四葩の咲く頃に
葩咲 四季
第一章「沈黙の中で死を待つ」
四葩が咲頃に、ある男は愛犬を撫でながらポツリポツリとつぶやく「何故生き物は死を受け入れ生きるのだろうか」「何故この世を生きたいと思えるのだろうか」そんな考えが男の頭の中を反芻する。木達が揺らめく音、鳥達が鳴く声、水達が奏でる自然の音色さえもその男には喧騒でしかなかった。
そんなことに思考を巡らせていると、ふと愛犬が何かを察したように男を慰めるような目線で見つめ、手を優しく宥めるように舐めはじめた。そんな行為も男の心には響かない、愛犬の慰めから逃げようと男は手をポケットに仕舞う。
男は若かった。未熟でも成熟してもいないそんな若さだ、そんな男は小さい頃から「死」に取り憑かれ、その魅力に引き寄せられていた。小さな頭で思考をめぐらし、自分なりの答えを見つけたつもりになっていたのかもしれない、あるいはまだ答えには辿り着いていないと自問自答を繰り返していたのかもしれない、しかし、男はそれを繰り返していくうちに、男の中には一つの考えが寄り添い始めた。「生は死までの延命でしか無く、ただただ死を待つのは残酷である」つまり「自死」のみが自分を救う唯一の方法であると。そんな風に日々を過ごしていると男の生活は止まった、誰がどう言おうと止まったのだ。生きることに関する全ての行為がその男にはつまらなく思い、ふと全てやめてしまおうと感じ、寝床に伏せそのまま時間が過ぎるのを肌で感じていた。家族にどう捉えられようと男にはそれが心地よかった、まるで生きているままに死んでいるようで実際にはそのどちらでもない状態が心地よかった。
自分が息をする音、心臓からの血液が血管を巡る音、瞼を開いたり閉じたりする音これらの音が男の乾いた心を癒した。男はこの症状について詳しかった、それは幾度も調べていたからである。「鬱病だ」と男はつぶやいた、しかしこの男は自認していたのにも関わらず病院へ行くことを拒んだ、何故なら心地よいからである。その心地よさは他のもので代替することはできず、ただその状態でなければ得られない幸福感や満足感があった。時間は無常でその男を寝床に留めつつ、日々だけが刻々と過ぎていった。それは男にとって残酷と捉えられるかもしくは男に慈悲を与えるものか定かではない。そんな男には妹がいる愛嬌と元気を兼ね備えた可愛い妹だ、妹には妹なりの考えがあったのか男とは以前と変わらず接してくれていた。
四葩の咲く頃に 葩咲 四季 @hirasakuyotuki
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