第12話 パイオツの為に限界を超えろ!

 俺達は合宿で、とにかく走った。走って走って走って、シュート練習と筋トレ。飯と風呂、トイレ以外は練習漬けだった。

 しかし、竹じいの練習は長時間練習するようなものではなく、集中的に練習したら休憩をたっぷりと挟むやり方で、とても現代的だった。

 シュート練習もただ単純に打たせるだけではなく、ことあるごとにノートに書かせて、どこかいいのか? どこが悪いのか? と言語化させられた。


 ビデオで撮った映像も、スマフォで確認する事が出来て便利だった。自分のフォームがどうなっているのか。それを確認するだけでも大分勉強になった。

 シュートの本数と成功確率をきちんと付けているから自分の得意な場所と不得意な場所が分かり、具体的に成長している事を実感出来た。それがモチベーションになった。


 最初はどうなるのか分からないと思っていたが、合宿らしい合宿になってきた。



「おら! ただ単に走るな! 手を上げて走れ! 手を上げろ!」

 こんだけキツイのに手を上げろだって? マジかよ……。


「そうだいいぞ! さらに大きな声を出せ! 掛け声でもなんでもいい、声を出せ!」


「OPI! OPI! OPI! おおーぴーーあいーー!」

 後ろを振り向くとHPが、目を瞑って首を振りながら、ぶっ倒れそうになりながら大声で騒いでいた。


「「OPI! OPI! OPI!」」

 そんな姿につられて、ダンカンと斎藤プロも声を出していく。


「「OPI! OPI! OPI!」」

 俺と篠山先生も声を出す。


「「「「「OPI! OPI! OPI!」」」」」

 苦しい……。やめたい……。止まりたい……。誰か止まってくれよ……。

 

 そう思っていても足を止めない。皆も死にそうになりながら走っていた。


「「「「「OPI! OPI! OPI!」」」」」

 やっと走り終わった。足がプルプルと痙攣しているかのように勝手に動いてしまう。自分の体重を支えている事さえしんどかった。


「倒れるなよ? 歩け、歩け」

 天を仰ぎ、腰に手を当ててゆっくりと歩く。何も考える事が出来ない。

 息を吸いたい。ただそれだけだった。


「よし、そのまま中へ行くぞ」

 俺達はバッシュに履き替え、練習の準備を整えた。


「今日はシュート練習ではない」

 竹じいはボールを1つダンカンにパスした。


「1対1をやろうか」

「「「「「はい」」」」」

 言われた通り1対1を始めた。普段やっているような攻め方をしていると、竹じいに止められる。


「違う。違う。もっとシンプルに考えろ! お前達がやる7秒オフェンスは、ディフェンスが付く前にシュートを打ってやる位の気持ちでいい。抜こうとするな! フェイクやドリブルのテクニックなんていらん!」


 ボールを持ったらシュートを狙い、打てるならすぐに打つ。とてもシンプルだけど、実際にやれと言われてやるのは、考えているよりも難しいものだった。


「そうだ、打て打て! ビビるな! 外すなんて考えるなら! 全部入ると思い込め!」

「はいっ!」


 竹じいからもらうアドバイスは初めて聞く事が多く、とても面白かった。ボールの貰い方から膝の向き、目線。体重移動や相手の体勢を崩す方法。フェイクの方法までと、1対1で使える技術を沢山教えてもらった。


「1対1を見てお前達の特徴がよく分かった。ワシが1人1人に技を教えてやる。試合で使えるかどうかは自分で判断しろ。よく見ておけ」

 フリースローライン辺りでボールを持った竹じいは、ポストプレイをして身体をゴールに向けて半身になると、ボールを持った片腕が肩の位置から上へと伸びてフックシュートを決めた。


「NBAの好きな大村なら、今の分かるだろ?」

「フックシュートですか?」

「そうだ。カリーム・アブドュル・ジャバーも使っていたフックシュート。彼の場合はスカイフックと呼ばれる別物だけどな」

「僕がフックシュートを使うのですか……」

「お前なら向いているはずだ」


「堀内はこれだ」

 竹じいはボールを持つと片足を上げ、背中を後ろに倒しながらジャンプし、フェイダウェイシュートを放った。

 驚く程綺麗なシュートでゴールに入る。


「やってみろ!」

「えっ? はい……」

 ボールを渡された篠山先生は、竹じいと同じように動くと、片足でフェイダウェイシュートを放った。

ガシャン。シュートは外したが、初めてとは思えない動きだった。


「堀内、バスケとは全く関係ないスポーツやっていただろ」

「スポーツと言いますか、武道を生まれた時からやらされていました」

「だからそれだけ体幹がしっかりしているのか。今のが片足フェイダウェイシュート。かなり効果的でブロックされにくいシュートだ。次は斎藤」

「俺にはどんな必殺技を教えてくれるんだ?」

「お前はこれだよ」


 3ポイント辺りでドリブルをつき、ボールを持った瞬間に右足でステップバックしてスリーポイントを打った。

「ステップバックスリー。斎藤は見た事あるか?」

「ないない……初めて見たよ。でもそれ、トラベリングじゃないの?」

「国際ルールで認められている技術だよ。大村はどうだ? 見た事ないか?」

「NBAでは普通に見られますけど、日本ではプロでも上手い人しか使わないイメージがあります……」

「日本の場合、トラベリングとして笛がなる可能性が高い。プロの試合でも審判が間違って吹く事がある位だからな。だから使わせない事が多いんだ……。ましてや中学生で使いこなせる奴も、審判できちんとジャッジ出来る奴もいないだろう」

