第7話

 九条駐屯地は第三師団隷下に属する組織である。一つの駐屯地に全ての部隊が配属されている訳ではなく各駐屯地にその割り振りがされ近畿圏全体で一つの大きな部隊として運用しているのが現状である。第7普通科連隊と呼ばれる部隊は京都の福知山駐屯地に配属され、第3特科隊と呼ばれる部隊は姫路に配属されており有事の際には司令塔が手足の様に動かすように連携を取る事も想定されている。普通科連隊、即応起動部隊等の市街地、野戦等の他妖怪の討伐等も想定されている。九条駐屯地はその中でも普通科連隊の他、即応起動部隊、通信、飛行、施設、戦車部隊等各駐屯地の役割がコンパクトに収まり運用されている。流石に高射特科隊と呼ばれる様な重装備の車両はないが、戦車隊は存在しており、常時ではないが京都の山奥にて演習が行われている。絵美達は普通科連隊に属しており、戦車やヘリコプター等の点検、運用等には関与しない。訓練内容は重火器の扱いの向上、チーム連携の強化、体力、気力の向上、想定された事態へのスムーズな解決を図る為の訓練が行われている。時にはチームで別れてのサバゲーの様な訓練からテロを想定した建物の侵入と制圧を行う訓練、ある日には山へ行軍へ行き、部隊の皆と掘られた塹壕で見張りをしながら一夜を過ごす等、どれも神経と体力を使う物が多い。特にレンジャーと呼ばれる資格を取得する際の訓練内容に至っては地獄である事が有名である。今回の絵美達の訓練はそのどれにも当て嵌らない九条駐屯地にしかない妖怪討伐を想定した訓練である。京都の山奥で行われる。訓練には陰陽庁と呼ばれる陰陽師が式神を作り出し、それに部隊が会敵し、殲滅を行うというものである。設定としては、この森に逃げ込んだ妖怪を囲み、索敵範囲を狭めて討伐。今回部隊は3つに別れて行動する。装備は通常の武器ではなく、銀銃(シルバーバレットガン)と呼ばれる専用装備。白木、遠藤、絵美、船橋、秋山は周囲を警戒しながら、森の中を進んでいた。時刻は午後20時を過ぎており、暗視ゴーグルを装着しながらの行軍となっている。


「どうした白木、そんな顔して」


暗視ゴーグル付きでも分かる白木の陰鬱ムードに船橋が突っ込む。


「こんな夜更けに妖怪との訓練なんかやりたくないッス」


「何言ってんの白木は、こんな実践に近い訓練なかなか出来ないんだぞ?もっと喜べよォ」


「やりたくないから言ってんスよ!!ね、絵美ちゃんもそう思うだろ?」


「え、私結構面白いって思ってるんですけど・・・楽しくないですか?肝試しみたいで」


みたいではなく、本物が出る予定となっているのだが。


「・・・君は長生きするよ。間違いなく」


羨ましい、と白木は呟くと遠藤が無線で別の部隊に連絡を入れる。


【各自装備の準備は整っているか確認を。ドローンの用意は整っているか?】


【了解、準備出来次第開始する】


【こちらも準備出来ている。いつでも可能だ】


船橋がゴーグルを外して荷物から地面にドローンを置いてスイッチを入れる。ふわりと浮かび上がり、白いドローンが空中を闊歩していく。赤外線センサーや熱感知が可能で、妖怪を空から丸裸にしてくれる優れもの。操作をしているのは遠藤達ではなく、小型カメラから遠隔操作されている。遠藤達の近くでアンテナを取り付けられた車が待機しており、そこからパソコンで操作をしているのである。自衛隊内で行われる模擬戦において20年無敗と謳われた自衛隊の部隊が存在していたがこのドローンの登場により、敗北した。斥候を排除し続け、一切の情報を排除する戦術が、空からの情報収集により彼等の行動が丸裸になった為と言われている。装備が戦術を覆した瞬間だった。海外ではすでに小型のマシンガンを装備したドローンが存在しており、戦争になれば人と人が争うのではなく、意思持たぬ機械に全滅もありえる世界へとなりつつある。しかしドローンに弱点がない訳ではない。電波を妨害すれば無力化が出来るので、今後ドローンアンチ技術も並行して行われていくと予想されている。ドローンを動かしている者が画面から、赤外線と熱感知で妖怪の姿を捉えた。3つの部隊が丁度その妖怪を囲っている状況にあり、各部隊からは1.5キロメートル程の距離。4足歩行の不気味な存在は動かずじっとしているようで、好機とみて各部隊に状況を告げた。車の中には本作戦の司令官も椅子に腰かけて化け物の顔を確認する。


