第3話 初めての奉仕活動!

「お邪魔しまーす」 「しまーす」


 そんな声とともに我が家へ足を踏み入れた冬樹と透を、俺は麗と同室の子供部屋へと案内した。自己紹介の後、無事終わった入学式だけで幼年学校の初日は下校となった。俺はホームルーム後すぐ二人を家に招待したが、同性からの頼みだったからか向こうの両親もすぐに承諾し今は麗も含め四人で遊んでいる。


「でもびっくりしたよ、星君がいきなり友達百人つくるなんて言うからさ。それってほとんどが女の子になるってことだけど本気なの?」


「当たり前じゃんか! だって友達は多いほうが楽しそうだろ? サッカーとか鬼ごっことか男子だけだと数足んないし」


 冬樹は今日の自己紹介で言った俺の言葉によほど驚いたらしいが、こんなものでは済まない事まで後々は巻き込んでいくつもりなのだ。勿論本気で嫌がったりしたら無理強いはしないがそこは俺の腕の見せ所だな。


「星はさ、なんか聞かされてた女性像に全くビビってる感じしないよね。ボクは学校が始まってもすぐ引きこもって作曲の勉強とかしようかと思ってたけどちょっと興味湧いたよ」


 む、透は音楽に興味があるとは言っていたが将来は作曲家にでもなりたいのだろうか。なんにせよあのインパクトがなければ仲間を初日で一人無くすところだった。これだけでもあの自己紹介は成功だったと言えるだろう。


「へぇー僕は料理好きだけどそこまでの熱意はないなぁ。透君は音楽が好きって言ってたけど、将来はそういうのをやりたいの?」


「うん、まあ一応ね。今まで興味あるのが音楽くらいしかなかったし、それなら曲を作ったりしてみたいかなって」


 うんうん、いいことだ。我がグループ内に作曲家がいるというのは話題のタネになるだろう。そもそもこの世界では男性が作り出したものなんて言うのは殆ど無く、男性が携わった物というだけで商品の売り上げが伸びるなんてことがあるのだ。しっかりとした曲が作れるなら嬉しい限りだ。


「ところで星君と麗ちゃんはさ、双子なんだよね? 珍しいよね男女の双子ってさぁ!」


「そう。私が姉で、星が弟。星はもっと小さいころから危なっかしいところがあったけど今日で確信した」


「なんだよその目はー? 俺のなにを確信したんだって言うんだよ」


「星はいつか大きな事件をやらかすから、私がしっかり面倒見ないといけない」


 ジトーっとした目を向けられながら麗に心外なことを言われてしまったが、それは当たっているのだろう。なんせ俺は世界中の女性を笑顔にしようとしているのだ。やらかすつもりはないが、今まで誰もやってこなかった事であるのは間違いない。

 

 冬樹は性別の違う双子というのに少し興奮しているようだが考えてみると、この世界において俺たちのような存在はどれくらいの確率で生まれるのだろうか。少し気になるところではある。


 そんな風に四人で会話を弾ませながら遊びつつ、俺は今日の本題とも呼べることを切り出した。


「冬樹と透はさ、女の子って怖いと思うか?」


「僕はちょっと怖いけど、もともと明るいほうじゃないからなぁ。特別女の子だからってのはないかなぁ」


「ボクもまだまともにクラスの子と会話もしたことないしそういうのはないかな」


 よしっ、聞きたかった答えが返ってきて胸を撫でおろす。これで、第一段階はクリアだ。やっぱりこの歳の男子はまだ女性への恐怖心はない。ならば、幼年学校で徐々に二人を女性へ慣れさせる第二段階に進めるとしよう。


「そうか、なら二人も友達百人作らないとだな!」


 そういって俺は冬樹の手を取り、伸ばした俺の手の甲の上へとのせる。麗と透も同様にしてさりげなく女子の手を二人に触れさせつつ最後にそれをもう片方の手で包み込み叫んだ。


「エイエイオー!」


「えーっ! 百人は無理だよおぅ」


「私も入ってるの?」


「ははっ、やっぱり星は面白いや」


 とりあえず、友達百人の内三人は確保した。
























――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 その日、一本の電話がある会社に激震を走らせた。


「しゃ、しゃしゃしゃしゃsyaしゃちょー、社長! 大変です! 大変なことが起きましたああああ!」

 

「うん、落ち着こうね。大変なことなっちゃてるからさ、そんな走ってこなくていいよ? 文字もおかしなことなってるし」


「はい、ひい、ふう。すみません少々取り乱しました。…………文字?」


「ああ、ごめん気にしないで」


 山田産業、いつまでも黒字と赤字のギリギリラインを飛行し続ける会社は、ギリギリの経営ながらも百年以上続いている老舗である。そしてその一室にて、社長の山田妙子はどうにか業績が伸びないことかと毎度のように頭を悩ませていた。


