第2話:アトリエ・ホワイトブリムにいた花梨。

雰囲気がいい場所の道の角を曲がったところにあったメイドカフェ。


「アトリエ・ホワイトブリム」


俺は花梨のことを思い出していた。

メイドと一緒に暮らした数ヶ月・・・俺は日ごとに花梨を好きになっていた。

花梨は俺のことをどう思っていたかは知らないが、ふたりきりの生活・・・

俺が彼女のことを好きになるのは不思議なことじゃなかった。

それなのに花梨は僕のもとを去った。


花梨がいなくなったことは、いつまでも俺の心に引っかかったままでいる。

花梨に会いたいそう願っていた・・・。


それもあってか俺は店の中にいるであろうメイドさんが見てみたいと思った。


だからメイドカフェ「アトリエ・ホワイトブリム」のドアを開けて店の中に入った。

俺の他に客がいるのかと思ったら客らしき人はひとりもいなくて、店の

奥のテーブルにひとりのメイドさんが椅子に座って花瓶に花を活けていた。


メイドさんの横顔しか見えなかったが俺はにはそのメイドさんが誰かすぐ分かった。

見慣れたメイド服に見慣れた髪・・・メイドさんは客が来たと思ったのか俺の方を

見た。


花梨かりん?」

「花梨じゃないか・・・間違いない・・・花梨・・・」


「まあ、朔太郎さくたろうさん・・・」


「花梨・・・ずっと探してたんだよ・・・こんなところで会えるなんて」


「いらっしゃい・・・お久しぶりですね」


「久しぶりって言うか、なんで僕の前から急にいなくなったの?」


「ごめんなさい・・・勝手にいなくなって・・・私は朔太郎さんがお元気に

なるまでの臨時でしたから」

「吉村さんから朔太郎さんが、お元気になられるまでそばに付き添ってるように

って言われてたので・・・ご連絡もしないでごめんなさい」

「ご連絡しなかったのは、朔太郎さんといると・・・苦しくて辛くなるから・・・

会わないほうがいいと思いまして・・・」


「え?どうして?・・・なんで苦しくて辛くなるの?」


「人を好きなるとそうなりません?」


「え?・・・それは?・・・それって?つまり」


「そのことはいいんです・・・どうぞ、おかけください」

「私がお店にいることが朔太郎さんに知られた以上、逃げるわけにもいき

ませんよね」


「逃げるって・・・やめてよ・・・もうどこにも行かないで欲しいな」


「私はここからどこにも行きません」


「よかった・・・これで気持ちがすっきりした」

「ところで他のメイドさんは?メイドカフェって言うくらいだから、何人か

いるんだろ?メイドさん・・・」


「私ひとりです・・・ここは一般のメイドカフェとは違うんです」


「お客様のことをご主人様とも言いませんし、萌え萌えなカフェとは違います」

「萌えじゃなく癒しを求めて来るお客様にゆとりの時間を過ごしていただく

ための大人のカフェです」

「このカフェはもともと吉村様がオーナーをなさってたんでけど、吉村様が

お亡くなりになってからは、吉村様が懇意になさってた三枝さえぐさ様と言う方があとを引き継いで経営なさってるんです」


「そうなんだ・・・」

「でも・・・君の居所が分かってよかった・・・これから時々君に会いに来ても

いいかな?」


「はい、実は私も、あなたのことは気にしていましたから・・・どうぞいつでも

お越しください」


「そうだ・・・僕は以前、花梨が言ってた吉村さんの死について調べてみようと

思ってるんだ」

「少しでも怪しいところがあるなら放っては置けないからね」


「そうなんですね・・・私、そのことも気になっていました」

「いい機会です・・・よかったら私もお手伝いさせてください」


「いや、君はこのカフェがあるだろ・・・無理しなくていいから」


「いいんです・・・必要な時はカフェを閉めますから」


「そんなことしていいの?」


「いいんです・・・カフェを開けてる時だけ、お客様が来てくださったら・・・」


「商売っ気のないメイドさんだね・・・お客さん離れちゃうよ」


「今、お店に、ひとり素敵なお客様がいらしてますから、いいんです」


つづく。

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