第17話

「絵美ちゃん!!無事か!」


「私は無事でしたけど・・・」


遠藤が走り回って、ようやく被災者に寄り添う絵美を見つけることが出来た。白木と共に絵美の手伝いを始める。


「何か、凄い状況に見えるんですけど、夢じゃないんですよね」


「夢に思いたいけどね」


遠藤も絵美も、周囲の人達、高層階に住む者達は突如現れた空中に浮かぶ物体を目撃していた。


化け物が飛び出した壁が崩れて穴が開いている。そこから、紅葉と白虎も何事かと、顔を覗かせた。空中にありえない橋が出来ており、化け物が作ったものかもしれないと、紅葉は追うのを躊躇した。化け物が橋を越えて降りようとしたが、結界に阻まれて降りることが出来ない。何度か殴ってはみたが、結界はびくともせず。早く逃げ出さねば、あの雷撃が待っている。


「何やってんだ、お前ら。行くぞ」


「ここで寝てる人達はどうする?」


「放って置いても教会が回収するだろう。要らん心配だ」


葵と紅葉は、突如出現した橋へと降り立つ。言わば、空中に浮かぶ、支えのない高速道路。物理的に存在するはずもない橋。白虎達が降り立つと同時に、化物も走って逃げ始めた。雷撃を当てながら、化物を追いたてて道路の端まで追い込んでいく。前田は何とか体を起こして、大きく穴が空いた箇所から空中に浮かぶ道路を眺める。左斜め上に視線を向けると、大きく目を見開いた。慌てて、黒田の元に駆け寄り、黒田と話す。


「すみません、黒田さん。バックパックはまだ大丈夫ですか」


「・・・つつつ。多分大丈夫だろ。前の装甲剥がされただけだ。それより、どうした」


「ターゲットがいます。これはチャンスかと」


「やるのか?」


「ええ、この千載一遇のチャンスを逃す手はない」


「分かった。連結してくれ」


「助かります」


バックパックが開いて、中から銃に取り付ける部品と連結する長いケーブルを銃に装着する。スナイパーライフルの様に砲身が長くなり、スコープも付く。すぐ様元の位置に戻って、銃の先にターゲットと呼ぶ存在に向ける。失敗すればこちらの命はないかもしれない。空中に浮かぶ、一人の少女の姿を見て過去の幻影と重ねる。引き金を引くのに躊躇いはない。砲身から、集束された黄色い光が輝き、真っ直ぐに上野綾乃へと伸びていく。


「えっ何!?」


不意打ちを食らっても尚、少女にはダメージは通らない。直前で見えない壁に阻まれる。しかし眩しい閃光は嫌でも届く。スタングレネードの様な効果をもたらし、視界を奪って一時的な混乱を引き起こした。光が止むのと同時に、上野綾乃は落下を始める。


「大金星だな。倒せたのか?」


「いえ、防がれてましたよ。閃光を食らって少し麻痺を起こした程度かと」


「これでも倒せねえのかよ」


「ええ。奴がこちらに来る前に撤退しましょう。俺達の行動は無意味じゃない。ヤマタノオロチという神話でさえ、倒す為に油断を誘っています。不意打ちや油断を付けば人はいずれ神をも殺せる」


近い存在である 、上野綾乃を滅ぼす為の階段を一歩踏み出せた高揚感を感じながら、仲間を起こして、その場を離れた。


「ビックリした!!何だったんだろ・・・目がまだチカチカする」


空中で制止し、地面に落ちる前に綾乃は体制を整えた。


ゆっくりと地面に降り立ち、化け物を追いかけた葵の方角を向く。前田達の居るビルから離れた所で、黒い和服を着た少女が、高層階のビルの屋上から、化物が森へと逃げたのを眺めていた。それから、自身も化物を追うべく森の中へと入って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る