 そんな中、秘書である半田さんの様子を見て流石にただ事ではないとお茶を出してあげようと妙子は席を立った。


「で、どうしたのよ。それなりの規模の契約を引き継ぎできなかったのはこの前聞いたし、これ以上の悪い知らせを私は受け入れられないわよ? てか、発狂するわ」


「ち・が・い・ま・す! 悪い知らせどころか良すぎて未だに詐欺を疑ってますよっ」


 それならばきっと詐欺なのだろう。半田さんは優秀ではあるがたまにポカやらかすし、今回もそういった手合いの…………


「先ほど、男性保護省からの正式な通達があって我が社に男性が奉仕活動に来ることが決定しました!」


 遂に疲労が溜まりすぎて、少しは残っていたまともな頭の最後の部分までおかしくなったらしい。男性の奉仕活動というのは勿論知っている。それは、企業に勤める女性たちのやる気を底上げするために、またワンチャンスで男性に見初められるために存在する。男性が会社に訪れ、見学し、ものによっては体験したりする活動のことだ。


 しかし、それは大企業にしか回ってこないものであり、こんな下町の三下企業に奉仕活動が来たなんて事例はただの一度も無いのだ。もう今日は疲れたし、家に帰ってゆっくりしようかな、なんてことを妙子が考えていると。


「それといらっしゃる男性は一人ではなく、三人だそうです」


 もういよいよダメかもしれない。この会社は今日で倒産かもしれない。半田さんもきっとおかしくなってしまったのだろう。


「社長、一応言っておきますが私はおかしくなっていませんし、この話は本当ですよ? 詳細のメール、社長のとこにも来てると思うので確認してください」


 そう言われパソコンを開き、おぼつかない手つきでメールボックスを開く。そこには件名に奉仕活動の文字が入った男性保護省からのメールが届いていた。


 ――――


 入学式から四年が経って、俺達は初等部の最終学年である五年生になった。いつものようにクラスの皆とグラウンドで遊び、帰る時間になった。この四年で冬樹と透は確実にこの世界基準で女子との距離感が近くなった。しめしめと思いつつも、先日担任のかおり先生に提案していたことが無事受理されたと聞き、今日の俺はいつもより機嫌が良かった。


「ねえ星君、本当に奉仕活動行けることになったの?」


「もちろん! かおり先生にさっきそう言われたしそもそも、断られるなんてことはないだろ」


「冬樹は行けるか、っていうのもそうだろうけど仲良くない人たちのいるとこに行くのにビビってるんじゃない?」


「透の言う通り、冬樹は知らない大人に会うのが怖い。というのが大半を占めていると予想」


 透と麗にそう突っ込まれて冬樹は図星といった顔をしたがすぐさま話を戻した。


「それは、まあそうだけど僕が言いたいのはそうじゃなくって奉仕活動って中等部から始まるものでしょ?」


 確かにそれはその通りだ。男性は女性と違って生きていくのに困らないよう過ごすことができるがその代わりの義務もそれなりにある。男性保護省という機関で管理されるそれらのうち、幼年学校の中等部から高等学校の六年間において毎年一回は奉仕活動と呼ばれる社会科見学のようなものをしなくてはならない。


「俺らは普段女子とか男子とか関係なく過ごしてるけどな、ここを飛び出したらそんなのは有り得ないわけだろ? だから本格的に来年から奉仕活動が始まる前に三人で練習をしておきたいんです。って伝えたらかおり先生なんて涙ぐんでたし、保護省の職員さんも即OKしたらしいぞ?」


 実際は上の判断を仰いで、とか相手の企業とのセッティングが、とか色々あったらしいからすぐに返事が来たわけではないがどれもスムーズに進んだとのことだ。


「ま、なんにせよ来週の日曜に決まったらしいし、あとは俺たちで頑張ってる職員の皆さんを笑顔にしてやろうぜ!」


 そう満面の笑みで言うと教室にまばらに残っていた女子たちから「うっ!」とか「はっ!」「い、生きてる?」など呻いていたが。


「ボクは星についていったら楽しいことが沢山あるって信じてるし、楽しみだな」


「冬樹は、怖い? それなら私と家で待っててもいい」


「なんだよぉー、別にちょっと怖いとは思ってるけど行きたくないなんて思ってないよー」


 そんなことを話して笑っていると、また「尊すぎる」とか「キュン死、不可避ぃぃ~」などと聞こえてくる。さっきまで一緒に遊んで話していたのだから微妙に距離を取ったりしなくていいのだが、まあこの四人を神聖視する雰囲気は入学式が終わって以降徐々にだが強まっているのを感じてはいた。それに、推し同士が仲良くしているのを眺めていたいという気持ちは俺も分かるので仕方ないところもあるだろう。


 仲良くなったとはいえやはり男子が貴重な世の中だ。こういったチヤホヤがなくなることはないのだろう。

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