静かなる猛者
昼下がりの寺は、まるで時が止まったかのような静けさに包まれていた。
境内に吊るされた風鈴が、そよ風に揺れて微かな音を奏でる。
畑中浩一は、石段を一段ずつ登りながら視線を前方の門に向けていた。
この寺に住む者とは事前に約束を取り付けていたが、どんな人物なのかまでは把握していない。
「……ガキどもとは違って、ここの坊主はちゃんと事前にアポを入れてある……が、どんな奴かは実際にこの目で確かめるまで分からねぇな」
門をくぐると、柔らかな笑みをたたえた高齢の住職が姿を現した。
「お待ちしておりました、畑中殿」
深々と頭を下げる老僧に一礼を返しながら、畑中は境内を進む。
「一祟(いっすい)は修行場で稽古中です。こちらへ」
案内された修行場は広く、磨き込まれた木の床が陽光を反射していた。
その中心に、僧衣に身を包んだ青年が静かに立ち、少林寺拳法の型を一つひとつ丁寧に繰り出していた。
動きはまるで水が流れるように滑らかで、しかし鋭さを備えていた。
畑中は修行場の隅に立ち、息を殺してその様子を観察する。
「……なるほど。動きに無駄がねぇな。こりゃ、思ってた以上かもな」
感心した矢先――
突如、青年の動きが止まる。
ゆっくりと顔を上げ、こちらをまっすぐに見据えた。
「そこの方。そんなところで隠れていないで、どうぞお入りください」
一瞬、畑中の目がわずかに見開かれた。
気配を消していたはずなのに、なぜ――。
「……俺の気配に気づいただと? どういう事だ」
額に薄く汗が滲むのを感じながら、畑中は諦めたように姿を現した。
「……バレバレだったか」
気配を解き、畑中はゆっくりと一祟の前まで歩み寄る。
青年――一祟は、静かな微笑みを浮かべながら手を合わせ、深々と礼をした。
「お初にお目にかかります。畑中浩一殿ですね。遠路はるばる、お越しいただきありがとうございます」
その端正な物腰と、研ぎ澄まされた礼儀に、畑中はわずかに面食らった。
「……思ったよりちゃんとしてんな。ま、見た目通りってとこか」
「よく言われますよ」
自然体のまま微笑む一祟に、畑中は視線を注ぎ続けた。
そして、内心で呟く。
「こいつ……ただの礼儀正しい坊主ってわけじゃねぇな」
ポケットから取り出したタバコを咥えようとして、しかし、ふと手を止める。
一祟の前で吸うのは何となく気が引けた。
タバコはそのまま、ポケットへと戻される。
「……ま、本題に入るか」
腕を組み、畑中は真剣な表情に変わった。
「俺はORVASという組織の者だ。お前に用があって、ここに来た」
一祟の眉がわずかに動いた。
「……用、ですか?」
「ああ。西暦2025年。人類は今、宇宙からの侵略という脅威に晒されている。
俺たちは、それに対抗するための戦闘チームを結成している最中だ」
一祟は目を伏せ、しばし沈黙した。
その言葉の真意を、内側でじっくりと噛み締めるかのように。
「……なるほど。興味深いお話ですね」
畑中は静かに一祟の姿を見つめながら、思考を巡らせていた。
「こいつ……本当に、ただの坊主か?」
鋭さと柔和さ。
静けさと力強さ。
相反するものが共存するこの男は、ただ者ではない。
この出会いが、近い未来、世界の命運を左右する鍵となる――。
その確信が、畑中の中に確かに芽生えていた。
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