怖と嫌悪感で、これ以上ないというほど固く縮こまっていた。

 剛の息遣いはますます荒くなり、その濁った瞳は、葵の濡れた衣装の下の素肌を透かし見るかのように、いやらしい光を放っている。


「この兎尾、本当にふわふわしてやがるぜ! いっちょ、この俺様が力いっぱい握りしめたら、どんな可愛い声で鳴いてくれるんだ? ああん?」

 彼の太く短い指が、ショートパンツの僅かな隙間から、葵の丸い兎尾を乱暴に掴み、その付け根の最も敏感な部分を、爪を立てるように強く擦り上げた。


「ひっ……うぅ……んんっ……!」

 葵の華奢な体が、まるで電気ショックを受けたかのようにビクンと大きく跳ね、声にならないか細い喘ぎが唇から漏れ出た。長い兎耳は、苦痛に力なく垂れ下がり、赤い照明の下で痛々しいほどに赤く染まっている。


 亮は、そんな葵の姿を満足げに見下ろしながら、今度は彼女の背後に回り込み、垂れ下がった兎耳の付け根を、指先で執拗に撫で回し始めた。


「もっと愛嬌のある顔をしろよ、葵。お客様が、お前のその怯えた表情で興奮してくださってるじゃないか」

 彼の指が、キャミソールの細い肩紐を弄び、じらすようにそれを片方だけ肩からずり下ろす。冷たい空気が、半分露わになった胸の柔らかな膨らみに直接触れ、葵は羞恥と寒気で再び身を震わせた。酒で濡れた白い肌が、VIPルームの妖しい赤い照明に照らし出され、剛の獣のような欲望をさらに煽り立てる。


「すげえ……! 亮の旦那、こいつはマジで極上だぜ! もっとだ、もっとこいつを脱がせて、俺様に見せてくれよ!」

 剛の下品な声が、部屋中に響き渡る。興奮のあまり、彼の口からは唾が飛び散っていた。彼は、葵の腕を乱暴に掴むと、抵抗する彼女を無理やりソファへと引きずり込み、自分の隣に座らせた。


「カクテルなんてもうどうでもいい。お前のそのエロい体の方が、よっぽど美味そうだぜ、なあ?」

 そう言うと、剛は、葵の濡れた首筋に、自身の脂ぎった顔を近づけ、まるで犬のようにクンクンと匂いを嗅ぎ、そして、酒の滴が残るその白い肌を、ザラついた舌でねっとりと舐め上げた。


「や……やめて……ください……! お願いですから……!」

 葵の声は、もはや懇願ではなく、絶望的な悲鳴に変わっていた。長い兎耳は、羞恥と恐怖で真っ赤に染まり、熱を持っている。


 剛の手が、今度は葵の濡れたショートパンツの縁にかけられ、それを無理やり引き下げようとする。愛らしい丸い兎尾が、さらに無防備に晒され、彼の卑猥な視線に蹂躙される。


「この尾っぽ、本当に柔らかくて気持ちよさそうだなぁ! もっと、もっと俺様に触らせろよ!」

 彼の指が、尾の付け根の最も敏感な部分を強く押さえつけ、汗と酒で濡れた肌を、まるで粘土でも捏ねるかのように、いやらしく擦り上げた。


「んんっ……! あ……や……だ……っ!」

 葵の体が、弓なりに反り返り、潤んだ瞳からは大粒の涙が止めどなく流れ落ちる。その小さな口からは、もはや言葉にならない、苦痛と屈辱に満ちたか細い喘ぎ声が漏れ続けるだけだった。

 剛の脂ぎった醜悪な笑顔が、涙で滲む葵の視界いっぱいに広がる。


「グヒヒヒ……その声、たまんねえぜ、兎ちゃん! もっとだ、もっと俺様のために喘いでみせろよ!」

 彼の太い腕が、葵の細い腰を獣のように力強く抱き寄せ、抵抗する彼女の体を自分の胸へと押し付ける。キャミソールは、もはやその役目を果たさず、完全にずり落ちて、彼女の柔らかな胸の全てが、剛の汚れた視線と、そして彼の荒い呼気が直接吹きかかる距離へと晒されてしまった。


「いや……お願い……だから……もう、やめて……ください……っ!」

 葵の心は、恐怖と屈辱と、そしてどうしようもない絶望感で、今にも張り裂けんばかりだった。


(誰か……誰か……助けて……!)

 その魂からの叫びは、しかし、この赤い照明に閉ざされた地獄のようなVIPルームでは、誰の耳にも届かない。


 亮は、その一部始終を、まるで高みの見物を決め込むかのように、薄ら笑いを浮かべて眺めていた。そして、頃合いを見計らったかのように、葵の震える兎耳を優しく、しかし有無を言わせぬ力で掴むと、彼女の耳元で悪魔のように囁いた。


「いいか、葵。お客様を、最後までしっかりと“満足”させるんだ。この店の借金は、全てお前の双肩にかかっている。そして……お前の可愛い家族の未来もな」

 その冷酷な言葉が、葵の最後の抵抗する力を奪い去った。長い兎耳は、完全に力を失い、だらりと垂れ下がる。ハシバミ色の瞳からは、光が消え失せ、ただ虚ろな絶望だけが映り込んでいた。

 剛は、それを見て、勝利を確信したかのように、さらに醜悪な笑みを深めた。彼は、テーブルの上に残っていたカクテルグラスを手に取ると、その中身を、葵の露わになった胸の谷間から、太ももにかけて、ゆっくりと、しかし執拗に垂らし始めた。


「グヒヒ……俺様からの、とっておきの“特別サービス”だぜ。この美味そうな脚、隅々まで舐めさせてもらおうじゃねえか」

 彼のザラついた舌が、酒で濡れた葵の太ももを、下から上へと這い上がってくる。その感触に、葵の体はビクンビクンと痙攣するが、もはや抵抗する気力も残っていない。


「ひゃっ……! あ……うぅ……!」

 か細く、途切れ途切れの喘ぎ声が、虚しく部屋に響く。兎尾が、最後の抵抗を示すかのように、マットの上で虚しく震えていた。

 剛の目は、もはや正気とは思えない、狂的な欲望の色で爛々と輝いていた。


「この兎、マジで敏感すぎるぜ! おい、亮の旦那、こいつ、今夜は俺に貸してくれや! このままじゃ、俺様の気が収まらねえ!」

 彼の手が、葵の汗と酒で濡れた柔らかな胸を、まるで熟れた果実でも鷲掴みにするかのように、乱暴に掴み上げた。


「いやああああああっ! やめてええええええっ!」

 ついに、葵の絶叫が、VIPルームの重苦しい空気を切り裂いた。だが、それは、さらなる絶望への序曲でしかなかった。

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