第4話 慧眼のギャル






「きゃーー!!かわいい〜!」



数刻後…閑散とした情報屋にタフネスが連れてきたのは、シズカ達と同じ年頃か少し年下の女性だった。


シルバーの髪色を下の方でツインテールにし、切れ長の青い瞳は一見するとクールビューティな印象を受けるがそうではない。


彼女は幼体のグリフォン二人を見て黄色い声を上げ興奮しながらシズカの方を見る。



「何この子達!何この子達!?え?シズカの隠し子!?

…んなわけないかー。シズカ、モヤシみたいな見た目だしモテそうにないしね!」



ケタケタと笑いながら人が気にしている事をズバズバ言ってくる。

よく言うとハッキリとした性格、悪く言うと配慮の欠けた性格。


シズカから言わせてもらうと……ギャルだ。陽キャのギャル。

黒を基調とした前世で言うところの原宿系ファッションみたいな服装が、余計に彼女をギャルっぽくさせている。


オタクのシズカからしたら、あまり得意ではないタイプの相手たが…。



「ユモアのおじいから貰ったタマゴから孵ったの?あのおじいも、まだまだ現役ね。やるじゃん。

って事はシズカがこの子らのパパ?ヤバっ!シズカがパパとかヤバい!!」



何がヤバいのか知らないが何も喋っていないシズカを指差し一人ケタケタと笑っている。


そう彼女はあの規格外ジジィこと…ユモアの孫娘である。

なので、シズカも昔から嫌でも彼女と関わりがあった。そのおかげでこの性格にも慣れた訳だが…。



「あ〜…ヨウ。あ、ありがとな。来てくれて。忙しかっただろ?

でも実はめちゃくちゃ、困ってたから正直助かった。」



最強と謳われたユモアの孫娘だ。さぞ、有能な冒険者かと思いきやそうではない。

彼女…ヨウはこう見えて学者だ。それこそ、魔物生態や幻想生物、神獣なんかを調べるプロである。

今回のシズカの悩みを相談するにはこの上ない相手である。



「アハハ。血相かいたタフネスが来た時は爆笑したよ!

マジで焦ってたから。マジで面白い事が起きてそうだから、仕事放り出して来ちゃった。

…上司に見つかったら、またカミナリが落ちそう…。」



「うちの上司マジヤバいから!」と頬を膨らませながら、どのようにヤバいのか手振り身振りを交えて教えてくれる。


それを見てタフネスは大きくため息を吐きながらヨウを小突いた。



「ヨウ。早く買ってきたやつ見せてやれ。話が長いんだよオマエは。」



「ぶーぶー!分かりましたー。ハイこれ。頼まれてたやつ。」



話を中断されて不服そうだが、そう言って紙袋からとりだしたのは闇夜を思わせるような紫色のローブだった。

アクセントの金色のボタンが星のように見える。



「お、おぉ〜…。」



流石、女子。流石、ギャル!

自分では絶対に見つける事すらできないセンス光るチョイスだ。

シズカは素直に感嘆の声をあげた。



「スゲー!ヨウありがとう!」



「流石だな。オマエを頼ったのは正解だったな。」



真新しい小さなローブを広げて喜ぶシズカ。早速、グリフォン二人を呼ぶ。

喜々としている彼をグリフォン二人は不思議そうに小首を傾げているとタフネスは何か考え込んで言った。



「そう言えばこのグリフォン二人の名前って何にするんだ?

流石に、二人共グリフォンはややこしいだろ。」



男の子の方をシズカが、女の子の方をヨウが着替えさせながら、シズカがそう言われて少し考えるように唸る。

そして着替え終わってキョトンとしている男の子の肩を掴んで言った。



「よし。お前は今日から『グリ』だ。」



そうシズカに笑顔で言われて、ローブを頭から被った男の子…グリの金の瞳が驚いたようにクリッと大きく丸めた。



「ぐりぃ〜?」



「そ。そして、お前はフォンだ。可愛いだろぉ?」



同じく着替え終わった女の子…フォンの方を向いてそう言うと、彼女は照れたように頬を染めてモジモジと俯いてしまった。



「……………ふぉん…。」



誰も聞き取れないような小さな小さな声でそう溢す。

本人達とシズカは気に入っているようだが、タフネスとヨウの顔は呆れたものだった。



「「安直っ!!!」」



「いいだろ!分かりやすくて!

本人達も気に入っているから問題ないだろ。」



二人からそう罵倒されて泣きそうになるシズカ。

だがグリとフォンは嬉しそうだ。二人してはにかみながら、照れくさそうに自分の名前を連呼する。



「ぐり…ぐーり!……グリ!」



「………ふぉ~。……ふぉん……フォン。」



「ま。本人達がいいならいいけど。

そう言えばシズカ。アンタにもアタシからプレゼント。開けてみなさい。」



は?とシズカは聞き返しながら紙袋の奥にまだ何か入ってたのを発見する。

掴んで広げてみると、グリとフォンと同じ…全く同じの大人用の紫ローブが入っていた。



「……………は………?」



あまりに唐突な事にシズカの頭はフリーズする。


何?俺にも着ろと?この紫色のローブを?

普段着なんてグレーか黒しか着た事ない俺に?

