第24話 てめえもオレをバカにしやがるのかよォ!

 レイフは、さすがBランクと言えるだろう。おれたちではまったく敵わなかったガーディアンを相手に、激しく斬り結んでいる。


 その間に、クレアはおれにポーションを飲ませてくれる。レベッカも自力でポーションを服用し、おれたちと合流した。


「今のうちじゃないッスか? 誰か知らないッスけど、あの人が戦ってるうちに、ダンジョンコア壊しちゃいましょうよ」


「いや」


「無理だと思う」


 レベッカの提案には、おれもクレアも頷けない。


 それはレイフの戦いぶりからの判断だ。


「なんだ、コイツ!? 強い!? なんなんだよクソがァ……!」


 レイフは劣勢だったからだ。


 まともな戦いにはなっているが、力でも速さでも、レイフは負けている。今、ダンジョンコアを狙っても、ガーディアンにはおれたちを迎撃するだけの余裕があるだろう。


 共闘も難しい。身体能力で激しく劣るおれや、戦闘経験の少ないレベッカではまともな戦力にはならない。クレアなら経験豊富だが、パワー不足で決定打に欠ける。下手すれば足手まといになってしまう。


 そもそもレイフが連携してくれるとは思えない。さっきのセリフから察するに、おれを逆恨みして殺意まで抱いているみたいだし。


 なら、どうする……? 


 次の手はあるにはあるが、先ほど感じたガーディアンへの既視感がどうしても気になる。


 それに、ダンジョンコアに寄生している物体の雰囲気。これも、おれは知っている。特に、わずかに漂っているこの臭い。寄生体が吐き出している瘴気だろうか?


 その臭いに、記憶が激しく刺激される。


 そう遠くもない記憶だ。おれは、やはり、これを知っていた。


 しかし……まさか。なぜこんなところに!?


 これは、破壊神だ。


 おれがこの体に新生する直前に倒した、世界を滅ぼすべく封印から目覚めた破壊神。やつが出していた瘴気と同じだ!


 信じられないが、疑いようはない。


 だがそれなら、もしかしたら……!


「……ちくしょおっ! オレはBランクだぞ! 並じゃねえんだ、天才なんだ! なのに! なのにちくしょおぉ! てめえもオレをバカにしやがるのかよォ!」


「喚くなレイフ! 右、防御だ!」


「――!?」


 咄嗟のことで、無意識だったのだろう。レイフはおれの指示通りに動いた。ガーディアンの一撃の防御に成功する。


「なんだ? クソザコ、か?」


「よそ見するな! 上、下、右、受け流せ!」


 動きに戸惑いがあるものの、レイフはガーディアンの連撃を捌き切る。


「今だ、突け!」


 素早い突きがガーディアンを捉える。致命傷には至らないが、かなりのダメージだ。


「クソザコてめえ、なんでこいつの動きが読める!?」


 なぜなら、一度戦った相手だからだ。


 このガーディアンは、いわば破壊神の劣化コピーなのだ。先ほどの既視感は、破壊神の姿にどこか似ていたからこそ感じたのだろう。未知ではなく既知の敵なら、大抵のパターンは読めるというものだ。


 そして、ガーディアンを生み出したコアの寄生体も、破壊神に関係する物に違いない。


 だが、素直に口にして信じてもらえるわけがない。


「なんとなくさ。今は気にしてる場合じゃない!」


 おれのごまかしの言葉は、しかし、レイフには地雷だったらしい。


「なんとなく!? ふざけんな、なんとなくだと!?」


 おれは指示を出し、レイフはそれに従いながらも、意識は目の前の敵ではなくおれのほうに向いてしまっていた。


「オレだってなんとなくだったぜ……。どんなやつが相手でも、なんとなく動きが読めた……。敵じゃなかった! オレが天才だから……相手より強いからだった!」


「レイフ、なに言ってる!? 集中しろ、やられるぞ!?」


「うるせえ! このオレが、なんとなくじゃ分からねえやつなのに、なんでてめえがなんとなくで分かんだよォ! オレより格上のつもりかよォ!?」


 レイフの動きが乱れる。指示とは違う行動をし始める。


「レイフ!? ダメだ、やられるぞ!」


「うるせえ、指図すんじゃねえ! てめえはクソザコだ、クソザコなんだよ! バカにされてたまるかよォ!」


 ガーディアンから距離を取ったレイフは、手のひらに魔力を集中。素早く詠唱する。


「食らいやがれ、バニシング・レイ!」


 高熱と衝撃を伴う光波が放たれる。光属性の強力な攻撃魔法だ。おそらくレイフの属性と一致した、切り札的な魔法だろう。


 光波はガーディアンに直撃。しかし撃破には至らない。むしろ発射の隙を突いて、レイフに突っ込んでいく。


「――がっ、あっ!?」


 強烈な突進をモロに喰らう。それだけでも重傷だろうに、レイフは弾き飛ばされ、頭から壁に激突した。頭から血を流し、意識を失う。


 ガーディアンはおれたちのほうへ向き直り、ゆっくりと迫ってくる。


「わ、わ、わっ! あの人やられちゃったッスよ! どうすんスか、どうすりゃいいんスか!?」


「落ち着いて、レベッカ。やつを倒す手なら、思いついたよ」


「マジッスか!? さすがエリオットさん!」


「わたしも手伝えるよね? どうすればいいの、エリオットくん?」


 にやり、と不敵に笑ってみせる。


 今こそ、かつて用意しながらも使わずに終わってしまった、対・破壊神用の切り札を使うときだ。


「まずはレベッカ、少し無理してもらうよ。不良在庫の処分といこう」




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次回、エリオットの提案した作戦は、エリオットがしくじればクレアやレベッカの命が危険にさらされるものでした。それでもふたりは快く応じてくれます。仲間からの信頼に、ひとりでの戦いしか知らなかったエリオットは胸は熱くするのです。

『第25話 いいものだね、仲間って』

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