キメラスキルオンライン

百々五十六

1章 スタートダッシュ

オープニング

「ゲームに入れる時間が、9時半からで、ログインが10時からか」


 俺は1人自室でつぶやいた。

 聞かせる相手もいないなか、そこそこの声量で独り言を言う。


「この30分は何をするんだろうか? キャラ設定の時間とか? あとは、オープニングを見るとか?」


 最近独り言が増えた気がするな。

 人と会話をしていないからかな。

 1人でいることが増えたからだろうな。

 部屋の壁に掛けてある時計を見る。

 今の時刻は、9時31分。


「もうゲームを起動できる時間だな。運営が、30分の時間を設けたということは、起動してからログインまで30分ぐらい時間が掛かるということなんだろう。早速ログインするか」


 俺は独り言をつぶやきながら、事前の設定だけは済ませておいた、ほぼ新品のVRカプセルに入り、VRカプセルを起動した。

 起動と同時に視界が切り替わった。

 起動すると、目の前に、立体のパソコンのホーム画面みたいなものが広がる。

 そこから、目的のゲームを探す。

 何個かある立体的なアイコンの中から、これから起動する『キメラスキルオンライン』通称キメラインのアイコンに手を伸ばす。

 『キメラスキルオンライン』を起動すると、また視界が切り替わった。



 壮大なBGMとともに、立体的な映像? が流れ始める。

 肌を伝う風、風のながれる音、まぶしいほどの空の色、香る草の匂い。

 どうやら俺は今、草原に1人立っているらしい。

 あれ? 俺は今、家からゲームをしているんじゃないんだっけ?

 困惑していた。

 あぁ、これがゲームで、これがフルダイブのVRMMOだということに気づくまでに数秒を要した。

 全てがまるで現実のようなクオリティ。

 目からの情報だけじゃなく、耳や鼻、肌で感じる情報まで。

 全身でこの世界を感じている。

 CMで見た映像が、ホームページで見たような景色が今、俺の目の前にある。

 それも、CMやホームページで見ていた、2次元の情報とは段違いの情報量とクオリティで。

 感動とわくわくと様々な感情が自分の中でぐるぐると混ざり合う。

 これがVRであることを忘れてしまいそうなクオリティに圧倒されてしまう。

 どこか分からない草原に立ってから、数秒が経過した。

 突如、目の前に、CMやホームページで何度も見た『キメラスキルオンライン』のロゴが出た。

 それが開始の合図だったのか、視点が急に切り替わった。

 宙に浮いたような不思議な感覚。

 気がつくと、地上を見下ろすような構図をしていた。

 地上を眺める時間なのかと思っていたら、急に、様々映像が流れては切り替わっていく。

 そして、急に謎の声が入ってきた。



「人類の繁栄というのは、常にダンジョンとともにあった。科学技術や文明が進化するよりも激しく劇薬のようにダンジョンというのは人類を繁栄させた。人類が爆発的に増えたり、急に生活のレベルが変わったりするとき、常にダンジョンで大きな事が起こっていた」


 謎の声の発言に合わせて、様々な映像が流れていく。

 ゲートのようなところから、ドラゴンのような物が運ぶ出される映像。

 急激に町が大きくなっていく様子を空から見たような映像。

 ゲートのようなところから、謎の植物が運び出される映像。

 町を歩く人々の服装が良い物に変わっていく映像。

 ゲートのような場所から、謎の機械が運び出されていく映像。

 急に町に明かりが灯るようになる映像。

 俺の視界では様々な映像が流れているなか、謎の声が言う。


「劇的な変化というのは、副作用をよぶ。変化に取り残された人もいた。変化の狭間で損害を受けた人もいた。なにより、人類は、ダンジョンからの産出物でしか、発展しなくなってしまった。そして、ダンジョンからの産出物に依存するようになった。もちろん、食べ物や、衣類、住居などの生活レベルの依存ではない。成長を依存してしまったのだ。科学の進化も、文化の進化も止め、ダンジョンが変化をもたらしてくれるのを待ち続けた」


 また、謎の声に合わせて様々な映像が流れていく。

 寂れた研究所のような場所の映像。

 古びれた本しか並んでいない本棚の映像。

 いつまでも中世的な町並みをしている映像。


「金持ちは資金のほとんどをダンジョンに関する投資に利用した。これもまた様々な物の停滞の要因になっていたのだろう。その結果、ダンジョン探索は、飛躍的に進歩していった。ただ、その進歩も一時的なものだった。ここ数十年数百年、ダンジョン探索は、人類は、停滞をしてしまった。お金だけでどうこうできるレベルはとうに終わってしまった。そして、人々は願った。ダンジョンからダンジョン探索が進歩するような物が出土されますように。自分たちの生活がより良くなるような物が、ダンジョンから産出されますようにと。人類は、他人任せというかダンジョン任せな願いをするようになった」