「子供の頃は良くこういうのを見て面白がってはいたが、実際目にすると奇妙としか言えんな」


「ハハ、確かに。ゴーストバスターズとか良く見ていたものです」


【距離1.5キロ。A班は2時の方角へ前進、B班はそのまま正面へ。C班は10時の方角へ前進せよ】


遠藤達はC班である為、10時の方角を進む。ドローンはより詳しい詳細を得る為、対象へと近づかせる為、降下させる。上手く木々の間をすり抜け、降下させると、ドローンの音に妖怪も興味を沸いたのか近づいて来た。映像をパソコンに映して正体を丸裸にしてやろうと画面に映す。宇宙怪物の様な風貌に大きな歯と顎。大きな目が特徴的で、不気味に思える。ドローンを掴まれ、木に叩き付けられて破壊されてしまった。やられた、と思ったが大きな収穫を得た。ドローンから、追尾する為の信号を放つ装置を射出し、化け物の体に取り付ける事に成功しておりまだその事に化け物は気付いていないのだ。もう一つの映像には、各部隊の青い点3つと、赤い点が近づきつつある。


司令官が、無線で各部隊に指令を下す。


【ドローン1号機が破壊された。しかし発信装置の取り付けは成功している。各部隊はそのまま前進続行、会敵次第砲撃を許可する】


【A班、了解】


【B班、了解】


【C班、了解】


「大変です!!妖怪がA班へ疾走中!!もの凄い速さで向かってきています!!」


「好都合じゃないか。すぐにこの糞任務を終わらせてやれ」


「了解」


【A班、聞こえるか。今妖怪が間もなくA班に迫っている。そのまま正面で迎え撃て。残りの部隊は一時待機。射線が重なる可能性が高い】


【了解】


【A班、妖怪の目視を確認、これより攻撃を開始する】


パパパパパ!!と夜に銃が放たれる音が響く。


【A班交戦中、銃に気付いて木々の間を移動している為、攻撃は命中出来ていない】


司令官が舌打ちして命令を下す。


【大丈夫だ、発信機がある限り追跡は出来る。A班は前進、残りの班はそのまま待機】


【了解】


A班が命令を受けてそれから10分間の探索が続いた。警戒しながらの行軍になる為移動も遅い。


【A班、妖怪との距離が迫っている。目視はしているか】


【いや、まだだ】


画面には、A班の青い点と赤い点が重なりつつある。


【A班注意されたし、すでに距離は目視出来る範囲内に居る】


【・・・居ない。・・・いや、これは】


A班の一人が、赤く光る小さな機械を地面で見つけた。拾い上げようとした瞬間、横から化け物が現れる。


「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


再度銃声と今度は悲鳴が入り混じる。遠藤達は待機の為その場で待つしかない。銃声が鳴り止み、周囲がしんと静まり返るとA班の任務完了の声を待ち望んでいた。


【A班、応答しろ。状況はどうなっている。妖怪は掃討出来たのか?】


A班からの無線の音が鳴り響く。但し、聞こえてきたのは人間の声とは思えない化け物の奇声だった。化け物は無線を使って相手に宣戦布告した後、ぽいと無線機を放り投げる。町で4人を殺害した化け物が、気分良く凱旋して森へと帰って来た事等知る由もなく。目の前に倒れている血塗れの自衛隊員達に満足しながら、次の遊び場をここと定めて、化け物は昂った感情を吐き出す様に声を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る