この世界は貞操観念が逆転している!

日々の営み

第1話 こんにちは、貞操逆転世界

拝啓

 顔も名前も覚えていないお父さんお母さん、今頃いかがお過ごしでしょうか。

 頭がおかしいと思われるでしょうが単刀直入に申し上げますと、私はどうやら貞操観念が逆転している世界に転生してしまったようです。

                             敬具ゥッッ!!!




 俺は、前世の記憶を持っている。まあ、持っていると言っても詳しい記憶というのは何一つ思い出せなくてフワッとした彼女をつくってみたかった、とか金払いのいい仕事について優雅に過ごしたかった、とかいうような願望くらいしか記憶にない。


 仲の良かった友人だとかの顔や名前は一切思い出せないし、自分のことすら覚えていないのだからいい加減な前世の記憶だ。しかし、正直なところそんなことはどうだっていいのだ。

 

 重要なのはただ一つ、この世界は男女比が狂っているせいで貞操観念が逆転しているということだ。つまり、つまりである、感覚だけは前世のままの俺にとってこの世界は半端なく都合がいいということだ!


 貞操逆転に気づいたのは生まれてすぐのことだった。 双子として世継ヨツギ家に生まれた俺はセイという名前を授かり、姉のレイと二人で母親に絵本を読んでもらっていた。


 その内容は悪い魔女に捕らえられた国の王子を勇気ある少女が救いに行くというものであり、絵本の中では男女比が狂ったせいで王家に男児が生まれたのは100年ぶりといった話や魔女が王子に対してちょっぴりエッチなことをしたりと分かりやすくこの世界のことを表していた。

 

 物語の主人公は当然のように女性であり救いに行くのも女性、そんな常識とともに女性は男性を性的な目で見ていて危険である。というのを男の子には教え、女の子には魔女のように欲求に負けることなく清廉に生きろと刷り込む。これがこの世界の当たり前であるらしい。


 そんな感じでこの世界について理解し、幼少期を過ごした俺はこれからの人生について考えていた。


 今生の俺は齢7歳にしてハッキリと分かるくらい美形に生まれた。黒髪黒目にぱっちりとした目、高い鼻。バランスよく配置されたそれぞれのパーツはまさに神様が利き手で全力をかけて描いたといっていいだろう。まだあどけなさが全面に出ているが将来は間違いなくイケメンである。


「ハーレム、いやそれだけでは勿体ないような……」 


「なにか言った? 次、星の番だけど」


「あ、……」 


 ごめんごめんと謝りながら心の声が漏れていたことを反省しつつジェンガを抜いた。目の前でそろそろ限界を迎えているそれに指を向けながら、どれを突くか選んでいる姉を見る。真剣になるのも当然だ、我が家では一度触れたジェンガが抜けなさそうだと悟っても必ずそいつと添い遂げなければならないのだから! 軟弱物は世継家には存在しないのだ。

 

 と、少し熱くなってしまったが麗も双子というだけあってとてつもない美形だが、それでもこの世界では余りものになるかもしれないというのだからこの世界は全く女性に甘くない。


「よし、君は大丈夫だって信じてるからな」


 果たしてジェンガに向ける言葉なのか分からない言葉を吐き出しながら、相変わらず無表情の姉が指を伸ばすがどうやら彼はハズレだったらしい。


 ――――ガシャン!!


 そう音をたてて崩壊間近だったジェンガは勢いよく倒れた。一区切りがついたところで、無表情ながらに悲しげな顔をしている双子の姉に向けて問いかける。


「麗は、これからどうなりたいとか考えてる?」


「いきなりなに?」


 突然将来のことを聞かれて、姉はやや戸惑った表情を見せながらもこちらが次の言葉を発する前にまた口を開いた。


「結婚して、好きな人と一緒に子供を育てて、それで幸せに過ごしたい」


「そっか、ごめん急にちょっと気になっただけ」


 感情の読めない姉も普通の恋愛感情などはやはりあるんだなと思いながらもまた考える。生まれたばかりの頃は女が男を積極的に求める世界とは、なんて都合がいいんだと思ったが、最近ではどこか使命のようなものを感じていた。

 

 俺はまだこの世界で家の外すらまともに出たことのない子供だが、せっかく恵まれたルックスと女性に恐怖や嫌悪感を持たないこの精神があるのだから世の女性がもっと幸せになるようなことをしていくべきではないのか、と。


 例えば、前世でいたようなアイドルグループというのはどうだろうか。女性たちが熱狂するような存在になるというのは良い案だと思うがこのままではソロデビュー待ったなしだと気づく。まあそれも悪くはないが折角ならグループとして活動したいものだ。では、役者になるのは…………そんなことを考えてはみるがどうにもまとまらない。


「そういう星はなにかあるの? やりたいこと悩んでるんでしょ?」


 考え事をしているのが姉にはバレたらしい。何かヒントでも貰えるかと聞いていると次に出てきた言葉は俺にとって衝撃的なものだった。


「全部やってみたらいいよ、星は男だし、だいたいやりたいことは出来るでしょ。それに、助けがいるなら私だって手伝うし」


「そっか、そうだよね。うん、その通りだ!」


 この世界は男に甘い世界だ。やってみたいことがあるならなんでも挑戦したらいいじゃないか。視野を狭くする必要はない。ハーレムをつくって満足して終わりなんてのはやめだ、もっと大きなことを成してやると決意する。


「麗、決めたよ。俺は世界中の女の子を幸せにするために生きる!」


 世継星七歳、人生の目標決定しました!







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