「そんな技を俺に覚えろと?」


「使いこなせたら敵なし。審判さえも騙せ! そういうの好きだろ?」

「昔から俺の事を知っているような口ぶりっすね竹じい。勿論好きだぜ」

「なら覚えろ。ただし、地方の大会レベルの審判ではまず使えないだろう。審判の力量もちゃんと判断するんだ」

「燃えるぜ」


「手塚はこれだ」

 竹じいはボールを持つと、ハーフライン辺りまで下がりると、そこからシュート打った。

 ――パスッ。綺麗に入る。


「ロゴショットだ。ツーハンドなら可能だろ」

「いやいやいや、簡単に言いますけどこの距離ですよ?」

「打ってみろ」

 そう言われた俺はボールを持ち、ツーハンドで狙いを定めてシュートを放った。綺麗な放物線を描いたが、エアーボール。ゴールに届かなかった。


「悪くないな」

「全然届いてなかったですけど……」

「ボールの軌道が悪くなかったし、フォームも良かった。後は距離を伸ばして距離感を掴む事が出来れば問題ないだろう」

 

 試合でハーフラインから打ってくる人間が1人でも居たら、守っている方からしたら大変なのは間違いない。

 ハーフラインという距離でシュートを警戒する必要があるし、前からディフェンスしないといけなくなる。オフェンス側は、スペースが空くからオフェンスしやすくなる。

 俺達のチームには必要かもしれない。


「そして最後だが塚本、はっきり言ってしまうが塚本にバスケのセンスも才能もない。もっというと、スポーツする事すら向いていない」

 竹じいは冗談ではなく、HPに向かって真顔で言った。

「ちょ、ちょっと竹じい……僕達はHP……。塚本が自信満々に作ってくれた資料と発言に動かされて、真面目にバスケを練習し始めたんです。練習メニューだって彼が考えたんです――」

「分かっとるわ。だが、それでも事実だ」

「ハッハッハ!」

 HPは笑い出した。


「竹じいに言われなくたって、幼稚園の時から知ってますよ。俺には運動のセンスは皆無だってね」

 HPはどこか寂しそうに顔を斜めに逸らした。


「これだけの資料を作り、練習や戦術、作戦まで考えて提案出来るその頭脳は素晴らしい才能だ。このチームに塚本がいなかったら、ここまで成長出来んかっただろう。そんな塚本にはガードになってもらう」

 竹じいはHPにボールを渡した。


「俺がガードですか?」

「ああ。だから塚本は、最低限のドリブルを磨け」

 ポジションの変更は、意外な提案だった。


「それじゃあ手塚部長のポジションはガードじゃなくなると?」

「なぜそうなる? 別にガードが2人居たっていいだろ? 手塚と塚本がガードって事だ」

「そこには深い理由が?」

「特にない」

「ないんかい!」


「いや、あると言えばある。日本は良くも悪くもポジションで役割を考えやすいし、ポジション別で教わる事も多いだろ? ワシがやっていた時代なんて特にそうだった」

「はぁ……」


「塚本は、お前はガードだと言われた方が積極的に指示すると思ってな。手塚のガードが駄目って訳じゃあない。それに、試合中に緩急と変化を付けたいってのもある。野球でもあるだろ? 先発・中継ぎ・抑えってピッチャーが変わるだろ? イメージはそれに近い。流れの中でボールを持つガードの2人が交互に代わって攻撃の起点を作るのは、相手に慣れさせない、守りづらくさせるって目的もある」

「なんすか……ちゃんと理由あんじゃん!」

「手塚と塚本のダブルガード、お前等には合っていると思うぞ。最終的に決めるのは自分達で決めたらいい。ワシは提案するまでだ」

「分かりました竹じい……やってみるじゃん」


「さあ、飯を食いにいこう。休憩した後は、1対1とシュート練習に時間を費やす。さっき教えた事を練習してもいい」

「「「「「はい」」」」」


 昼食を食べた後、夜まで1対1とシュート練習を交互に行っていった。竹じいにアドバイスを聞いたりして、俺達は前向きに取り組んでいった。

 たった数日の合宿だったが人生で1番、濃い時間を過ごした。練習している時や走っている時の時間の感覚は本当に長く感じたが、いざ過ぎてみるとあっという間だった。

 

 合宿最後の夜、俺達は布団の中で話をしていた。


「ねえ皆、竹じいの事どう思う?」

「どう思うって?」

「凄い人なんじゃないかと思ってね僕」

「私もそう思います。斎藤プロはどうです?」

「俺は……よく分からん。でもバスケが相当好きってのは伝わるけどな」

「「「「確かに!」」」」


「竹じいから聞く内容は、初めて聞く事が多くて為になったじゃん。そこら辺で子供に教えているじじいとは全然違うと俺は思ったじゃん」

「最初はどうなるかと思ったけど、いい合宿になったな本当に」

「ねえ、僕達って本当に全中出られるかな?」

「出られるかなじゃないじゃん! 出るんだよダンカン!」

「そうです。出るんだっていう気持ちが大事なんですきっと」

「おっぱい……見たい……じゃん!」

「「「「だな」」」」


「そこでさ! 俺ちょっといい事思い付いたんだけどさ――」

 俺は立ちあがって皆に対してある提案をしてみた。皆はその提案に賛成してくれた。自分達の目指す所と目的を確認し直した俺達は、眠りについた。






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