お告げ

esquina

お告げ


 仕事を終えた恵子がデスクを片付けていると、洋子がやって来た。

「恵子待って。明日の土曜日、二人でパワースポットに行かない?すごい神社…穴場を見つけたの」

突然の誘いに、恵子は少し驚いたように答えた。 「え?週末に私たちだけで?聡太さんは、いいの?」洋子は目の前で片手を振った。「実は、聡太はこういうのは興味なくて。一緒に行っても、盛り上がらないからつまらないのよ」「日帰りで行ける距離だし、一緒に行こうよ」

 恵子の趣味はパワースポット巡りである。彼女は二つ返事でOKしてから言った。「洋子はもうすぐ結婚するんだよね。私なんて結婚どころか彼氏もいないからなぁ。聡太さんみたいな素敵な男性を、私もゲットできるようにってお願いしようかな!」

「ありがとう、私も恵子に素敵な人が現れるようにお願いするね」「ところで…その神社は、突然お告げが舞い降りることで有名なのよ」

恵子は目を輝かせた。「うわぁ!私そういうの大好き。絶対行く」


 当日、噂のパワースポットに難なく辿り着いた二人は、境内を見まわした。人はまばらで、いかにも穴場らしい、簡素な造りの神社だった。洋子は神社の一角にある古い藤の大木を指差して言った。「あ!あの木よ。あの木の下から祠の方角を見て願い事をすると、お告げがあるそうよ」


 二人は藤の木の下へ行った。残念ながら花の時期も終わり、寂しげな木姿である。藤の根元には、鑑賞用に誰かが置いたらしき、小さなベンチがひとつ置いてあった。

二人は並んで目を閉じると、願い事をしてお告げを待った。しかし、一向に何も起きない。恵子は、なおも粘り、必死に手を合わせている。そこで洋子は椅子に座って待つことにした。

「やっぱり、ただの噂みたいね」恵子も、ついに諦めた様子で目を開けた。

「なんか…一気に疲れちゃったよ〜」

洋子は、それを聞いて申し訳ない気分になった。「うん…そうみたいね。とりあえず座ったら?」洋子は片側へ避けて、恵子を手招きした。しかしその椅子は、二人で座るには小さすぎた。洋子は立ち上がって言った。

「いいわ、ほら、私が退くから。さぁ、恵子がここに座って」

この言葉が、お告げになった。


 翌朝、洋子が自宅で急死しているのが発見された。

葬儀の席では、失意のどん底にある聡太の傍に、泣き崩れる恵子がいた。二人はしっかりと抱き合い、互いの悲しみを慰め合った。ほどなくして、恵子は聡太の妻になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お告げ esquina @esquina

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

同じコレクションの次の小説