第25話 魔法医師会再び
ある日のことだった。
焼き菓子の甘い香りが、広場にふわりと広がったころ。
紬とリーゼは、子どもたちと一緒に絵本を読みながら、ほんの少しだけ焼いたお菓子を分け合っていた。
そのときだった。
遠く、村の入り口に数人の影が現れた。
長い上衣には細かな刺繍が施され、肩からは青い布が垂れている。胸元には銀の飾り、腰には装飾のついた杖。
その独特な装いに、紬は思わず立ち上がった。
――魔法医師会の人間だった。
その中には、以前、怪我人の件で言い争いになった、あの冷たい目をした医師の姿もある。
「……あいつが、魔法医師会の?」
ラセルが唇をきゅっと引き結びながら、紬の隣に立った。
医師たちは無言で村長を呼び出し、少し離れた場所で何か言葉を交わし始める。
そのやりとりは、穏やかとは言い難い空気に包まれていた。
やがて、一人の医師がゆっくりとこちらを振り返る。
――以前口論した、あの男だった。
「見つけたぞ、おかしな魔法を使う娘よ」
「あなたが、“メイスの話に出ていた少女”ですね。村での生活を捨て、医師会に入る決意は、できましたか?」
メイス。どうやら、その男の名前らしい。
唐突な問いかけにも、紬は一歩も引かなかった。
「なんで捨てなきゃいけないんですか?
私たちは、ただ、楽しく暮らしているだけです。困っている人がいたら、手を貸す。」
その返答に、メイスは露骨に眉をひそめた。
「だから困るんだって。民間人が勝手に、それも無償で治しちゃうとさ……医師会の権威がなくなるし、儲けも減るし!」
そこへ、別の医師が小さくため息をついて口を開いた。
「メイス、儲けというのは下品な表現ですよ」
飾りの多い杖を持ったその男は、淡々とした声で続ける。
「もう一度、聞きます。少女よ。魔法医師会へ入る決意は、できましたか?」
その問いかけにも、紬は静かに、しかししっかりとした声で応じる。
「魔法医師会に入らないと、人を助けてはいけないんですか?」
一瞬だけ――問いかけた男の目が揺れた。
けれど、その揺れはすぐに消え、また冷たい表情に戻る。
「……近いうちに、正式な通達を出します。
魔法医師会非公式の活動は控えるように。――これは忠告です」
それだけを告げて、男はローブを翻した。
他の医師たちを従えて、村の外へと静かに去っていく。
その背中には、どこか焦りのような色がにじんでいた。
「……どうすればいいんだ」
ラセルがぽつりとつぶやく。
子どもたちは、なにが起こったのかわからず、ぽかんと立ち尽くしていた。
一人の少女が、胸に抱えた絵本をぎゅっと強く握りしめている。
紬はそっとその子のそばに歩み寄り、やさしく頭を撫でた。
「大丈夫だよ」
その声は静かで、けれど、確かな強さを秘めていた。
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