RE:2周目は最弱がいい!~体力ゼロの元最強、不可能にも笑って挑む~
内田ヨシキ
第1話 おれを最弱にしてくれ!
「女神エテルナよ! 願いを叶えてくれるというのなら、このおれを最弱にしてくれ!」
「は?」
おれの願いに対し、女神エテルナは怪訝な目を向けてきた。
「最弱になりたいと言ったのですか? なぜ? たったひとりで破壊神を打ち倒し、世界の危機を未然に防いだ、その褒賞なのですよ。もっとよくお考えなさい」
「よく考えた。他に願いなんてない」
「本当に、その世界最強の力を捨てたいと願っているのですか? あなたのこれまでの努力も、乗り越えてきた困難も、すべて無に帰してしまうのですよ」
「そんなものはなかった。おれは努力などしていない! 困難を感じたことも、ただの一度もなかった!」
おれは、いわゆる天才というものだったのだろう。
道場で初めて剣を持ったその日のうちに、見様見真似の技ですべての先輩から一本を取ってしまった。師範に試合で勝利し、皆伝を言い渡されるまでに一ヶ月もかからなかった。
みんなは羨んだり妬んだりしたけれど、おれにあったのは罪悪感だった。
毎日一生懸命に剣を振ってきたみんなの努力を、踏みにじってしまったような気持ちだった。
師範は『天才には天才に相応しい試練がある。それを探すといい』と言ってくれたが、おれには今に至るまで見つけられていない。
魔法を学べば、あっという間に既存の魔法はすべてマスターしてしまった。世界に使い手が1人や2人しかいないという超高難易度の魔法も含めて、だ。
冒険者をやってみれば、どんなクエストも簡単すぎて、『冒険』の意味が分からなくなるくらいだった。
なにをしても達成感が得られない人生だ。あまりにも、つまらない。
共に過ごす仲間がいれば、少しは紛らわせることができたかもしれない。でも、そんなものは得られなかった。
仲間を募っても、おれについてこられる者はおらず、すぐ離脱していくばかりだった。街を歩けば、誰もがおれに萎縮して友達を作ることもできなかった。
いつも、ひとりだった。まるで頂点は常にひとつであるように。
唯一の希望は、未知の強敵に挑むことだった。
かつて封印された破壊神が復活しつつあると知ったときは、使命感と共に歓喜が湧き上がったものだ。
おれのこの力は世界を守るためにあったのだ! やっと充実した戦いができる!
その期待は、裏切られた。
戦いに備えて切り札を5つも用意していたのに、ひとつも使わないまま決着をつけてしまった。
つまりは、少しも本気を出せなかったのだ!
「女神エテルナよ! おれの絶望が分かるか!? おれには力しかないのに、その力を振るう相手がいない! おれはなんのために生きているんだ!?」
「……だから、最弱になって人生をやり直したいのですか?」
「そうだ」
だが理由はもうひとつある。故郷の友達だ。
まだ幼い少年だった日。
その頃からおれはなんでもできてしまっていたが、その友達は逆で、病弱なためになにもできずにいた。
彼はおれを羨んでいた。正確には、なにもできない自分の人生を諦めていたがゆえに、誰をも羨んでいたのだと思う。つまり、彼にとっておれは特別じゃなかった。だから友達になれた。
あの日、おれは彼に言った。
『でも、おれはお前が羨ましいよ』
『なんでもできる君が、なんにもできない僕を?』
『できないことがあるってことは、きっと、挑戦して楽しむ余地があるってことなんだ。努力して達成できる喜びがあるはずなんだ。できないことが多いほど、きっと充実した人生になるよ』
『君はなんでもできるから、そう思うんだよ。できないばかりの人生は、今の僕みたいに悔しさで一杯の、つまんない人生になるはずだよ』
『なら試してみようぜ。どっちが正しいか。だから……手術、頑張れよ』
『そうだね……。元気な体になったら、君の言ったことが本当か、確かめてみようか』
それが彼と交わした最後の会話だった。手術は失敗に終わり、彼は死んでしまったのだ。
心の奥底でずっとシコリのように残り続けていた思い出だ。
あの手術が成功していたなら、彼の人生は挑戦と達成感のある素晴らしいものになっていただろうか。確かめる術はなかった。けれど、今は違う。
破壊神を倒した褒賞として願いを叶えてもらえると聞いたとき、真っ先に思い浮かんだのは彼の顔だった。
死人は生き返せないが、おれが彼と同じ最弱となってやり直すことはできる。彼が送るはずだった人生が、実り多きものであったと証明することはできる。
「これがおれの願いだ。叶えてくれ、女神エテルナ」
「それほどの願いなのですね」
「そうさ。おれたちは知りたいんだ。困難に立ち向かい、失敗し、それでも努力して成し遂げる日々を。そこにあるはずの喜びを」
「……分かりました。望み通り、あなたの体を、筋力も魔力も最弱レベルの少年として新生させましょう」
「ありがとう」
「ただし、あなたという人格を消すことはできません。それは殺すことと同じだからです。これまでの記憶、知識や経験は残ってしまいます。それでもよろしいですか?」
「構わない。あいつは、本ばかり読んで知識だけはあったからな。それと似てる」
「あいつ?」
「エリオット・フリーマン。おれが人生を引き継いでやりたい、死んだ友達のことさ」
「そうですか。では、あなたはこれからエリオットと名乗るのですね」
「それもいいかもな」
女神エテルナはゆっくりと頷いて、胸元で両手を合わせた。
「ではエリオット。あなたの2週目の人生に、多くの幸があることを」
「多くの困難と言い換えてくれてもいいぜ」
女神エテルナは柔らかく微笑み、光を放った。
その光の中でおれは意識が遠のき――。
――気づいたときには、少年の姿に新生していた。
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※
次回、新生して得た肉体の貧弱さはどれほどのものでしょうか!?
『第2話 なんだこれ、最高じゃん!』
ご期待いただけておりましたら、ぜひ★★★評価と作品フォローいただけますようお願いいたします!
また、本作は第7回ドラゴンノベルス小説コンテストに参加中です。ぜひ応援をよろしくお願いいたします!
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