幼馴染の美少女に不気味なキーホルダーを貰ったら、女になってしまった件

ゆさま

不気味なキーホルダー

 角村蒼つのむらあお高校二年生、何の取り柄もない普通の男子だが、他人より恵まれていることが一つだけある。  


 それは、幼馴染の超絶美少女、清岡早紀きよおかさきの存在だ。


 保育園で知り合ってから、早紀は毎日のように俺の部屋に遊びに来て、高校生になった今でも、とても良好な関係だと思っている。


 最近めっきり女っぽくなって、俺は意識してしまうのだが、彼女は俺を何とも思っていない様子なのが残念ではある。


 そんな彼女が、今日も俺の部屋に遊びに来ていた。


 連休に家族旅行に行って、お土産を買って来たと差し出すのは、不気味なデザインのキーホルダー。


 幽霊……いや、亡霊かな? 白地のボディに黒くて大きな目のような模様が、苦しんでいるように見えてなんか怖い。


 少々引いたが、せっかく買ってきてくれたんだからと、手を出してそれを受け取った。それにしても、見れば見るほど不気味だ。


「何だよ……これ。なんか気味悪いけど」


「路地裏の怪しげなお店で売ってたんだけど、なんかね、願い事が叶うらしいよ」


 普通に饅頭とかの方が良かった……。とは口に出さずに「ありがとな」とポケットにしまった。


 すると早紀は「どういたしまして」と、にっこりと笑う。


「寝るときに、それを枕の下に敷いて寝ると、願いが叶うみたいだから試してみてね!」


 おいおい、こんな不気味なものを枕に敷いて寝たら、悪夢見るんじゃね?


 ドン引きしている俺に向かって、早紀はもう一度「試してみてね!」と栗色の髪を揺らしながら、念を押すように顔を寄せた。


「う、うん、まぁ、気が向いたらね」


 俺が苦笑いで返すと、早紀はスマホを取り出してチラッと見た。


「もうこんな時間だ。じゃあまた明日!」と、彼女は手を振って帰って行った。




 * * *



 