紫なんてオシャレ上級者しか着なさそうなモノを。金色のボタンが目立つこのローブを?



「一応、人としてしばらくいるんでしょ。このチビグリフォン達。

だったらみんなオソロの方が、親子リンクコーデみたいでめっかわじゃん!」



いや、めっかわとか言われましても…。

いつもとジャンルの違う服に丁重に断りたかったが、ギャル特有のハイテンションとグリとフォンの「おそろ〜おそろ〜」と言う無邪気な言葉に黙ってしまう。

そして、挙げ句…



「……パパも、フォンとおそろ?」



「俺はパパじゃありません!!」



可愛い子ライオンがコテンと小首をかしげて、不思議そうにそう問われるがシズカは速攻否定する。


確かに魔力を注いだし、育てることになりそうだがパパはダメである。


なまじ、二人共顔が可愛いので認めれば変な扉を開きかけない。ここはちゃんと線引きをするべきだろう。

シズカは紳士になって二人の前にしゃがみ込む。



「いいか?俺はパパじゃない。シズカだ。

言ってみ?シズカ。しーずーか。」



「……しじゅかー!」



「…………かー。」



まだまだ舌が回らないのか、拙い言い方だがパパよりマシだ。今はこれで良しとする。

シズカはとりあえず、二人の頭を撫でながら褒める。



「何やってんのよ。別にいいじゃんパパでも。親代わりすんでしよ?アンタ。」



そうするしかないが、そうではない。いずれ嫌でも離ればなれになるのだ。


人間と神獣グリフォン。ずっと一緒と言うわけにはいかない。何処かで必ず別れはくる。

ならば、始めから父だのなんだの呼ばさない方がお互いの為だ。



「ま、好きにすればいいわ。どうせ、おじいが見つかるまでは世話をする必要はあるし…


…そうだ!せっかくだから三人で町に買い出しに行きなよ。親子コーデで!」



名案!と言わんばかりにヨウは指を鳴らしてそう楽しそうに提案する。

そして、次にグリとフォンに顔を合わせながら警戒されないようにニコニコと笑顔を浮かべる。



「ね?グリとフォンもシズカと町に行きたくない?

色んなもの見れるよ〜?もしかしたら、美味しいもの食べれるかも!」



そのヨウの言葉に二人は「ふおおお!」と顔を輝かせ頬を赤くさせながら興奮する。

そして我先にと言わんばかりに出入口の前まで駆け出す。



「いきたい!いきたーい!」



「…………まち……みたい………。」



早く!早く!と言わんばかりにシズカに手を振るグリとフォン。


その姿にため息をつくシズカ。横目でヨウを見れば、してやったり…。と言う意地悪い顔をしている。流石、学者…話術が上手い。



「…あのな。ヨウ。

あの二人は人間じゃないし、あんまり外に連れ出すのはちょっと…」



「まあ。少しくらいいいんじゃないか?」



いつもはヨウの無茶振りに助け舟を出してくれるタフネスが、今回はヨウに同意する。



「町のみんなにグリとフォンの事を見てもらうのも悪くないし、あんまりコソコソし過ぎるのもよくない。

それに…あのパワーをオマエ一人でどうにか出来るか?外に出て発散させる方がいいに決まっている。」



タフネスに正論ぶつけられて黙るシズカ。

籠もりすぎるのは良くない事ぐらいシズカだって分かっている。

元引きこもりの自分がそうだったように、あの子達に同じことをさせたくはない。


グリフォンとバレる危険性はあるが、それはこのローブが守ってくれるだろう。その為にヨウに持ってきてもらったのだ。


シズカは意を決したようにそのオシャレな紫のローブに袖を通す。



「少しだけだからな。ヤバくなったらすぐ帰るぞ!」



その言葉の意味をよく理解してないグリとフォンは首を傾げながらも「は〜い。」と返事をする。

その無垢な反応にシズカは頭が痛くなる気分だ。



「悪いけど留守頼むわ。すぐ戻ってくるから。」



「ほいほ〜い。ごゆっくり〜。」



何がごゆっくりだ。自分から仕掛けたクセに…。

シズカはヨウのニヤニヤ顔に悪態を付き、タフネスには申し訳ないように言った。



「タフネスも悪いな。せっかく来てくれたのに…何か依頼があったんだろ?」



すっかり忘れてたと彼は「…あ。」と言葉を漏らす。

ここまで色々あったから、本来の目的を見失っていたようだ。急いでタフネスは紙切れをシズカに渡す。



「急で悪いけど、ここの地域に生息している魔物の情報、生態、土地の特質を調べてくれ。

今度、国からの極秘依頼で護衛をすることになった。なるべく安全に行きたい。ルートを調べて欲しい。」



国からの極秘護衛ね…。とシズカが心の中で呟く。

ギルド所属の冒険者が、護衛を買ってでるなど珍しくもない。

だが、その調べて欲しい資料を見ていると、なんとなく引っかかる。こんな場所、今更何の用があると言うのだ?…しかも極秘に…。



「…………なあ、タフネス。

この依頼は請け負うよ。だけど、報酬代わりに俺の頼みも一つ…聞いてくれないか?」



いつになく真面目に考え込んでいるシズカを見て、タフネスも何かを感じ取ったのか不敵な笑みを浮かべながら二つ返事で頷いた。

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