天の川冒険譚

学生作家志望

こちら、天の川より。

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「こちら、天の川より。昨日の通り話そう。」



信号機の操作は既に慣れていて、もはや手が勝手に動くようなところまでの、手慣れになっていた。


まだ地球にいたときは、「おはよう」の信号すらも打てなかったというのに、今となってすれば、いとも簡単に会話ができるレベルまで向上することができた。さっき打った信号も、思った通りに打てているだろう。誤字はきっとない。



「あれ、返事返ってこない。や、まさかまだ寝てんの?嘘だろおおお・・・・・・。昨日あんだけ話そうねって約束したのに。」






僕のクラゲ船は、そのころ天の川を泳いでいた。無数の星たちに囲まれて、四方八方は光だらけの空間。といっても、綺麗とも思わなくなった平凡な光たちだった。地球から見た星はあれだけ綺麗に思えたのに、ありふれているものだと分かってしまった途端、興味を失ってしまうのはなぜなのだろうか。


目に見えるだけで、億は超えるだろう光の数々に目をやられ、船は何度も上がりと下りを繰り返していた。クラゲ船に乗っているのは僕だけで、信号はさっきの通り返ってこない。すなわち話し相手もいない。


「万事休すかな。」


深くため息をついた僕は、操縦桿を手放した。




手から腕へ、腕から少し痺れていた足まで、全て脱力していく感覚がした。





僕の幼馴染は体が弱かった。なのにあいつは、相変わらずの調子のよさだけで、このクラゲ船に乗ろうとした。


いわゆるビッグマウス。口が軽くて単純で、そのくせ気分屋で、気軽で身軽でフッ軽だ。なんでもかんでも軽い軽いって、あいつの前にはそればっかりついていたのに、あいつの体だけはそれについていけなかったらしい。


原因は単なる交通事故だ。遊んでいた子供が道路に飛び出したところを、あいつは偶然見てしまったのだ。その子供が持っていたサッカーボールは、車に轢かれて潰れたが、あいつの腕の中に抱え込まれた子供の命に別状はなかった。


だけどあいつは別だった。子供のことは死んでも守ると言わんばかりに、あいつの体だけが酷い鞭打ち状態となっていたのである。


僕はそんな事故があったことを知って、あいつは完全に死んだと思い込んでいた。生存には厳しすぎる状況だったためだ。だがあいつは生きていた。


あいつが目を覚ました時は、こっちが死にそうになるくらい喜んで抱き合った。だがそんな喜びも束の間。完治したはずの彼の体には、後遺症が残ってしまっていたのである。



だけど、あいつはそれでも、クラゲ船に乗りたいと言った。僕にも言ったし、自分にも恐らく何億と言ったことだろう。それくらいあいつにとっては、この無数の光は特別なものだったのだ。


天の川はあいつにとっての、夢の銀河だ。



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「きた!」



幼馴染のマヤからの返事は、僕の最初の信号の一時間も後からになる。



「おはよう。じゃあねええよお。遅いってば。たく。」



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マヤはゆっくりではあったが、僕に確実に返事をしてくれた。一生懸命打った信号は、どことなく揺れているような気がして味があった。決められた信号が揺れている訳もないのに、マヤの送る信号には、僕はどうしても感傷的になってしまう。


幼馴染だからで、僕がマヤの乗りたかったクラゲの船に乗ってしまっているからでもある。罪悪感と寂しさと切なさと、僕の心はあいにくあいつのように、軽くはないみたいだ。



僕の心は常に、重い思いを重ねてしまうのだ。あいつがこの船に乗ったなら、もっときっと、天の川冒険譚も、長い長い果てしない歴史のような書物になったと思うのに。


僕がこの船に乗ったせいで、天の川冒険譚はたったの1ページ。それ以上はなにもない。見慣れた星々を表現する言葉も見つからないまま、ただマヤであったらよかったのにと思う日々。


天の川は君の夢。それでは僕にとって、天の川がなんだったのか、もうそんなことはとっくのとうに忘れた。宇宙のどこかに捨ててしまった。




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「今からでも、君に乗ってほしいよマヤ。」



叶わない信号だけを水の様に流して君に送った。



君がいれば、マヤさえいれば、天の川はずっとずっと綺麗だったはずだ。地球から見た星が綺麗で特別に感じられたのは、銀河や星との距離ではなく、やはり隣にいたマヤのおかげなのだ。


だから隣に来て、一緒に星を見よう。たったそれだけで、僕の夢は叶う。君の夢だって叶うのだから。



信号機を押す指先は、寒気を痛感しているように小刻みに震えながらになっていた。震えていたのは僕の方の信号だった。



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「一緒に銀河に行こう、それでもういっぱい、しつこいくらいの光があるよ。誰も傷つかない、そんな世界があるから・・・・・・。」





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天の川冒険譚を、楽しみに待ってるね。またね。




「マヤ・・・・・・。ごめんね、ごめん。僕なんかが乗って。」



「本当にごめん。」



操縦桿を握って、星へと上昇していくクラゲの船。



「マヤの見たかった星、ちゃんと、見せてあげるね。」




天の川冒険譚 

2ページめ









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天の川冒険譚 学生作家志望 @kokoa555

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