 ――その晩。


 横になって瞼を閉じると、早紀のキーホルダーのことを思い出した。


 起き上がって、机の上に置いておいたキーホルダーを摘まんで見つめる。


「願い事が叶う。……か」


 不気味なキーホルダーを、黙ってしばらく見つめる。まさかな。そんな都合のいい話があるわけないよな。でも……。


「早紀と今よりも親密な関係になれますように!」


 そう口にした後で、恥ずかしくなって頭をポリポリとかく。


 何やってんだろうなぁ、俺は。


 どうせ叶わないだろうと思いながらも、結局は枕の下に敷いて寝たのだった。






 やかましいアラーム音で、目が覚めた。


 枕元のスマホを操作して、アラームを消す。眠い目をこすりながら、のそのそと起きて洗面所に行って顔を洗った。


 なんか、髪が邪魔だな。この前散髪にしたばかりなのにやたらと長い……。


 鏡を見ると、やけに艶のある髪が肩より下まで伸びていた。


「……え?」


 髪をかき分けて、鏡に映った自分の顔を確認すると、知らない顔が映っていた。


「なんじゃこりゃぁぁぁぁー!!」


 俺が叫んだはずなのに、女の子の叫び声が上がった。事態を飲み込めずパニックになりかけたが、一旦深呼吸をしてもう一度鏡をよく見た。


 長くて絹糸のような光沢の黒髪に、パッチリと大きな瞳、きめの細かな白い肌、整った造形の鼻と、小さく瑞々しい紅色の唇。


 そして胸部には、ダボっとしたTシャツを押し上げている、丸くて大きな膨らみがあった。


「これ……、おっぱい?」


 俺がその膨らみに手を伸ばそうとすると、洗面所のドアが開いた。


「蒼ー、何騒いでんのー、ええっ、あなた誰?」


 母親が目を丸くして俺を見ている。


「俺、蒼だよ! 気が付いたらこんな風になってて!!」


 母親はジッと俺を見ている。数秒の沈黙の後、母親は口を開いた。


「蒼……。なんて可愛らしい女の子になって! 母さん、女の子が欲しかったから嬉しい!」


 おい、そうじゃないだろ!? と思っていると、母親は嬉しそうに続ける。 


「ああ、でもどうしましょ? 服とか色々準備しないと! 今日は学校に行くのに制服はどうしたらいいかしら? ちょっと学校に電話して聞いてくるわね!」


 息子が女になりましたって、学校に電話するつもりなのか? そんなの取り合ってもらえないと思うのだが。俺のそんな心配をよそに、母親はスマホを手にして行ってしまった。


 その時、インターホンが鳴ったのと同時に早紀の声がする。


「おーい、蒼ー! 早くしないと、置いて行っちゃうよー!」


 やばい、早紀が来た。どうしようか迷ったが、無視もできないので玄関のドアを開けに行った。


 早紀は俺の姿を見ると、目を見開いていた。やっぱり驚くよなぁ……。


「こんななりしてるけど、俺、蒼だよ」


 すると早紀は、更に目を大きく開いて、手で口を覆った。そして数秒の間をおいて「えっ、うそっ? 私の……、願いが叶ったー!!」と叫んで、俺に抱きついてきた。


 早紀の甘い香りと柔らかい感触に包まれる。その心地よさに感激していると、後ろから母親の声が聞こえた。


「今日は、男子の制服でもいいって。あ、早紀ちゃんおはよう」


「おばようございます! おばさん、制服なら私のスペアを蒼に貸すから問題ないよ!」


「そう? 悪いわねー」


 へっ? そういう問題じゃないだろ? 母親も早紀も、俺が女になっていることを普通に受け入れてないか? 


 早紀は我が家の隣にある自宅に戻っていった。


「蒼は早く朝食を済ませなさい」


 母親に促されるまま朝食をとっていると、早紀が色々持って戻って来た。


「蒼の部屋で待ってるから、早く来てねー」


「お、おう……」




 部屋に戻ると、ハンガーラックに女子用の制服が掛かっていた。


 俺が面食らっていると、早紀が急かす。


「まずは服を脱いで」


 俺がTシャツを脱ぐと、ボロンと大きな膨らみが露わになった。


 体が女になったとしても、心は思春期の男子だ。その部分をよく確認したいという気持ちはある。


 だが、早紀に変態野郎と思われたくないので、気にならない振りをしてズボンも脱いで、ボクサーパンツ一枚になった。


「じゃー、まず、これ着けよっか」


 早紀はブラを俺に差し出すので、俺の鼓動が跳ねた。


 同時に下腹部にジンと熱を感じるが、パンツが押し上げられる感じはしないので、きっと下もそういうことなんだろう。


 何とも言えない昂りを感じるが、俺は冷静な振りをして、ブラを手に取る。


「これどうやってつけるんだ?」


「私がやってあげる」


 早紀の指示に従ってブラに手を通すと、早紀が後ろに回ってうまい具合に着けてくれた。


「私のブラがサイズぴったりだね! 蒼と私のおっぱい、同じ大きさなんだー」


 これ、早紀の着けてたブラジャーなのか? そう思うとさらに興奮してきた。


 その後、シャツとスカートも着せられ、ネクタイや靴下、ブレザーも着せられた。


 さらに早紀は「蒼の髪の毛、とってもきれい!」などと言いながら、俺の髪を整えてくれた。


 ちなみにパンツは男物のボクサーパンツのままだ。女物のパンツを勧められたが、それを穿くのは物凄く悪いことのような気がしたので断った。

 

