6
どれほど歩いたのか分からない。
異形の町は延々と続いていた。
建物の高さは変わらず、道はどれも細く、似たような看板と灰色の壁ばかりが連なっている。
すべてが似ていて、すべてが少しずつ歪んでいた。
足音だけが、自分が動いていることを知らせていた。
──だが、その音に混じって、微かな違和感があった。
影だった。
仄暗い町の中、私の影が地面に落ちていた。
だが、その形が──おかしい。
私は立ち止まり、足元を見下ろした。
肩が強張る。影の形が、私のものとは違っていた。
腕が長すぎる。脚が、一本多い。
歪んだ背中、細すぎる指。顔の輪郭すら、私のものではなかった。
恐る恐る、自分の手を見る。
そこにあったのは、確かに私の動きに連動した“手”だった。
けれど、節が多すぎる。関節の向きが、どこかおかしい。
爪のような何かが、甲を這うように伸びていた。
──私は、もう人間じゃない。
パニックになりながら、空を仰いだ。
その瞬間、私は絶望した。
ああ、なんてことだ。
私は──やはりもう、帰れない。
これは夢ではない。
もうずっと、そうだったのだ。
誰もいなかったはずの街に、蠢く気配がする。
きっと私と同じ、異形なのだろう。
私と同じように階段を降りてしまった者の成れの果てなのかもしれない。
ああ、取り返しのつかないことになってしまった。
すべてが分かってしまった。
この体の意味も、自分がいる場所も──すべて。
私は、見てしまったのだ。
暗い空に浮かぶ、青い、青い──
見慣れた、あの星を。
彼方にて昇るもの 鈴隠 @rukbat1215
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