サイバーパンク・メスガキ魔法使い

ちびまるフォイ

メスガキさんぽ

空は電脳広告に覆われている。

昼夜問わず人工の光が輝く摩天楼。


ここはサイバーパンク都市・メガストラクチャー。


すべての人間は大脳皮質IDで管理され、

AR美人フィルター越しでしかお互いを認識できない。


ホログラフィ・スマートフォンを見続けて、

暗い表情をしている人間の雑踏の中に稲光が轟いだ。


「な、なんだ!?」


人垣の中央にはツインテールで、とんがり帽子をかぶった少女。


「ん…くっさぁ…♥ ここどこぉ?」


メスガキが現れた。


「に、人間だ……!」

「義体化していないぞ?」

「生身でいるなんて正気か?」


周囲の人間がざわついていると、

強化外骨格を身につけた大男がやってきた。


「グフフフ。生身の人間を見るなんて初めてだ。

 性器インターフェース無しが味わってみてぇなぁ」


小汚い豚の手がメスガキに触れようとしたとき。


「浄化の炎よ、すべてを焼き尽くせ! アグニフレーーイム♥」


「おわぁあ!? アッチ!! アッチィ!!!」


電気と科学しか見てなかった人間に襲いかかる魔法由来の炎。

いくら強化繊維皮膚で身を固めたところで意味は無い


「ざぁこ♥ ざぁこ♥ 私の魔法に勝てると思ったの? きゃっははは♥」


「お、覚えてろよ~~!!」


「イキったわりに負けるなんてなっさけなぁ~~い♥」


敗走する相手にも言葉の矢を浴びせかけるメスガキ魔法使い。

男はアジトに戻るわけだが、浴びせられた罵倒がクセになるのはまた別の話。


一方、大都市の中央でクソデカ魔法を使ったため

電脳警備AIたちが一斉にメスガキへと迫ってきた。


『脅威を確認しました』

『脳チップから悪意数値が計測できません』

『対象は人間オーガニック法の違反しています』


『 確保し矯正します!! 』


「今度はロボットぉ?♥」


メスガキは持っている魔法の杖を構えた。

そのとき、ローブのフードを誰かに捕まえれた。


「こっち来て!!」


メスガキは地下通路に連れ込まれた。

警備AIたちもネットワーク県外の地下まではおいかけて来なかった。


「ちょっと、なんでこんな場所に連れてきてんのぉ♥」


「あなた、さっき男をふっとばしていた人でしょ?」


「だから?♥」


「お願い、あなたの力を貸してほしいの。

 私達はこの世界を支配している"帝都重工"のレジスタンス。

 この監視社会から解放を目指しているわ」


「わかんなぁ~~い♥ 鼻息荒く解説してキモいんですけどぉ♥」


「とにかく、あなたは普通の人間にない力を持っている。

 その力で帝都重工をぶっこわしてほしいの」


「ざんねんでした~~♥ 私は自分以外のために魔法使わないって決めてるの♥」


「そんな……力になってくれると思ったのに……」


レジスタンスはがっくりと肩を落とした。

感情指数の減少を感知した四足歩行の猫型愛玩ロボがすりよる。


「ニャア……」


「へえ?♥ 猫ロボットじゃない♥ でもホンモノよりは可愛く無いわね」


「ホンモノ?」


「だってその猫には毛がないじゃない」


「この世界には動物がいないもの。

 義体化コストがかかる動物は帝都重工の地下センターに保護されてる。

 いるのは管理されて、行動制御された愛玩ロボットだけ」


「なにそれ超サイアクなんですけどぉ~~♥♥

 やっぱりそのなんとかじゅーこーってやつ壊しちゃお♥♥」


「え、協力してくれるの!?」


「魔法使いのオトモにはホンモノの黒猫がいなくちゃ♥♥

 レジスタンスがどうとかどうでもいい~~♥♥」


こうしてメスガキはパートナー・ペットを地下から手に入れるため、

帝都重工の本社へと魔法の箒で飛んでいった。


地上の警備AIに絡まれる時間も惜しいので、

最上階の社長ルームに窓からやってきた。


