第13話 神様、神試会へ殴り込む

 神界からの通知が届いて三日後、俺はふわふわ布に包まれた特別神輿しんよに乗せられていた。


「……神様が神輿で移動するって、なんかおかしくない?」


「安心して。これは文化神格の演出演出用移送具だから」


「説明が小難しいだけでやっぱりおかしい気がする!!」


 神試会――それは、地上に影響を持つ神々がその“在り方”を披露し、信仰と神性の高さを測る神界主催の催し。

 場所は神界と地上を結ぶ中間領域浮界フィールド。広大な空間に、神々ごとのステージが構築されている。


 そして今回、俺が出場する文化信仰部門には――


地下都市を香りで統べる香神アロマリス


食を司り、人々の舌と心を掴む食神グルーマ・ボテ


 この二柱と並んでの出場となる。


「布が対抗できる相手じゃないって、どう考えても……」


「でも、あなたには“実績”がある。

 村人たちの暮らしを変え、生活に寄り添い、信仰の形を文化に変えてきた。

 それを見せれば、きっと通じるわ」


 隣のアリアが、神輿の上から静かに言う。


 その時、神界の使者が開会の合図を告げた。


「第一ステージ、『文化再現演舞』――開幕ッ!!」


 


◇ ◇ ◇


 


 トップバッターはアロマリス。


 彼女がステージに立つと、周囲の空間が一瞬にして変化した。


「“香界庭園エル=フレグラ”を再現します」


 次の瞬間、五感を刺激する無数の香が花のように舞い上がり、観客席にいた神々からどよめきが起こる。


「これは……香だけで空間を作っているのか?」


「記憶と感情に訴えかける、“嗅覚信仰”の極地……!」


 続いて登場したのは、グルーマ・ボテ。


 ステージ中央に巨大なキッチンが展開され、山の幸・海の幸・魔獣の肉などありとあらゆる食材がずらり。


「食の信仰とは――命を取り入れることそのもの。

 我が“神炎釜”で命を昇華し、至高の一品を創る!」


 神炎釜から立ち上る香ばしい湯気が、観客の神々の鼻腔を襲う。


「うわ、めっちゃうまそう……!!」


「食べてないのに胃袋が鳴る……!」


 プレッシャーがやばい。神格じゃなくて胃袋で負けそうだ。


 


◇ ◇ ◇


 


 そして、俺の番がやってきた。


「……よし」


 ステージに立ち、布を広げる。


 それは――ふわふわサロンの、あの畳と縁側と布団と湯たんぽを、そっくりそのまま再現した空間だった。


「これが……?」


「ただの、家?」


「いいえ」


 俺は静かに言った。


「これは、“人が帰りたくなる場所”です」


 布団の上に、布をもう一枚ふわりと重ねる。


 縁側に、風鈴を吊るす。


 茶を淹れて、座るだけ。


 それだけの、何でもない日常。


 けれど、だからこそ――


「信仰とは、“救われたい”じゃなく、“落ち着きたい”ときにも、あるものだと思うんです」


 その言葉に、会場が静まった。


 香や料理のような派手さはない。


 でも――


 空間が“心地よさ”で満ちていくのが、確かに分かる。


「……ここ、寝ていいですか?」


「わたしも……ちょっと、だけ……」


「ふわ……うとうと……」


 神々が、次々に転がる。


「いや、寝るな!! 神界の精鋭、寝落ちるな!!」


 


◇ ◇ ◇


 


 演舞後。


 控室でアリアとエルナが駆け寄ってきた。


「よかったです……! あれは、心に染みました……!」


「演出じゃない、日常そのもの。あれこそ文化の形よ」


 そして、神試会は第二部へと進む。

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