第14話 魔法医師会との出会い

朝の光が、集会小屋の隙間から差し込んでいた。

窓にかけられた布の向こうから、小鳥の声と、遠くで薪を割る音がかすかに届く。


紬は、ゆっくりと目を開けた。昨夜は寝つけなかったのに、眠っていたようだ。となりにはリーゼがいて、まだ静かにまぶたを閉じている。


――あの人、どうなっただろう。


紬はそっと体を起こし、荷物のそばに置いていた本を手にとった。そのとき、リーゼも目を覚ました。


「おはようございます。紬さん。」


「おはよう、リーゼさん。……あの、さっき思ったんですけど、怪我をした人のところに……ちょっと、行ってみてもいいですか?」


「私も、気になっていました。一緒に連れてってください。」


二人は小屋を出て、昨日の小屋――村の奥にある、あの小さな建物へと向かった。


けれど、その場には、昨日とは違う空気が流れていた。


村人たちは距離をとるようにして小屋のまわりに集まっていた。そして、小屋の前には見慣れぬ男が立っていた。

長い上衣に細かな刺繍が入り、肩からは青い布が垂れている。銀色の飾りを胸にさげ、腰には装飾のついた杖。


それは、ひと目で“権威”というものを感じさせる男だった。


男は中に入り、静かに脈を取り、何かをメモしているようだったが、紬たちの気配に気づくと、振り返った。


「ふうん。君たちか」


その声には、軽い皮肉のような響きがあった。


「困るんだよね。医師会に入ってない人が、勝手に。

しかも無料で怪我を治しちゃうとさ」


紬は思わず立ち止まる。リーゼがそっと隣に立ち、紬の腕を支えるようにした。


「……でも……すごく、痛そうで、苦しそうだったから……」


紬の声は小さかったが、はっきりしていた。男はそれを聞いて、一瞬だけ同意するようにうなずいた。


「そうだよね。苦しそうだった。そりゃあ、助けたくもなる」


けれど次の瞬間、男の口調は冷たく、はっきりと変わった。


「でも、助けるなって言ってるんじゃないの。

治療には、ちゃんと対価をもらいなさいって話。

魔法医師の育成にも、スキルアップにも、資金は必要なんだよ。

目の前の人間がどうなるか――それよりも、医師会を支えられる人間を大切にすべきなんだ」


村人たちは言葉を失い、沈黙が辺りを覆った。

紬は本を強く抱きしめ、じっと地面を見つめている。


その様子を、少し離れた木立の陰から見つめる影があった。

風の音にまぎれるように、老人がわずかに身をかがめる。

気配に気づく者は……いない。

――いないはずだった。


魔法医師会の男は、ふとその方向に目をやると、わずかに口元を歪める。


「……なるほどねぇ」


独りごとのように呟いた声は低く、どこか探るような響きを含んでいた。

視線の先に何を見たのか、紬には分からない。


そして男は、紬に顔を向けると、わざとらしく笑って言った。


「まあ、いいさ。どうせ君は、そのうち魔法医師会の人間になる。……いろいろと、“導かれている”ようだしね」


意味ありげな言葉を残して、男は背を向けた。

そのまま足早に、村の外へと姿を消していく。


「……行きましょう。」


リーゼが静かに言い、紬の肩にそっと手を置く。

紬は何も言わず、ただ小さく頷いた。


けれどその胸の奥には、言葉にできないざらついた感情と――

そしてもうひとつ、誰かに見られていたような妙な感覚が、静かに残っていた。

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