「クソキモ社長おじさん♥ 今日も元気に人生浪費してる?♥」


「な、なんだお前は!? まさかレジスタンスか!?」


「そんなわけないじゃん♥♥ 私は地下の動物を解放してほしいだけ♥」


「そんなのできるわけないだろう!」


「社会に縛られているキモいおじさんらしい答え♥

 じゃあ、私の魔法でこのビルごとふっとばしちゃおうかなぁ♥」


「ま、待て!」


「命乞い?♥♥ 鬼ウケるんですけどww」


「今、魔法……といったか?」


「それがなに?♥」


「魔法はまだ世に出ていない我々の新技術だ。

 どうしてそれを知っていて、使いこなせるんだ……?」


「は?♥ 意味わかんな~~い♥♥」


「それにその杖も、箒も……この世界の科学技術じゃない。

 魔法は世界の企業が極秘裏に開発しているナノテク技術。

 まだ鉛筆転がせるだけがやっとのはずだ」


「めっちゃしゃべるじゃん~~♥♥」


「君はまさか……未来から来たんじゃないか?

 そうじゃなきゃ、オーバテクノロジーの魔法が使えっこない」


「この世界にきたときの反動でぜんぜん覚えてないもん♥」


「いや、そんなことはどうでもいい。

 君の技術を私達に提供してくれないか?

 そうすれば帝都重工は魔法開発でトップになれる!」


「権力にしがみつくとか超キモイ~~♥♥」


「地下の動物を解放してほしいと言っていたな。

 君が技術提供してくれればそれも叶えてあげよう。

 な? 悪い話じゃないだろ?」


帝都重工の社長はあぶらぎった顔をますます油ぎらせて交渉させる。


レジスタンスとしてこの世界の解放を行うか。

大企業に寝返って自分の理想を手に入れるか。


メスガキ魔法使いの決断は、



「ぜったい嫌なんですけどぉ~~♥♥」



もちろん、どちらでもなかった。

メスガキが思い通りになるわけなかった。


「レジスタンスだからとか、世界とか鬼どうでもいいし♥

 私は自分の力で世界を変えるし♥♥」


「な、なんだと!?」


「地上だとか地下とか、管理とかどうとか♥

 そういうのめんどうだし全部壊しちゃお♥♥」


「なんてことを! 人間の文明を終わらせる気か!?」


「知らな~~い♥ 魔法も使えないざぁこおじさんは、

 年下の魔法使い相手に無様に敗北しちゃえ♥♥」


メスガキ魔法使いは最後の究極魔法を唱えた。


「星々よ、円環の断罪神よ!

 ぜぇ~~んぶ破壊してしちゃえ♥♥

 終焉葬送! アブソリュート=エクリプス!!♥♥」


魔法が発動すると一気に世界は光に包まれる。

次の瞬間、あらゆる人工建造物は塵となって消えた。


地下に追いやられていたレジスタンスは地上に追い出され、

天空から見下ろしていた大企業の支配はすべて消えた。


地下の動物たちも自然にかえり、初めて地面から自然の植物が陽の光を浴びた。

この世界のすべてが一度リセットされた。


メスガキにより崩壊させられたサイバーパンク都市は、

今後、魔法の残痕から魔法開発を一気に発展させることとなる。

メスガキが魔法を扱えるくらいになるほどに。


一方、メスガキ魔法使いはというと。


「ニャア」


解放された黒猫がメスガキ魔法使いのもとへやってきた。


「これでやっと魔法使いらしくなれた♥」


黒猫を肩に乗せて箒をかっとばす。

また次の世界にむけて時空間移動ガチャ魔法を唱えた。


「次はどこのよわよわ世界を変えちゃおうかな~~♥♥」


メスガキ魔法使いはゲートをくぐってまた別の世界へと転移した。


次は、水没世界の深海都市アクア・ルナに転移され、

今度は高位錬金術師のわからせおじさんとの激しいバトルが始まることを、

作者をはじめとした誰もまだ知らない……。



つづかない。

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