SHADOWBREAKER
えいじ
集結編
最強の不良
人類は、知らなかった。
いや、知ろうともしなかったのだ。
この世界の裏側で、静かに進行する“侵略”の存在を。
それは、突如として宇宙から飛来した未知の生命体だった。
姿を持たず、言葉も発さず、ただ静かに、着実に“浸食”していく。
その名は《アビス》。
科学者たちの精神を蝕み、各地で不可解な事件が相次ぐ中、
人知れず動き出した一つの組織があった。
ORVAS(オリヴァス)。
アビスに対抗すべく創設された極秘戦闘組織。
彼らは世界中の中高生を極秘裏に調査し、「異能」を秘めた候補者を探し続けていた。
その条件はただ一つ
心に“影”を宿していること。
そして2025年。
日本のある地方都市で、その少年は確かに“影”とともに生きていた。
昼休みの高校。
ざわつく校舎に、場違いな存在が足を踏み入れた。
全身黒のスーツに身を包み、長身でサングラスをかけた男。
無表情で歩くその姿に、生徒たちが次々と視線を向ける。
「なにあの人、やばくない?」
「誰……? 不審者?」
「え? ちょっと怖……」
視線を気にも留めず、男――畑中は職員室の扉を開けた。
「恐れ入りますが、少々お耳を拝借してもよろしいでしょうか?」
室内にいた教師たちは、その威圧感に一斉に動きを止めた。
やがて、教頭が臆したように立ち上がる。
「失礼ですが……どちら様でしょう?」
「私、こういう者です」
そう言って畑中は、無言で名刺を差し出した。
そこには「ORVAS」のロゴが刻まれている。
教頭の眉がわずかに動いた。
「ORVAS……?」
「武藤公太君について、ご相談がありまして。
本件には極秘情報が含まれるため、場所を移させていただきたく存じます」
それを聞いた担任の若い教師が、恐る恐る口を開く。
「……武藤のことでしたら、僕も同席しても構いませんか? 彼の担任の鈴木です」
教頭はうなずき、校長室へ案内することを決めた。
校長室。
重厚な空気の中、畑中は名刺と資料を丁寧に差し出す。
「武藤公太。三年C組。現在、素行不良の常連とされているようですが……
我々のデータでは、彼の“潜在値”は突出しています」
名を聞いた校長の顔に、わずかに険しさが浮かぶ。
「……確かに、武藤は問題児です。教師にも反抗的で、ケンカも絶えません。
正直、手を焼いているのが現実です」
畑中は静かにうなずくと、言葉を継いだ。
「ですが、彼のような“強い衝動”を持つ者こそ、敵と対峙する器となりうる。
今、水面下では未曾有の危機が進行しています。
公式には伏せられていますが、すでに複数の都市が壊滅的な被害を受けているのです」
校長の手が、わずかに震えた。
畑中は端末を取り出し、公太のスカウター分析データを表示する。
「彼の戦闘直感、身体制御能力は常人の域をはるかに超えています。
我々ORVASは、彼に接触する許可をいただきたい」
しばらくの沈黙ののち、校長は静かに頷いた。
「……分かりました。ただし、彼がこの話を受け入れるとは限りませんよ」
「ええ。それでも構いません。彼の選択を尊重します」
その瞬間、武藤公太という一人の少年の運命が、大きく動き出した。
「ただ……現状では武藤君の素行には問題があり、学校としても更生が必要だと考えております」
教頭が慎重に口を開く。
「その通りでございます」
畑中はうなずいた。
「我々としても、公太君には学校に通いながら、一定の更生指導を受けていただくつもりです。
それこそが、彼の“真の力”を引き出す鍵になると信じております」
担任がうなずき、不安と期待の入り混じった表情で答えた。
「……もし、彼が変わっていくのなら。僕も、全力で協力させていただきます」
校長が深く息をつき、決意を口にした。
「……分かりました。学校生活の継続と、更生指導を前提に……ORVASへの入隊を許可いたします」
畑中は微笑み、静かに一礼した。
「ご英断に、感謝いたします。彼は、未来を担う存在となるはずです」
間もなく、鈴木に案内され、校舎の屋上へと向かう畑中。
歩きながら、担任は苦笑交じりに忠告する。
「……くれぐれも気をつけてください。あいつ、とんでもなくヤバいやつですから」
畑中は無言でうなずいた。
やがて鈴木は、屋上の前で立ち止まり、軽く頭を下げて立ち去る。
鈴木と別れ、屋上の扉を開けると、倒れ伏す20人の不良たち。
その中心で、息一つ乱さぬまま立ち尽くす少年。
武藤公太。高校一年にして、最強の不良。
畑中は思わず笑みを浮かべた。
「おぉ、派手にやってんじゃねぇか」
公太は冷ややかな視線を畑中に向ける。
「……誰だよ、テメェ」
「ORVASという組織から来た。畑中だ」
「……は?」
「お前をスカウトしに来た。世界を救うチームに入らねぇか?」
公太は鼻で笑った。
「くだらねぇ。興味ねぇよ。消えろ、オッサン」
畑中は肩をすくめ、挑発的に笑う。
「まぁ、そう言うと思ったぜ。テメェみたいなガキにゃ無理だしな。どうせ……すぐやられるだろうからな」
その一言に、公太の目が鋭くなる。
「……言ってくれるじゃねぇか」
次の瞬間、公太は拳を振るった。
だが、その攻撃はすべて、畑中に軽々とかわされていく。
「遅ぇな。それがお前の本気か?」
初めての敗北。
初めて感じた、絶対的な“格”の差。
「……クソが……」
「ま、そう落ち込むな。お前が本当に強くなりてぇなら……俺について来い」
沈黙の中、公太は睨みつけたまましばらく動かずやがて、ふっと笑った。
「……いつかテメェをぶっ倒してやる。そのために、仕方なく行ってやるよ」
畑中は満足げにうなずいた。
「フッ、上等だ」
こうして、
武藤公太の“覚醒”が、静かに幕を開けた。
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