おためし地獄

@akisuke3

第1話 モノローグ

私は今、地獄行きの電車に乗っている。ここでいう地獄というのは、ごく一般的に使われるような、”地獄のような訓練”だったり、”雰囲気が地獄だった”などという生易しい表現では決してない。端的に言うと、「比喩でなく」ということだ。そして、こんだけ偉そうに説明してなんだが、実は私も地獄についてよく知らないのだ。非常に高揚している。いかんせん、天国とはいったいどんなものなのかという想像は、よく芝生の上に寝ころびながら考えたものだが、地獄というのは考えたことはない。天国では、一日中寝て、たまに懐かしい人と会う、そしてゲームをするなんてものを想像しているので、天国の反対が地獄ということは、一日中覚醒状態で孤独に労働をするなんて言うものだろうか。そうだとしたら、えらく現実的なものである。なんなら、月1で行くといい刺激になるのではないか。さて、こんなくだらない妄想もやめ、ここで私の自己紹介をしよう。私は小さいころから霊は見えない。大人になっても霊など見えない。親が黒魔術的なものにはまっているとか、飼い猫がしゃべるなんてこともない、ごく平凡な人生を送っている。見つけようと思えば、私の影武者などごまんといるような感じである。なんなら今日も通勤する途中で。なんて言ってある間に、電車が減速し、車内が揺れる。といっても乗っているのは現在私一人だけで、揺れているのは私の視界だけだ。ゆっくりと停車する。さあ誰が来るのか。ドアの窓越しに、顔が見える。いたって普通の会社員といったところか。ドアが開き、こちらを見つめながら入ってくる。見た目としては、中肉中背、顔は普通としか言いようがない。しいて言うなら頭のてっぺんが少し薄いことかな。黒縁の眼鏡をかけ、手には革のバッグを提げている。改めて言うと、普通の会社員だった。

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