第4話
拍手が巻き起こる中で、窓から犯人役の2人が顔を引きつらせながら手を振っている。遠藤と前田に銃を向けられているので気が気ではないのだろうが、大勢の市民にそんな事は分かりえない。その様を見て舌を打つ者がブルーシートの中で動き始める。年は50代半ばの男性。ポケットに手を入れて、そっとガス銃をポケットの中で握りしめる。この辺りは昔、街の観光名所として大いに賑わっていた。復興が再開して元に戻ると思っていたら、政府はあろう事か自衛隊の基地を街中に組み込んでしまったのだ。有事の際には役に立った事も勿論覚えてはいるが、懐かしい土地の思い出が汚された思いは強かった。もう一度、あの頃を取り戻そうと有志を募って運動をしているが効果は薄い。訴えなければいけない。大きな声を張り上げて。取り出そうとした瞬間、一人の自衛官に声を掛けられた。が男に急接近する。変な汗がぶわっと噴き出す。不味い、これで作戦が失敗すれば一矢も報いる事が出来ない。
「・・・・・・・・・?」
変な沈黙が1分30秒流れた後、男は答えた。
「いえ、本当に大丈夫ですから。心配しないで下さい」
「そうですか、具合が悪かったらいつでも言って下さいね」
自ら鼓舞して立ち上がろうとしていたにも関わらず、彼女の爽やかな笑顔で立ち上がる意思を奪われた事に自分でも吃驚する。
「ありがとう御座います」
男の脳裏に悪魔が囁く。仲間の仇だ。こいつを人質にとって暴れてみせれば彼等の面子は丸潰れになるだろう、と。絵美が自分に背を向けて歩き出す所を手を伸ばす。しかし絵美が無線に反応して返答した。
【はい、怪しい人物を見つけましたが大丈夫です。多分・・・大丈夫じゃないかと】
ピクリと男の手が止まる。
絵美が後ろを振り向いて、困った顔で 大丈夫ですよね? といった顔で訴えてくる。
最初からバレていた。彼女はその上で見逃してくれていたのだ。
男は観念して全てを諦めた。建物でこちらを凝視している仲間等気にもならない。
【絵美さん、そっちはどう?】
【今から目星付けたターゲットを監視します。怪しいミリタリーの服着てますしあれ、本物の防弾チョッキですね。軍事オタクでしょうか。何か所持している可能性あります】
そう、絵美は何も分かってはいない。さっきももう一度心配になって後ろを振り返っただけ。
しかし九条駐駐屯地のド天然系小悪魔はこうして展示会の窮地を救ったのは事実であった。
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