第9話エピローグ

 それから、月日は静かに流れた。


 レイカは、少しずつ周囲との関係を築き直していった。以前のような、過剰な執着を見せることはなくなり、自然と自分を大切にするようになった。今では、普通の高校生として、笑顔でクラスメートたちと会話している。


 俺も、そんな彼女の変化を見守りながら、日々を送っていた。


 時折、教室で目が合うと、レイカが照れくさそうに微笑む。それだけで、心が温かくなるのを感じる。


 そして、二人で過ごす時間が増えるごとに、俺たちはより一層、お互いを理解し合えるようになった。


「勇太くん、これ、食べてみて」


 放課後、二人で街を歩きながら、レイカが手作りのクッキーを差し出してきた。


「おお、ありがとう。お前、料理できるんだな」


「たまにね。こんな感じで作ってると、落ち着くんだ」


 レイカが照れながら言うその姿が、今では当たり前のように感じられる。


「次は、一緒に料理しようよ。俺、意外と得意なんだ」


「本当に? じゃあ、今度挑戦してみてね」


 そう言って、レイカが嬉しそうに笑った。


 その笑顔を見て、俺は心から思った。


(本当に、レイカが変わったんだな)


 彼女が求めていたものは、決して独占ではなく、ただ“幸せな時間”だった。今の彼女は、それを素直に求め、そして与えてくれる。昔のように、俺が逃げ回ることも、無理に気を使うこともなく、自然に二人の時間を楽しむことができている。


 そんな日々が、俺にとってはかけがえのないものだった。


 


 ある日、レイカと並んで歩いていると、突然彼女が真剣な表情になった。


「勇太くん、私、これからもずっとあなたと一緒にいたい」


「もちろん、だよ」


「でもね、私はまだ不安なんだ。まだ、自分に自信がないから」


「そんなこと、気にしなくていい。お前は十分に素晴らしいよ」


「うん、ありがとう。でも、もっともっと成長したいの。自分のためにも、勇太くんのためにも」


「それなら、俺も応援するよ」


 俺の言葉に、レイカはまた小さく笑った。


「うん……ありがとう。これからも、よろしくね」


 その瞬間、彼女の手が俺の手に触れた。


 俺はその手をしっかりと握り返した。


 確かに感じる、彼女の温もり。


 どんなに過去が辛くても、どんなに傷つけられても、それを乗り越えた先に今がある。お互いの手を取り合い、これからも歩んでいける。


 レイカの手は、以前よりもずっと優しく、力強かった。


 それが、何よりの証拠だった。


 


 そして、夕暮れが街を包み込んでいく。


 俺たちは並んで歩きながら、未来へと向かって進んでいく。どんな困難が待っていたとしても、今はもう怖くない。レイカと一緒なら、きっと乗り越えていける。


 その気持ちが、確かなものだと感じていた。


 ――彼女の手を握り、俺は微笑んだ。


 彼女も、俺に微笑み返した。


 これからも、ずっと。


 ――二人で、歩んでいこう。


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この世界で、君だけが俺を殺せる 詩乃アル @sinoaru

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