 ダンジョン産業にどんどん資金が投入されていく映像。

 どんどんと世界が成長していく映像。

 だんだんと停滞していく映像。

 画像かと見間違おうほど停滞していく映像。

 変わらない日々を同じように繰り返していく映像。


「そこで、神は人類に与えた。新しき人類を。プレイヤーという新しき人類を。停滞した人類に。ダンジョンをより効率的に探索してくれるプレイヤーを。ダンジョン以外の産業も技術も活性化してくれるだろうプレイヤーを。人類の繁栄を、そして、人類の認識を変えてくれることを願いプレイヤーを世界に与えた」


 様々な人たちが急に町中に現れる映像。

 プレイヤーらしき人物が、ダンジョンで暴れまわる映像。

 ダンジョンの外で研究や産業に従事して、別の観点から人類を繁栄させていくプレイヤーの映像。



 突然視界が切り替わった。

 今までも代わる代わる映像が流れていたが、それとは違い視点がきりかわった事を感じた。

 どこからかの視点かは分からないが、謎の手から、しずくが落ちて、星にあたり、それが波紋のように広がっていく。

 再び視界が切り替わった。

 今度は、神々しさだけが分かる、よく分からない空間に出た。

 その空間で、先ほどまでの謎の声とは違い、男女様々な声が重なったような声が聞こえた。


「見せてほしい! 自由という楽しさを」


「伝えてほしい! 冒険という幸福を」


「思い出させてほしい! 成長という喜びを」


「君たちが自由に動くたび、世界は大きく変わっていく」


「神達は大いに期待している、君たちに」



 クオリティに圧倒されているうちに、オープニングが終わってしまった。

 すごいオープニングだったな。

 とりあえず、なんとなくだけど世界観を掴めた気がする。

 CMで見たよりも、ホームページで見たよりも確かに、世界観を掴めた気がする。

 俺達プレイヤーは、自由に生きて、世界に影響を及ぼせば良いんだな。

 なんか、俺が思っていたよりも壮大なゲームみたいだな。

 世界初のVRMMOだから大きく風呂敷を広げたのかもしれないな。

 わくわくするようなオープニングだったな。

 最初に草原に立つことで、フルダイブのすごさに圧倒された。

 次に、地上を見下ろす視点から、連続して様々な映像が慣れるとともに、謎の声が聞こえたことで、世界観の作り込みの細かさと、ここもまた1つの世界なんだなということを感じさせられた。

 最後に、謎の神々しい場所でさらに謎の声から言われたことで、興奮とわくわくが溢れてきた。

 そして、すぐにでもログインしたいと思わされた。

 早くこの世界に入りたいし、早くキャラの設定をしたい。

 早くあの世界を感じたいし、早くダンジョンに潜ってみたい。

 そう思わされるオープニングだった。

 興奮しすぎていると感じたので、俺は大きく深呼吸をした。

 ゲームの中で深呼吸をしても冷静になれるものなんだな。

 冷静さを取り戻した頭でそんなことを持った。

 そして改めてこれから行く世界のことを考える。

 まぁ、この世界で俺なりに自由にやれば良いのかな。

 この世界で好きに生きて好きに生きようかな。

 なんだかわくわくしてきたな。

 あの世界に行けるのか、かなり楽しみだな。

 ゲームの世界に入るということが、急に現実的になった気がした。

 オープニングが終わると、また視界が切り替わった。



 真っ白な空間に移動していた。

 真っ白な空間の中、ただ1つ、目の前に、ウィンドウが出現した。

 そこには、契約書のようなびっしりの文章、表題には『同意書』と書かれていた。

 同意書か。

 こういうのは、きちんと読んでおかないといけないんだろうけど、読むのが面倒だから、飛ばしたり流し読みしたりしちゃうんだよなぁ。

 そんなことを思いながら、目の前に出現した同意書ウィンドウをスクロールする。

 ささっと流し読みをして一番下にある、『同意する』のボタンを押した。

 同意書には、いろんな事に対して、責任を負わないよ~とか、責任を負ってもらうよ~とかが書かれていた。

 流し読みをしたから、もちろん細かいことは分からない。

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