『きみを映すフレームたち』

Algo Lighter アルゴライター

プロローグ:光映堂の窓辺にて

夕方、陽が斜めに傾くころ。

町の通りに面した古いメガネ屋「光映堂(こうえいどう)」には、ふと時間の流れが遅くなる瞬間がある。

それは、ショーウィンドウに差し込む光が、レンズの一つひとつに反射して、店の奥をぼんやり金色に染めるときだ。


僕の家は、この「光映堂」を代々続けている。

といっても、僕はメガネ職人でも、販売員でもない。ただの高校生。

学校が終わるとカウンターの奥に座り、時折やってくる客の修理や注文を父や祖父に取り次ぐ。

でもこの場所には、小さな秘密がある。


それは、この店にやってくる誰もが――「心の中に、見えない傷」を持っているということ。

レンズが曇っていたり、フレームがゆがんでいたり、ネジがゆるんでいたり。

たったそれだけの不調を直しに来る人たちが、ときに驚くほど長く、静かにそこに佇んでいく。


メガネって、不思議だ。

単なる道具じゃない。

それをかけることで、見える世界が少し変わる。

あるいは、自分自身が変わったような気さえすることもある。


僕が見てきた人たちはみんな、違う形のフレームを選ぶ。

四角いもの、丸いもの、ちょっと上がった目尻の形。

それぞれに理由がある。気づいていない人もいるけれど、きっとある。


そして――

彼らの“選んだメガネのかたち”は、いつも彼ら自身の“心のかたち”と、どこか重なっている。


これは、そんな“12本のフレーム”にまつわる、ささやかな物語たち。

誰かが少しだけ立ち止まって、ちょっとだけ見え方が変わる瞬間。

すれ違うだけだった誰かが、隣に座るようになるまでの時間。


そんな断片たちを、僕は静かに眺めてきた。


さあ、物語をはじめよう。

最初に映るのは――まっすぐすぎる、四角いフレームの男の子の話だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る