 着替え終わった俺を、早紀は嬉しそうに洗面所まで手を引いて連れて行った。


「蒼、とってもかわいいよ! 自分で見てみて」


 鏡には、早紀と並んで見知らぬ美少女が映っている。


「これが……俺?」


 その美しさに見惚れていると、洗面所に母親がきた。


「まー、蒼ったら、素敵なお嬢さんになって! ありがと、早紀ちゃん」


 早紀がいえいえと首を振ると、母親が言う。


「今日は私が車で学校に送っていくわね! 少し遅刻することも学校に連絡しておいたから。もちろん早紀ちゃんもね」


 このありえない状況に、普通に順応している。もはや何も言うまい……。


 鞄を持って玄関を出ようとした時に、尿意を感じた。


「ちょっとトイレ行ってくる」


 トイレに入って、ファスナーを下げようと自分の股間に手を持っていった。しかし、ファスナーの代わりに、ひらひらとした布地が手に触れた。


 ハッとして下を見ると、プリーツスカートが揺れている。ドクンと鼓動が跳ねるが、もう漏れそうなので考えている暇はない。スカートをたくし上げて、パンツを下ろし便座に座った。


 股間の力を抜くと、チョロチョロと水音がした。


 うぅぅ、股間が温い液体で濡れてる……。どっから出てるんだろ?


 全部出したはずなのに、まだ股間からポタポタと水滴が垂れている。


 ……拭かなきゃ。


 スカートをたくし上げて股間を確認すると、昨日までそこにあったはずの棒状に飛び出した部分は無く、のっぺりとしていた。


 じっくりと確認したかったが、早紀が待っているので、雑念を振り払うように首を左右に振った。


 トイレットペーパーをカラカラと引き出して、股間に当ててふき取る。何度か繰り返して紙が濡れなくなったのを確認して立ち上がった。


「蒼ー、ちゃんとできるー?」


 トイレの外から早紀の声が聞こえる。


「あ……うん、今出るから」


 そそくさとパンツを上げ、手を洗ってトイレから出た。

 

「さぁ、早く学校に行こ」


 早紀はにっこりと笑うと、俺の手を引っ張った。


 玄関を出て歩くと、それだけで違和感だらけだ。股間に揺れるモノが無い代わりに、胸部がタプタプと揺れるし、短めのプリーツカートは、歩くたびに風をはらんでふわりと持ち上がる。


 これじゃ、パンツ一枚で歩いているのと変わらんな。


 そんなことを思いながら、母親の車に乗り込んだのだった。




 * * *



 

 母親の運転する車で、学校に向かう道すがら。



 早紀と俺は、車の後部座席で並んで座っている。二人の肩は密着しているし、早紀は俺の手を握っている。


 やけに距離感が近いな。そういえば、そんなことをあのキーホルダーに願ったっけ。その意味では願いが叶ったともいえるかな?


 願いと言えば、玄関を開けた時、早紀は妙なことを口走っていたよな?


「さっき、早紀が『私の願いが叶ったとか』とか言ってたけど、あれって、どういうこと?」


 早紀は気まずそうに目を伏せた。


「蒼が女の子になりますようにって、あのキーホルダーにお願いしたから……」


「ってことは、早紀のせいかよ!? 何でそんなことを願うんだよ?」


「だって、まさか本当に蒼が女の子になっちゃうなんて、思ってもみなかったし……」


 俺は「これ、元に戻るんだろうな?」と深くため息を吐いた。


 早紀は不満そうに口をとがらせる。


「えー、せっかくこんなに可愛くなったのに、元に戻ったら嫌だよ!」


 すると運転している母親も口を挟む。


「いいじゃないの、女の子のままで。今の蒼、とっても可愛いわよ」


 何を言っても無駄か。


 俺が黙ると、早紀は嬉しそうに俺にもたれかかって来た。


 早紀がこんな風に俺にくっついてくれることが、今まであっただろうか? 彼女の温もりで、俺の心臓は高鳴っていた。 




***

近況ノートに蒼のイラストが貼ってあります。

https://kakuyomu.jp/users/hekspyz/news/16818622174777663859

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