死に戻り転生者は死にたくない~仕方なしの死に戻りループの果てに自分に付き従うヤンデレが増えている気がするのですがそれは~

リヒト

第一章 死に戻り転生者

異世界転生

「誰かの為に生きなさい」


 それが僕のお母さんの口癖だった。

 耳に胼胝ができるんじゃないかと思うほどその言葉を聞かされて育った僕はそんなお母さんの言葉に従い、そうあろうと努力した。

 お母さんが教育の手本として、率先的に誰かの為に生きている人だったのもいい方向に影響したと思う。


「……お母さんっ」


 だけど、そんなお母さんはこの教えの為に死んだ。

 お母さんは包丁を振り回す暴徒に狙われていた少女を庇って死んだのだ。


「うわぁぁぁああああああん」


 父が生まれる前より病死していた僕にとって、お母さんが唯一の家族だった。

 そんなお母さんを亡くした僕は当然、葬式の場で大泣きした。


「……僕の、為だけじゃダメだったの?」


 そして、何で僕の為に自分が生き残ることを優先してくれなかったのかと、お母さんを恨んだ。

 それが古い記憶だ。 


「隼人っ!隼人っ!」


 お母さんを亡くしてからの僕の人生は色々と大変なことばかりだった。

 自分を引き取ってくれた祖父母は既に認知症となっており、自分の面倒を見れるような状況ではなかった。母親を失ったばかりのまだ小学生であった僕は自分が生活していくためにも介護に明け暮れ、自分のことをすべてこなさなくてはいけなくなった。

 父の保険金。そして、母の保険金。その二つによって僕の手元にはたんまりとお金があった為に金銭には困らなかったが、それでも、大変な日々だった。

 それでも、僕は無事に高校生となることが出来ていた。


「返事して隼人!お願いっ!大丈夫!?い、今……救急車を呼んだからっ!」


「……っ」


 だけど、そんな人生も……きっと、今日までだ。

 既に霞みつつある視線を自分の腹部に向ければ、そこには自分の腹を貫いている一つの包丁の姿があった。

 お母さんと同じだ。

 高校へと向かう登校の道を歩いていた中で自分たちの前に現れた包丁を振り回す暴徒の標的として包丁を向けられていた僕の隣を歩いていた少女、環奈を守るため、僕は身代わりとなって刺されたのだ。

 暴徒に関しては既に逃げている。刺された後、特に何も出来なかったが、それでももう既に環奈を脅かすものはなくなっている。

 ちゃんと、守れたと思う。


「大丈夫……大丈夫、だからっ」


 それに安堵する僕は、冷たくなっていく自分の体に縋りついている環奈の方へと手を伸ばす。


「……ありがと、ね?」


「えっ?」


 そして、涙を流している環奈の瞳を拭いながら、感謝の言葉を告げる。

 環奈は祖父母の介護に明け暮れ、まともに勉強も出来ていなかった僕をサポートし、一緒の高校に行けるようにしてくれた。感謝、しているのだ。

 例え、過去に何があろうとも。


「無事で、良かった」


 言いたいことを言えた僕はそのまま満足して無理やり持ち上げた手を落とす。

 あぁ、……ダメだね。これはもう、死んじゃうと思う。

 何となくわかる。

 先ほどまであった腹部の激痛がいつの間にか感じられなくなり、ただ、眠たくなってくる。これが、死なんだ。 もう、手はあげられなそう。


「ちがっ……まだ、私は貴方に償い切れてっ!?だ、ダメ……っ」


「……ぁあ」


 誰かの為に生きられた。

 自分の人生を振り返れば、きちんとお母さんの教えを守れたと思う。自分を残して死んでいったお母さんを恨んだ。でも、僕は

 後悔はしていない。

 だけど、思うところはあった。他人の為に生きようと努力するあまり、自分の為には生きていなかったかもしれない。振り返ってみれば、ほとんど祖父母の介護ばかりだったし、学校生活でも他人の手助けをしていた記憶しかない。

 

 ───少しは、自分の為に生きても。


 もし、次があるのなら自分自身の為に生きたい。


「嫌ぁァァァアアアアアアアアアアアア」

 

 そんなことを思いながら、僕の目の前は深い深い暗闇へと染まっていた。



 ■■■■■


 

 何処までも広がっていた暗闇、その中に一筋の光が差し込んでくる。


「レアちゃんっ!」


 うわぁっ!な、何さ!?


「……ッ!?」


 いきなり目の前で大きな声で叫ばれた僕はびっくりしながら両目を開ける。

 そして、僕の目に映るのは視界いっぱいの女性の姿だった。


「おー、よしよしっ」


「……!?!?」


 その女性。煌びやかなドレスを身に包む白髪の女性は僕の体を軽々と抱き抱え、あやすように僕の体を揺らしていた。

 あ、ありえない……っ!?た、確かに僕の背は高くなかったが、それでもこんな軽々しく抱きかかえられるほど軽くはない。と、というか、この女性は一体……?確実に日本人じゃないんですけどぉ!?

 困惑しながら周りを見渡すと、まず目に映るのは小さな赤ちゃんの手だった。


「……おぎゃ」


 その赤ちゃんの手は、僕の思った通りに動いてくれた……なるほど。なるほどなるほど。


「可愛いわねぇ……ふふっ、私の赤ちゃん」

 

 えっ……?僕、赤ちゃんになっている?

 よく周りを見渡してみれば、自分がいた場所は洋風の屋敷のような一室だった。そして、その周りにはメイド服に身を包む人達の姿があった。その中にはケモミミに尻尾を持った人の姿なんかもある。間違いなく日本ではない。というか、地球じゃない。ケモミミがある人とか地球にいるわけがない。

 

「すくすくと、元気に育って頂戴ね」


 どうやら、僕はよく物語で見る異世界転生というものを果たしたようだった。

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