梅雨は僕を許さない

気まぐれなリス

プロローグ 佐藤と梅雨

私がいるのは殺風景で机とベットしかない部屋

そして目の前には私の両親を殺した犯人

「おはよう梅雨つゆちゃん

朝ご飯食べようか」

「いい加減、あーんするのも疲れました

この手錠外してください」

「嫌だよ?逃げるでしょ?」

そんな男に私は今、監禁されています


事の始まりは突然だった

いつの間にか私は見知らぬ殺風景な部屋のベットで寝ていた

そしてその隣には血まみれの例の男がいた

「あぁ!よかった!目が覚めたんだね」

まるで知り合いのような話し口調でしたが当然見覚えすらない

だけどそんな疑問より血まみれなことを心配する気持ちが勝った

なのでこう聞いた

「え…?あの大丈夫ですか?」

「あぁもちろん…今なんて?」

「え…ですから大丈夫ですか?」

再度そう聞くと男は考え込んだ

そんなにも難しい質問だった?とは思ったが言われて傷が痛くなったとか無きにしも非ずなので、とりあえず次の言葉を待つことにした

すると男は重々しく口を開く

「…記憶はあるかい?例えば名前とか」

変な質問だなとか私が先に質問したのにとか色々思うことはあったが、とりあえず答えることにする

「私の名前は…」『「××××、来い」この扉の奥には――がいる、入りたくな』

突然のことだった

名前を思い出そうとした瞬間に頭痛が起こった

それも頭が割れそうなくらい痛いものである

しばらく痛みで頭を押さえていると男は「大丈夫、大丈夫」と言いながら背中をさすってくれた

頭痛が収まった後にまた男は話し始めた

「今日はもう休もう

詳しい話はまた明日しようか」

「すみません…ありがとうございます。」

そう言うと男は部屋から出て行った

「おやすみ…ゴメン」

「おやすみなさい」

謝るなんて変な人、あなたはきっと何も悪くないのに

そう思いながら眠りについた


そうして次の日、目が覚めると左手に何か違和感を感じた

「おはよう、目覚めはどう?」

「ええ…今左手を確認して最悪になりましたが」

そこにはベットと左手を強く結びつける金属製の手錠が付いた

それなのに男は何もないかのように話を始めた

「まず君はなんだ

名前は俺の方で命名したから安心して

梅雨つゆ

君の名前は今日から梅雨ちゃん」

「ちょっと!訳が分かりません!

この手錠は何ですか⁉冗談にしては面白くないですよ!」

「冗談…?冗談なわけがないじゃないか

その証拠にほら、これは俺からの結婚指輪だよ」

そう言うと抵抗のできない左手薬指に指輪をはめてくる

この人、頭のおかしい人だ

「どうやら状況が呑み込めないようだね

無理もないよ、でも大丈夫

これだけ覚えればいい

君は僕にされているんだ」

「そんな!…両親は?」

もしも本当に監禁されたのならば両親が助けに来てくれるだろう

たとえそれが淡い希望だとしても、今はそんなものにもすがりたかった

だけど、それはさらなる絶望の始まりだった

「両親ね…それも覚えていない?

俺が殺したよ

昨日血まみれだったでしょ?

それ君の両親の返り血」

唖然とした

言われた内容にも驚いたが何より人を殺したことを自慢げに話す彼が怖かった

「でも仕方がなかったんだよ

俺と君が二人で幸せになるために」

その言葉に思わず叫んでしまう

「あなた、おかしいですよ

私の、私の幸せはどうなるんですか!」

「君は幸せになるよ、俺がしてみせる」

息が止まった

そう言う男の目は今まで以上に真剣だったから

しばらくすると男はまた話をする

「記憶喪失と言うことは俺のことも忘れているか

俺は佐藤さとう 智輝ともき

佐藤でいいよ

よろしくね梅雨ちゃん

早速だけど朝ごはん食べようか」

私はなるべく刺激しないようにとりあえず言うことをできるだけ聞くようにしよう

だけどすぐに問題は起きた

「あのー私、手が使えないからご飯食べれないです」

「…あっ、え?無理?右手使えるよね?」

「私、左利きです」

「あー固定概念」

「それにトイレ行きたいです」

「トイレかーそれは大切だ」

「…え?もしかして何も考えてないんですか?」

「………なーんてね!食事は俺が食べさせるしトイレもちゃんと対策してる

ちょっと待ってて」

そう言うとどこかに向かう佐藤

その間に今の状況を整理しよう

まず私は佐藤という男に監禁をされており、両親も殺された

そして何故か私は記憶喪失で名前も思い出せない

とりあえず『梅雨』という名前を付けてもらったがあまりいい気持ちはしない

早く自分のことを思い出そう

それにしても、佐藤は監禁するにはあまりにも私のことを知らなさすぎるのではないか?

名前も利き手も知らないとは流石におかしい

本当に私のことが好きなのか?

「ゴメンゴメン

持ってきたよ、はいこれつけるね」

そう言われ見せられたのは少しゴツゴツしたピンク色の目隠しだった

「これ凄い凝ってますね」

「まぁHする時につけるものだからね

これつけたら何も見えなくなるんだよ」

「エッ、Hなこと⁉」

そうだ、私は今監禁されていて自由はこの佐藤とかいう男に奪われていてこんな道具まで用意されて

「…ヘンタイ」

「………ん?あ、あ~大丈夫これ俺のじゃないから」

「じゃあ誰の」

「君のお父さん」

最悪の事実を知ってしまった

お父さんは特殊性癖だった

「まぁトイレ行くときは、これつけてね

あとでトイレまでワイヤー張っておくから

手錠もそっちに移すし」

「嫌ですけど」

「別に俺はいいよ?両親の死体見たいならつけなくて」

「やっぱり最低ですね」

「性格いいやつは監禁なんてしないよ」

「…それもそうですね」

「それじゃあ俺は作業に戻るから

何かあったら呼んで~」

そう言うと佐藤は部屋を出て行く

向こうから何かを茹でるような音がする

料理…というわけでもなさそうだ

あまり知りたくもない

「あーあ私これからどうなるんだろう」

ベットに倒れこみ、見知らぬ天井を見ながらどうにもならない言葉を放つ

どうせならもう死んでしまいたい

『「…生きて」

血まみれのカーペットに倒れた母さん、目の前には―』

「あっ!…いったぁ」

まただ、自分の名前を思い出そうとしたときの頭痛がした

それでも、記憶の断片でもわかった

あれは母さんが死ぬ前に残した、最後の言葉なのだろう

「なんで…何でそんなこと言うかなぁ」

母さんが死んだことにか、私の運命にか

ただ、一粒の涙が出た

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