第12話
ハンバーガーで腹を満たした後は、遊技場へと足を運んでいた。ゲームセンターやビリヤード等色んな遊びがある複合施設。ひとしきり楽しんだ後、最後にその中のボーリングのスコアボードを眺めて、遠藤が苦笑いをしている。最初は、マイボールを所持している船橋の圧勝かとも思われたのだが蓋を開けて見れば、絵美の一人勝ちであった。
「ボーリングなんて初めてなんで、手加減して下さいね!!」
なんて最初は可愛い事言うなと思ったのも最初だけ。初めてのビギナーズラックか、はたまた独特な転がし方が功を奏したのか。ストライクを連発して中盤になって段々と笑いが消えていく。気付けば全球ド真ん中ストライク。
「ボーリングって楽しいですね!」の一言で船橋のプライドは粉々に砕け散った。
「あんなんボーリングじゃねえよ!!」
「初心者にそうカッカしなさんな。船橋さんらしくもない」
遠藤が宥めてようやく落ち着いた所で、清算を終えて全員でボーリング場を出ると周囲はすっかり暗くなっていた。
「じゃあそろそろ戻りますか」
「あれ、何だか騒がしくありません?」
轟音が響いて煙が上がっており、暗いはずの空が炎の色で映えている。沢山の人だかりが見え、何事かと集まっている人々の姿が見えた。それとは少し離れた方向に、獣の様な声が響き渡っている。化け物が人に襲い掛かっており、逃げ惑う人々と悲鳴が聞こえた。
周囲はすっかり夜になり、綾乃と洵がカラオケボックスから出てくる。
「あー・・・久しぶりに歌ったわね」
「また行こうね!!・・・あれ、何だろ」
パトカーと消防車、そして救急車のサイレンが鳴り響く。そして向こう側から大勢の人が走って逃げている。夜空が赤く光っていて、二人は人混みの中を掻き分けて現場へと向かった。数台の車が横転、火災しており爆発する。周囲の何かしらの店舗にも被害が出ており、ガラスが散乱している。道路には何人も人が倒れていて、出血している者もいる。2人は急いで現場に向かうと橘 葵がエイリアンの様な化け物と戦う姿が見えた。俊敏な動きで相手の攻撃を回避して、反撃を繰り出している。彼の後ろには怯える市民が恐怖で身をすくめていた。大きな白虎に乗った少女が虎に命じて雷を放ち、直撃すると嫌がって化け物は別の場所へと移動していく。
「今のうちに避難して下さい!!急いで!!」
葵がそう言って、また化け物を追いかけていく。化け物が向かった先で更なる悲鳴が聞こえて来た。葵も険しい表情を浮かべている。それから、彼は悲鳴の元へと向かった。
「橘君・・・」
陰陽師で京都を守護する退魔師という事は聞いていた。驚く事ではない。でも彼の仕事の現場を見たのは初めてだった。
(何よ、あいつ。全然守れてないじゃない)
心配する綾乃とは対称に洵は辛辣な言葉を吐く。
「分かってると思うけど、行っちゃ駄目だからね」
自分なら、すべて事もなく解決できる。しかしそれで本人が喜ぶかどうかは別問題だ。
「分かってる。けど・・・」
綾乃は食い下がり、洵と共に後を追いかけた。
白虎の後ろに乗って雷で牽制する少女の姿と、刀を持つ黒い装束の少年の姿が見て取れる。彼の衣装には京都守護職の羽織を纏っており、新選組や忠臣蔵の様なデザインが施されている。普通に人が往来する様な歩道で、目を疑う様な光景が繰り広げられており、化け物が人を襲う瞬間に雷が打つ音が響き渡る。その瞬間に春坂が光の鎖を出現させて、化け物の拘束を狙うも、やはり一瞬にして引き千切られてしまう。少年が隙を突いて刀で幾度か攻撃を仕掛けるも彼の攻撃を食らう前に後ろへと下がっていく。食らいたくないという化け物の心情が垣間見えた瞬間。少年もそれを知って嬉々として化け物とのゼロ距離で何度か刀での攻防を繰り返す。
「次、逃がしたらもっと被害が拡大するぞ。どうすんだこの状況!!!」
「あんたはとりあえず、人払いしてりゃいいのよ!!有効打になってるのは白虎の攻撃なんだから!!」
「言い争いは後にしてくれ!!今はこいつを街から追い出す事を考えるんだ!!後紅葉君は白虎の雷が市民や同士討ちにならない様に攻撃の際には細心の注意を払って!!また私が倒れたら今度こそ建て直しが利かないよ!!」
「分かってます!!」
春坂が必死に打開策を考えてはいるものの妙案が出ない。応援はすでに呼んでいるが
到着が遅れている事に春坂も焦りを感じていた。
「いいぞ、やっちまえ!!」
白木が叫ぶと、思わず遠藤は口を塞ぐ。しかし、遅かったのか、化け物が一瞬こちらを向いた。思えば、白木と化け物は直近で顔を合わせている。化け物が覚えていても何ら不思議ではない。
「馬鹿野郎!!」
「白木さんの馬鹿!!」
「馬鹿白木ィ!!―――――――逃げるぞ!!」
「俺のせいっすかああああああああああああああ!?」
4人は目を配らせて、それぞれ1、2の3で別方向へと散った。なるべく人気の無い方向へと向かった方が良いがここは市街である。どこへ行こうにも必ず人は居る。どちらかと言えば周囲に気が散らないかも不安が残る。というか、この最中に一般人に被害を出す訳にもいかなくなった。
「お前!!生きて帰れなかったら死んでも恨むからな!!」
白木と遠藤は真っすぐに、船橋は左へそして絵美は右に角を曲がる。
「化けて出て貰っても何も出ないっすよ!!」
「いいから走りに集中しろ!!糞、あっちに行ったか!!、戻るぞ」
「ええエエ!?」
化け物は、絵美に向かって行く。車や他の人々に今関心がないのか、途中それを目にして慌てている者達には、幸いにして被害は行っていない。後ろを確認しながら、今自分だけが狙われているこの状況が不幸中の幸いとも言えた。走るスピードはその体重もあるのだろう、それほど早くはない。白虎を駆る少女と、刀を持つ少年が後を追いかけては来ており、白虎は後ろから雷撃を放ってはいるが、威力を抑えているせいか、大して効いていない。少年も追いかけるのがやっとか、手を出せないままでいる。絵美はそれからまた右の角を曲がった所で絵美は思いがけず、足を止めた。目の先に女性が倒れており、子供が泣いている。怪我人が沢山倒れているのが散見出来、そこから先へ逃げ出す事が出来ない。窓やミラーガラスの破片が散乱しており、現場は凄惨たる状況。化け物が暴れた爪痕がまだ目の前に広がっていた。
後ろを見れば、もう目の前に化け物が近づいている。
絵美は意を決して向き直り、手を広げて化け物に対峙した。
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