風刺的なお話(短編集)

桶底

①橋の下

 男が川沿いの道を、あてもなく歩いていると、妙な光景に出くわした。


 川の中に三人の若者が立っていて、両手で木の板を持ち上げ、両岸に橋を架けていたのだ。


「いったい何をしているのかね?」


 男が尋ねると、若者のひとりがにっこり笑って答えた。


「おれたちは橋でさぁ。気にせず渡ってくださいな」


 冗談のようなその言葉に、男は戸惑った。人が身体で支えている橋など、本当に渡っていいのか。重みに耐えられるのか。不安で、橋の前で立ち止まったまま考え込んでいた。


 そのとき、大きな荷物を両手で抱えた老父が、川上からずかずかと現れた。


「おじいさん、その橋……人が支えてるんですよ。様子を見てからのほうが……」


 男が声をかけたが、老父は足を止めなかった。両手がふさがっていたせいか、足元の様子などろくに見えていないようだった。


「若造がぐだぐだ言いおって。手伝う気がないなら黙っとれ。わしは急いどるんじゃ」


 そう言い残し、老父は橋の上をずかずかと踏み進んだ。


 若者たちは必死に板を支え、歯を食いしばりながら耐えていた。だが、老父が橋の半ばを過ぎたあたりで、ひとりが限界を迎え、次々と崩れていった。


 木の板が傾き、老父も荷物も、そして若者たちも、そのまま川へと流されていった。


 


 男は何もできなかった。ただ岸から、それぞれがどこまで流されていくのかを目で追った。けれど、川の流れは早く、彼らはすぐに視界の向こうに消えてしまった。


 川面には、誰が支え、誰が重みになり、誰が声をかけただけだったのか——そんなことは、もう跡形もなく残っていなかった。

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