第26話|肉じゃがと、いちばん言えない気持ち

懐かしさと、まだ言えない想いが揺れる夜に――



楓がスーパーの袋を抱えて帰ってきた夜。

玄関を開けるなり、日向が「あ、今日は重かったでしょ」と受け取ってくれる。


「ありがとう。あのね……今日、肉じゃが作ろうと思って」

「肉じゃが? ……どうしたの、急に」

「なんか、ふいに食べたくなっちゃって」

「……ふいに、ね」


日向の声は笑っていたけど、どこかあたたかくて。

楓は、少し照れたようにキッチンに向かった。


---


今日のレシピ|じんわり味しみ肉じゃが


材料(2人分)

* 牛薄切り肉 … 150g

* じゃがいも … 2個

* 玉ねぎ … 1個

* にんじん … 1/2本

* 糸こんにゃく(あれば) … 100g

* サラダ油 … 小さじ1


調味料

* だし汁 … 200ml

* 醤油 … 大さじ2

* みりん … 大さじ2

* 砂糖 … 大さじ1

* 酒 … 大さじ1


---


作り方

1. 下ごしらえ

じゃがいもは皮をむいて4等分に、にんじんは乱切り、玉ねぎはくし切り。

糸こんにゃくは下ゆでして食べやすく切る。


2. 炒める

鍋に油を熱し、玉ねぎ→にんじん→じゃがいもの順に炒める。

全体に油が回ったら牛肉を加えて軽く炒める。


3. 煮る

だし汁と糸こんにゃくを加え、煮立ったらアクを取り、調味料を入れる。

落とし蓋をして中火で15分、じゃがいもがやわらかくなるまで煮る。


4. 仕上げ

火を止めて10分ほど置き、味をなじませてから器に盛る。


---


テーブルに置かれた湯気のたつ肉じゃが。

じゃがいもが、箸でほろっと崩れるくらい、やわらかく炊けていた。


---


味の感想(by 日向)

しみしみのじゃがいもがほくっとしてて、甘辛い味が染みてる。

玉ねぎはとろけて、牛肉と一緒に食べると、なんかもう……しあわせって感じ。


「この味、誰かに食べてもらいたかった」って、思ってたかもしれない。


---


その夜、ふたりは無言で何度もごはんをおかわりした。

何を話すよりも、その味が今の気持ちを伝えてくれる気がして。


食器を片付けたあと、楓がぽつりとつぶやいた。


「……なんか、昔は誰かのためにごはん作るなんて、思わなかったな」


「それ、私も。けど――今は、作りたいって思うから、不思議」


少し黙って、ふたりは同時に笑った。

じゃがいもの甘さみたいに、ゆっくりと染みていく気持ちがある。


---


次回は「スコーンとジャム(日曜日の朝、ふたりだけの小さな喫茶店)」

朝の光に包まれた、優しい焼きたての香り。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る