第10話
研究所の側面から跳躍して敷地に入り込み、手首のワイヤーを使って3階の窓を割って引っ掛け、ワイヤーを戻して一気に窓から侵入した者が居た。覆面を被った傭兵の様な風貌をしており、刀を携えている。上の方から轟音と揺れが響いて建物も少し揺れた。
「研究所の中に入る事には成功。これより任務に入る」
【二宮准尉、間もなく自衛隊とSATが来ますので、時間を稼いで下さい】
「分かってるわよ、時間は稼ぐ。でもあの子が無事に離脱したらすぐにここを離れるからそのつもりで」
【分かっています。ご武運を】
「さて、とっとと終わらせて帰りますか」
刀を取り出して、覆面の女性は階段を上って行った。途中で交戦に入って、パイナップル爆弾付きのクナイを放り投げて数を減らす。相手の銃弾はすべて刀で弾いて逸らし、一人二人と斬っていく。その凄まじい快進撃にテロリストも恐れを抱いて攻撃が引き始めた。自衛隊の到着の連絡も入り、そちらに向かった者も出始め好機とみて研究所の最上階の廊下まで一気に階段を駆け上がると狭い空間の中で銃を持つ相手に刀一つで接近戦で相手を薙ぎ倒していく。被弾もせず、刀一本で弾を弾くか切り捨てる。黒いタンクトップに防弾ベスト。迷彩のズボンと腰に銃を携え前進していく。気がつけば最上階に十数名いたテロリストは3名にまで減っている。
「吸血鬼の子飼いの者か!?」
その人物は何も答えない。
ゆっくりと前進していくその様に恐怖を覚え、残ったテロリスト達はその悪鬼羅刹に銃を撃つ。気がつけば相手はどこかに忽然と消えテロリスト二人が窓の外にダイブしている。いつの間にか背後を取られ、最後の一人の首に刀を突きつけて尋ねる。
「違法に手に入れた自動式人形は今どこにある?」
「おっ屋上だ!!今頃荷物を積んで離陸準備に入ってるだっ!!」
最後の台詞を吐く前に、彼を窓の外に放り投げた。
正面玄関の近くで、女の子3人が逃げているのを確認してため息を吐く。
「任務は達成。後はおつかいをどこまで頑張るか」
後ろ端の階段から下の階層で様子を伺っていたテロリストが姿を現したのが見え彼等の後ろにある壁にクナイを突き立てた。但し、パイナップル型の爆弾付きで。轟音と爆発が起きて、正面を向いて歩き始めると
急に悪寒が走って、背後に迫る何者かに備える。
「あんた強いねぇ。ちっとは楽しめそうだ」
赤い特攻服を着た若い青年が、刀を持つ人物に強襲する。体格差は歴然だったが、男の素早い動きに対して微動で回避し、下がりながらほぼその場から動かず対処している。刀を持つ人物が身を低くして前に転がり、反転してから、足を狙って攻撃するがジャンプして回避される。お互い距離を取って再度構える。覆面の人物が腰に下げたハンドガンを取り出して剣と銃の二つを携えた。先に攻撃を仕掛けたのは人狼だった。正面から殴りかかろうとするタイミングを見計らって銃を発砲する。男はそれを掌で受け止めようとしたが貫通して首と胸に弾丸が突き刺さり、思わず人狼の動きが止まった。その隙を逃さず、後ろ回し蹴りを胸に当てて後ろに吹き飛ばす。しかし、何事も無かったかのように起き上がって、男は赤いオーラの様な物を纏う。
「お前普通の人間じゃねえな?陰陽か教会か、いずれにしても裏の顔だ」
犬歯がより鋭くなり、爪も伸びる。傷も塞がり、治っていく。
「ちっと本気出してやる。もっぺん撃ってみ?」
試しに発砲すると、俊敏な動きで回避された。
「確かに、素早さは増したみたいね」
銃を手放して、刀を構える。人狼は目の前の刀に危険を感じた。一歩後退して距離を取る。しかし、人狼はその危険に敢えて踏み込んだ。刀は微弱に光り輝き、破邪の光を照らす。剣の間合いに入る刹那に後ろに跳んで刀を回避する。振り下ろされた刀の異常な力を前にして息を呑んだ。
「妖刀村正にも勝るとも劣らん、妖魔滅殺の類のあれか」
「貴方もそれに気づいて、動きを止めたのは流石、元牙狼の王ね」
「知ってやがったか。陰陽庁だな?そんなにあの妙な人形が欲しいのか」
「この国の法律じゃ、魔術師の世界から急速に発展した技術の流入は国の許可無しには認められていない。法改正にはにはもう少し時間が必要・・・それより透明になったくらいで気配の消し方は素人ね」
刀を何も無い空間に翳すと、その場にシュメイルが現れる。
「エリザ様と陰陽庁とで密約があるって聞いたんだけど?」
「今回の一件を存分に主に伝えればいいわ。散々送った書状を無視した罰ね」
警察よりも早く自衛隊の車が到着し軍用ヘリコプターの音が幾重にも重なり、響き渡る。
武装した集団が建物に乗り込み残党の掃討とまだ息のある人への救護活動を同時に展開する。
「時間切れっぽいなぁ。おいあんた、今度会ったら最後までやろうぜ」
男は、最後にそう告げて、窓から飛び降りこの場を去った。
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