5 そして一つの決意

 知り合いの結婚祝いを買いに、僕らは都心の老舗のデパートへ出かけた。休日のデパートはかなり混雑していて、君が動きやすいように、僕は前を歩いて君を導いた。何人もの視線が僕らを通り過ぎていくのがわかった。




「お祝いには何をあげるの?」


「パスタ鍋が欲しいって言われたの。調理台の低い車椅子用キッチンらしいから、背が高くないのがいいと思う」


 花嫁は、免許を取る話をした時に名前が出た由美ちゃんだ。君は同じような鍋を並べて散々迷った末にようやく決断を下した。


「はい、これで大仕事は終了。次はランチね」


「ちょっと早いけど、まあいいか。で、何食べようか?」


「そんなの決まってるでしょ」


「わかんないよ」


「あんなに茹で鍋を眺めてたんだもの。パスタ以外、ありえない」




「結婚式はどこでやるの?」


「お台場のホテルらしいの。そうだ、車で行くのもいいかも」


「最近、何でもそれだね」


「早く運転に慣れないと。あっ、そうそう、衣装がとっても素敵なんだって」


「ウエディングドレス?」


「うん。車椅子に合わせてね、上からすっぽりかぶる作りらしい。でもすごく自然で華やかみたい」


「へえ、色んなのがあるんだね」


「一歩間違うと、紅白歌合戦の出し物みたいだって、由美ちゃん笑ってたけど。でね、最後は立ってお招きした方々に挨拶するんだって」


「彼女、車椅子だよね?」


「装具をして歩行器につかまると、少しなら立っていられるの。立ってゲストにお礼を言いたいんだって」




「私も出席者としての準備が要るんだけど」


「はいはい、ワンピースとか着て行く衣装がほしいんでしょ?」


「よくわかったね」


「誰に言ってるの?僕は区で一番気難しい優理さんの旦那だよ。それくらいのこと、察しがつかないと務まらないよ」


「それほど勘がいいとは思えないけど。でも、どうして『区で一番』なの?」


「まあ、日本一、関東一ってことはないだろうし。区で一番くらいのレベルだから、僕でもなんとかなってると思ったのさ」


 ちょうど茹で上がったパスタが運ばれてきた。僕がカルボナーラで、君はトマトソース。僕らはいつものように一口づつをシェアして味わい、お互いにそっちにすればよかったと主張し合った。






「ねえ、ゆうちゃん。大したことじゃないんだけど」


「何?」


「男と女、どっちがいい?」


「赤ちゃんってこと?」


「うん。さっきね…」


 子供服売り場の前を通ったりしたかな、という思いがよぎった。


「鍋の売り場の隣に、子供用のお弁当箱が置いてあって。こんなの持たせて幼稚園に通わせるのもいいかなって。車があるから、送り迎えも楽にできるよ」


「またそれだね」


「うん。ああ、でも…。私たちが赤ちゃんを作るのにふさわしいほど、強くなれていたら、の話だけど。私と一緒にいるとやっぱり目立つよね。今日もたくさん見られてたし。運動会とか授業参観に行ったら、子供に嫌がられるかな?」


「大丈夫だよ。君のママは歩くのが少し苦手だけど、とっても素敵な人だって、ちゃんと言って聞かせるから」


「ゆうちゃん…」


「ああ、ただちょっと気難しいから、気を付けろよって付け加えないといけないか」


「区で一番の、でしょ?」

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